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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第276話 天然。




「では『原初』へと向かおうか」


「うんっ!」


「ばうっ!」



 寒さが厳しい季節の間、『白銀の館』にて私達はのんびりと過ごした。


 その間、私たちは次なる冒険の準備を進めながら、屋敷の皆と共に色々な『改良』に励んでいたのである。


 その色々の中身は、例えば屋敷そのものの防犯対策であったり、『第三の大樹の森』に作った畑を広げたり、冒険者組と剣闘士組との戦闘訓練だったり、魔法道具組と既存魔法道具について相談し新作の魔法道具開発したり等々……まあ、そんな感じであった。



 それだけの事をしていたら、気づけば月日は経過していて、芽吹きの季節へとあっという間に移り変わっていたのである。早いものだ。


 そうして旅立つ私達は、屋敷の皆とまた暫しの別れを告げ、一路『原初の森』へと向かって歩き始める事にしたのである。




「──それでロム。その『原初』ってどこにあるの?」



 そうして、歩き始めた私達にとって大事なのは先ずは行き先である。

 街を出て暫くはそのまま真直ぐに歩いていたが、その途中で隣に居たエアは私へとそう尋ねて来た。


 その顔はいつも通り私が目的地を知っているだろうと、とても無邪気に素敵な笑顔で尋ねてきている。

 だがしかし──



「──いや、実は、私にもその場所はわからない」


「……えっ?」



 そう。今言った通りに、私は今の(・・)『原初』の場所を知らなかった。

 つまり今回は、少々出だしから躓き気味であるという事である。



今の(・・)って事は、『原初』って、移動しているって事?」




 そう。エアが言う通り、実は『原初』は動く。

 あそこは少しだけ特別なのか、大地の一部が空をのんびりと飛んでいる。

 そして、常に風に吹かれて色んな方向へと飛んでいる為に、捉えるのが中々に難しいのだ。

 この寒さの厳しい季節の間、各地の『大樹の森』を通してずっと探して視ては居たけれど、全然見つからない程には困難だった。



 不思議な話だが、風に流される雲の様に適当に流れて行くのに、ちゃんとあの『空飛ぶ大地』はいつも各地の『里』に住む者達の場所を勝手に巡っていたのである。

 そして、私たちは暫くその地の上空に留まるとまた適当に次の場所へと飛んでいくまで、その地の『里』と交流を育んでいたのであった。



 ……そう。かつて『原初の森』と呼ばれていた場所は、各地の『里』にとっても大きな意味合いがある土地であったのだ。

 その場所は各地の『森と森を繋ぐ場』としても知られ、森に連なる者達が行き交う為の居留地にもなり、ある種の交流の中心地でもあった。



 『森に生きる者達の為に移動する森』、あの場所が何の『原初』なのかは未だに分からないけれど、昔を知る者達は皆、あの場所をそう呼ぶのである。



 ……だが、そんな場所もとある日から、無くなってしまったらしい。

 森を巡る事も無くなり、森を繋ぐ空飛ぶ大地はただただ流され、私が見つけた時には、とある海上の上、それもかなりの高空にて、ただの広い砂漠の大地と化していたのであった。


 そして、どうやら森を失ったその大地は、完全に機能を失い、目的も無くただ流されるだけとなっていたのである。……私はその光景を一目見て、何も出来る事はないと悟った。




「空、飛んでるんだ……」


「ああ、そうだ」



 エアは『空飛ぶ大地』と聞いた瞬間から、スゥーーっと息を深く吸いこんで、少しだけワクワクとした顔を浮かべた。……おや。これはまだエアに話したことが無かっただろうか。



 だがまあ、ここまでの話だけ聞けば凄く感じられてしまったかもしれないけれど、この話も決して良い事ばかりとは言えなかった。悪い点も当然ある。


 きっと私はその悪い点を鑑みて、これまでエアへと詳しい説明する事を省いていたのだろう。

 ……隠す事でも大した話でもないのだが、何となく話しにくい話ではあった。


 憧れているエアにこんな話をする意味があるのかわからないけれど、これも事実だと思って語る事にする。



 『原初』の悪い点とは、先ず前提として、いつ、どの森の近くまで飛んでくれるのかが不明な所であった。

 この地は皆が望んだ場所へと行けるわけではないのだ。どれだけ望まれても一度来たらもう二度と来ないという事も多かった。その事に不満を持つ者は多かったのである。


 その上、空を飛べる者達にしか辿り着けぬ地という事も相まって、魔法を使えない者達からの不評も大きかったのであった。



 ……正直、仕方のない話で、不満を言ったところで、何かが変わるわけでもない。

 その不満で『原初』が行き先を変えるわけでもないし、ただただ不満を言うだけ無意味であろうと、私も当時は思っていた。



 この地はこう言うものなのだと、そのままを受け入れればいいだけの話なのにと思ったものだ。



 恩恵は目の前にあるのだ。それを大切にすればいいのにと思った。

 だが、それが無くなる時まで、不満を言い続けていた者達は気付かなかったらしい。


 それがどれだけ凄いもので、自分達にとって、それがどれだけ大切なものであったのかを。


 ……ただこれは、誰かが悪いという話ではない。



 本当の意味では誰も、理解できていなかった。

 気づいた時には、全てが手遅れになっていたと言う、そんな後悔の話である。



 完全に行き来がなくなった今となっては、不満を言っていた者達の反応はすっかりと変わった。

 そして、不満を言わなかった者達も、本質的には彼らと同じに思った。



 皆、遅まきながらに気付き、後悔したのである。


 『あの場所は特別だったのだと、あるだけで良かったのに』と。

 『無くなると知っていれば、何かしらの手を打っていたのに』と。

 『無くなってしまった今になると、凄く寂しい』と。


 私はそんな話を、各地を旅する中で、何度も聞いた。




 ……まあ、そうは言っても、それらは全部過去の話だ。

 何百年も昔の、今ではもうどうしようもない、そんなただの昔話なのである。



 そんな後悔は、ちゃんと活きているのだろうか。

 ……まあ、何にしても大事なのは今、何をするかではある。



 今回、私はエアの気遣いもあって、そんな『原初』へと再び向かう事になった。

 それに、寒い季節の間終ぞ見つからなかったその場所を、私たちはこれから飛んで探す事になるのだ。初の超遠距離探索飛行である。



「これから飛んで探すの?」


「ああ、そうだ。できるかな?二人とも」


「うんっ!もちろんっ!飛ぶのはもう得意だからっ!」


「ばうっ!」



 これまで、散々飛んで来たエアであるし、飛ぶ事に掛けては『天翼』を持つ一族であるバウでもある。

 二人は、『飛んで探すくらいなら大丈夫でしょ!直ぐに見つけちゃおう!』と張り切っていた。



 ──だがしかし、二人はまだまだ『飛ぶ』と言う事の奥深さを知らないと見える。

 私はこれから先の展開を想うと、一人内心でニヤニヤとした笑みを浮かべるのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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