第281話 段取。
「私がこんなにも好調の時に限って揃って来てくれるとは、お前達はなんとも運がない……」
私がボソッと呟きを発すると、眼下に居た全体的にシャープな形状をしている『風竜』の成体が一人、私へとクルっと顔を向けて驚いた表情をしていた。
──ギャウッ!
──と言う一鳴きによって、周囲に居る仲間達に私と言う『敵が上空に居るぞ!』と教えたのだろう。
だが、生憎とそうするだろうと読んでいた私はすぐさま【転移】を使い、彼らのやや斜め下側に移動すると、彼ら全員を捉えられる位置へと来た。
そしてその位置から私は、全ての羽トカゲ達が一斉に上空へと顔を向けて隙を晒している姿が見えたので、その隙を活かして同時にその全員の首を吹き飛ばす。
「…………」
……やはり調子が良いらしい。少ない魔力でも良い魔法が放てる。ノリも良い。
魔法の出力もすんなりと上がると言うか、思った通りに魔法が扱える上にキレも鋭かった。
今の私はそこそこに強いらしい。
これならばこいつらにも負けはしないと確信を得る。
私は、首を吹き飛ばしたはずの羽トカゲ達を見つめると、魔力で精密に探知し、その半分程が咄嗟に防いだことを知った。
だが、それで防げたとは言っても致死には至らなかっただけで、そいつらにダメージが入らなかったわけではない。確実に怯んで、こちらの位置を把握しきれないでいた。
なので私はその隙を活かして、落ちていく半分の羽トカゲを【空間魔法】の収納に入れながら、今度はもっと丁寧に的確に、一人一人を確実に仕留めていこうとする。
──だが、その時突然。
私は急に奴等の雰囲気が不思議な変化をしたのを感じたのであった。
そして、視ればやつらの中で一体だけ、こちらを爬虫類特有の眼で確りと捉えている個体居る事を悟ると、その不思議な雰囲気もその個体が発している事に気がついた。
……あれは良くないものだ。
どこか『モコ』にも似た気配を感じるが、それだけではなく、なんともジメジメムカムカする淀みの気配を感じる。ハッキリと言おう、一目で嫌いになった。
『ただのエルフの分際で……よくもここまでやってくれたものだな……』
すると、その個体は周りの羽トカゲ達と同じ風貌をしているにも関わらず喋り出した。
そして、その個体の身体には段々と黒墨が浮かび始めて変化していく。……これは、なんだ?いったい。これも私の知らぬ何かであるらしい。
『貴様みたいなのが居るとはな……あの場所に魔力が満ちている事とも無関係ではあるまい……恐らくは貴様がッ──』
だが、そうして喋り続けている『お馬鹿で異常な黒墨風竜』の首を、私はちゃんと切り落とした。……危ない危ない。急に喋り出すから少しだけ驚いてしまったが、私がそんな隙を見逃すはずが無いであろう。
何か急に不自然な時間稼ぎをし始めて、その時間経過と共に奴の身体の黒墨が広がっていたから絶対に『何か』をするつもりだと判断した。当然、その『何か』が起きる前に攻撃しておいたのである。待つわけがない。
世の中には、時として戦場でもこういう『俺、今から本気出すから』と態々伝えて来る勘違い者が居るけれど、私からするとそんなのは二流も二流だ。
真面に相手をして話をする時間も価値もない。
演劇をしているわけではないのだ。やりたいなら余所でやりなさい。
戦場に立つならば、その時その時の最善を尽くす事と、万全を期すのは当然の話である。
……もちろん、それを怠った結果どうなろうとも、そんなのは勘違いをしている本人の責任であると私は思った。
──だが敢えて、そんな者達に私から送れる忠告があるとするならば、『準備運動は大事だ』と言う事だけであろうか。……さようなら、お馬鹿な『何か』よ。
調子の良い今の私に、そんな油断は一切ない。
冒険者として、君達を如何に綺麗に素材として使えるか考える余裕すらある。
さてさて、残りの半分の『風竜』達が大勢を立て直し、バラバラに散開して倒し難くなる前に、出来るだけその数を減らしておかなければ……。
そもそもの話、なんでこいつらは自分達の『良さ』を殺して襲い掛かって来ているのだろうか。
これだけまとまって移動していたら、そこを狙われるのは当たり前の話である。
先ほどの話しかけて来た個体が、変に賢かったのかは分かるけれど、なんとも中途半端な敵であると私は思──
『──ああ、傲慢が過ぎる。傲慢が過ぎるぞ!このエルフめッ!』
『──ついつい、先ほどのは油断してしまったか?』
『──嫌になる。これだから耳長族と言う種族はいけない』
『──やれやれ、話一つ。満足に聞けないとは思いもしなかった』
『──これは処理せざるを得ないか?』
『──そうだな。こやつらはもう要らないだろう』
『──小手先は要らぬらしいからな!全力で潰してくれよう!』
『──説き聞かせてやろうと思ったのだが……なんとも馬鹿なエルフだ』
するとだ、残りの羽トカゲ達へと止めを刺そうとした途端に、またもや突然何体かの羽トカゲ達が再びあの嫌な雰囲気を纏いだした。……なんだこれは。
そのまるで便乗するかのような登場の仕方に、私は内心で強い不快感を得る。
それにだ。彼らも全く学ばないらしく、何故か登場して暫くは必ず会話から入りたい様で、私はそんな一人一言だけ聞いた後に、スパスパッと容赦なく首を飛ばしてやったのであった。……本当に何なんだ君達は。
恐らくは良くない何かが『風竜』の中へと勝手に入り込んだのだろうとは思うが、多少魔法抵抗が上がった所で、防げるような魔法を私が使うわけがない。
これだったら、最初から四方に別れて襲い掛かられた方がどれだけやり辛かった事か。
それも喋っている間は動きも止まっているので、狙いやすい事この上ないし、隙だらけだ。
まだ普通の風竜達の方と戦った方が苦労したまである。
本当に良くわからないけれど、この『何か』達は碌なものじゃないと私は心の底から思った。
『モコ』達の様に、更に奥に本体が隠れていると言う訳でも無いようであるし、その『何か』達は羽トカゲ達と一緒にそのまま消滅したのである。
……恐らくは雰囲気にも差がある事ので、奴らにも別々の意思があるのだとは思うが、いったい何の目的があって来たのか。正直考えても良くわからなかった。
──そうして結果的には大した被害も無く、残りの羽トカゲ達にも止めを確りと刺し終えて素材を確保した私は、エア達が目を覚ます前にのんびりと『土ハウス』へと【転移】で戻るのであった。
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