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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第277話 三様。




 私とエアとバウ、私達三人は三人共、空を飛ぶ方法が異なった。



 私は純粋に魔法で飛び、エアは『天元』に風の魔素を通す事で駆け回り、バウは『天翼』で空を掴んだ。


 その中で、もっとも効率が悪いのは魔力と魔法によって空を飛ぶ方法である。

 私以外の二人は、一度空へと出れば、その先は己の思うが儘に空を進む事が出来るのだ。


 当然、そこにはある程度の技量が必要と言う前提がついては来るけれど、今のエアならばほぼほぼ問題なくその前提は達成しており、バウにおいてもまだまだ体力的な面で不安が残るものの、長距離でさえなければ普通に飛ぶ事は充分に可能なのであった。



 ……だがしかし、そんな二人の能力は、とある条件下において、空では逆に大きな枷ともなる。

 普通に飛ぶ分にはなんの問題も無かった二人であるが、それがほんのたった数千メートルから約一万メートル上昇するだけで、だいぶ動きが違って来るのだ。


 そして、私たちが今居るのは、だいたい地上から約十キロメートルの地点、辺りは寒く、空気も薄い環境。

 ただ飛ぶだけであれば、空気の抵抗が無い分だけかなりここの方が飛び易くはあるのだが、この環境においては絶望的な問題として、地上と比べて魔素が大きく不足していた。



 それによって、二人の『天元』と『天翼』は、何とか『飛ぶ』と言う行為を補助してはいるけれど、若干の機能不全を起こしかけている。


 当然、私としても、魔力のスーハ―が使えない為に大変な状況であることには変わらないのだが、そもそもの保有魔力と、予備として『ドッペルオーブ』あれば、私は何処であろうと問題はなかった。


 因みに今は、二人の先導役として、空で仰向けになりつつ楽な態勢をとって、後から私を追って飛んできている二人の様子を眺めている感じだ。



 本来であれば、この高さまで来ることなどそうそう無い。何も無いからである。

 だが、訓練をするのであればこれほどの高負荷の環境も中々ない為、エアの訓練用とするのであればとても良い場所ではあるし、バウにとってもこの環境で飛べるならばどこに出しても恥ずかしくない一流のプニプニドラゴンになれるだろう。



 ただ今回の場合、ここに来た理由として最も大きいのは、私が以前に『原初』を見かけたのがこの高さだったので、それならば訓練がてら最初にこの高さまで上昇し、それから飛んで探す事にしようと提案したからである。


 最早、雲よりも高いこの場所において、二人は眼下に見える絶景など一切気にする余裕も無く、ただただ私の後を追って必死に飛翔し続けていた。……まだ少し早かったかもしれないとは正直思うが、二人にとってはこれも良い刺激になるだろう。


 当然、無理はさせるつもりは毛頭ない。

 もし私が『無理だ』と私が判断したら、直ぐに二人の事も私が魔法で運ぶと約束してある。



 それでも良いと、自分達の力でついていきたいと言った二人の気持ちを尊重をしているが、安全を考慮し、そのラインだけは確りと守って貰うつもりだ。


 ……因みに、『飛翔訓練』であるので、二人の身体の守りと呼吸の補助などは私が責任をもって安全を保っている。自分の事よりも、二人のバイタルチェックの方に集中している私だ。




 だが、それだけの補助がありながらも、二人はただ『空を飛ぶ』と言う、その身に親しんだ筈の行為が上手く出来ない状況に足掻いていた。

 どうにかしようと、必死に何かコツでも掴もうと『天元』と『天翼』に周囲の少ない魔素を掻き集めて通し、循環させて動かし続け、エアは空を駆けバウは空を掴み続けた。



 ただ、見ているとよく分かるのだが、二人ともどうにもまだぎこちない感じが拭えていないようだ。

 その表情からは、上手くいかない焦りみたいなものが段々と募っていくのを感じる。


 もう少しで、きっと私に『無理だ』と判断されてしまうと、本人達も分かっているのだろう。

 ……もちろん、その際には容赦なく、幾ら駄々をこねられようとも即魔法で運ぶつもりだ。



 もともと、この環境は、いきなり上昇してこれる場所ではないのである。

 段階を踏んで、環境に適応しなければ簡単に体は異常をきたす。ちょっとした無理でさえ禁物だ。


 ただ、普通に順応するのを待つとしたら、よほど高い山にでも行き、そこで暫く過ごさねばならなくなる為、今回はこのような形を取っているという訳である。



 一応、今の二人の周囲は地上に居る時とほぼほぼ変わらない位を保てていると思う。

 だが、周囲の魔素の異常な少なさのせいで、今の二人は自分の身体が思った通りに上手く動かせない、どこかむず痒い様な感覚と必死に戦っている事だろう。



「…………」



 エアもバウも、真剣な顔で、必死に付いて来ていた。

 ……その顔を見ていて私は少しだけ思う。

 これは二人の意思で付いて来ている事だとは言え、私は二人にそうするように結果的に強いてしまっているのではないだろうかと。


 友は言ってくれた、『私がそのままでは、いずれまた周りが誰もついていけなくなる』と。

 そんな言葉が、私の頭の中にふと強く残る。


 この二人ならばいずれ、そんなものは『杞憂だよっ!』と笑い飛ばしてくれそうな気はするが、私も二人の頑張りに甘えるばかりではいけないと思った。もっと気を付けて、二人をみていく事にしよう。


 再び、友から大事な教訓を得たと思う。大事にしたい。

 それに、この二人ならば、いずれちゃんとこの環境にも慣れて、自由に飛び回る様になるに違いないとも思っている。

 私はその時が来るのを楽しみに待ちながら、今日の所は友の教訓に従い、真剣に頑張っている二人を無理寸前だと判断して魔法で回収していった。



 ……ん?もう少し大丈夫だったって?ダメです。だーめ。うん。ごねは効きません。

 約束通りに今日はここまでです。うむ。そうそう。また機会をちゃんと作ってあげるから、その時に頑張ろうな。



 ──そうして結局、途中で回収され『ぐぬぬー』と悔しそうにする二人を両の腕で抱えながら、私の内心は自然と微笑ましさに包まれるのであった。




またのお越しをお待ちしております。

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