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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第274話 離合。

2020・08・12・微修正。






「エア、直ぐにここの街を出るぞ」



 私はエアの手を引きながら、外へと通じる門へと急いだ。

 エアはまだ少し状況の変化について来れていない部分はあるものの、探知を使って何が起きてもすぐに対応できるようにしながら、確りと走り続けている。



 外は人混みが酷くそこまで速くは走れないが、それでもまだ小走りで十分に間に合うだろうと判断し、私達は駆けだした。

 それとバウには小走りでも私の抱っこが痛くないかと確認しておく。

 『どうだろうか、乗り心地は悪くないかな?』「ばうっ!」……そうかそうか、平気か。

 もう少しで外へと行けるからな。バウも少しだけ我慢して待っていて欲しい。



 途中からはエアとは手を離し、エアは集中すると段々と髪を『緑』へと染めながら最小限の動きで人混みを回避し始めた。

 あくまでも小走りで周りの人にはぶつからないように私達はすり抜けていく。

 本当は空を飛んでもいいのだが、それだとかえって目立ってしまうから、それはあくまでも最終手段の逃走方法である。



 一応、私は魔力の探知で、友がもう一人の友(淑女)に報告しているのを視ていた。

 ……友(淑雄)も元気そうで一安心である。


 そこで、序でに挨拶代わりとして、彼女にも魔力で私の気持ちを伝えておく事にしよう。

 ……ええと、『こんにちは──』



「…………」



 ──ふむ。よし、ちゃんと送れた、らしい。

 ……だがしかし、これはどうやら失敗だったようだ。いや、送らない方がまだマシだったかもしれない。


 私はただ、『久しぶり』『元気そうで安心した』『これからも二人で頑張って』と伝えただけなのだが、なんか友(淑女)がそれのせいで突如として怒り始めてしまったのである。……なんでだ。



 直接彼女と相対している友の方は、『……ロム、余計な事をするな』的な表情で、若干顔に汗を浮かべつつ、こちらをジトーっとした視線で睨みつけてきていた。


 だが、当然そんなに明確にも顔を向ければ、それは彼女の察する所にもなり、『そっちねっ!ロムは今、そっちにいるのねっ!!』とバレてしまったのである。……あらら、これは。




 おいおい、友よ。

 それはいくらなんでも、流石に迂闊ではないかな?居場所がバレてしまったのだが。



 だが、そんな私の心の声が聞こえたわけでもないだろうに、友は『お前には言われたくない』とそこでボソッと返事をしている。……どうやら、私が視ている事を察し今の考えを読まれたらしい。



 これだけ遠距離で離れて居ても、ちゃんと会話が成立しているのがなんとも面白いと感じる所だが、こうなっては流石に逃げきれまい。

 それに、このまま地上に居ては、周りにも迷惑がかかってしまうかもしれない。



 ……とするならば、上に行くしかないか。



 そう判断した私は、バウには背中へと回って貰い、エアを魔法で浮かべると横向きのまま掬い上げて抱っこして、自分達の周りにだけまやかしを施しながら一気に空高く飛翔することにした。


 ……これで、王都の人々は異変には気付かないだろう。

 あとはこのまま空をのんびりと飛んでいく事にしようか。



「ろ、っ、ろっむっ!!」



 ──ただ、いきなりの事だったので、少しだけ舌を噛みそうになっていたエアには悪いと思った。

 ……すまない。驚かせてしまったようだ。



 そこで私は、エア達にも今の内にちゃんと説明をしておく事に決めて、話し始めた。

 

 とりあえずは、二人には私の傍で確りと掴まって、離れないように注意して欲しいと伝える。


 そして、『これから私はきっと攻撃されると思う。ただ、それに対しての反撃はしない。相手は友だ。それにその攻撃は、私にとってはお別れの祝砲みたいなものである。それに、友の技量は私でも理解が及ばない分野の話でもあり、大変に珍しく見事でもあるので、エア達にはそれを確りと見学してもらい、こういう魔法使いもいるのだという事をちゃんと知って欲しいのだ』と言う風に伝えた。



 今回の事もエア達にとっての経験の一つになればと、学びに変えてしまおうと私は考えている。

 二人にはこれから攻撃をしてくるであろう相手についても、先ずは話しておく事にしようか。


 そうして、もう一人の親しくしている友(淑女)についての話を私は始めた。



 先ず、友(淑女)とはどんな人物かと問われれば、『万人がエルフに抱くであろう想像、そのままに生まれてきた女性』なのではないかと思われる様な人物である。


 その容姿はこの世の神秘とまで言われる程に美しく、傲慢が服を着て歩いていると言われれば真っ先にその怒った頭が浮かんで来る程に、その性格は苛烈な部分もあった。



 だがそれは、彼女が有する能力の高さと、そこから来る責任感の強さ、そして正義感と気高さが故である事を、仲間である私達はちゃんと知っていた。とても立派な人なのだと。


 そして、彼女の事を知れば知る程に、『凄い人だ』と誰もが思うようになり、憧れるようになる。

 私もそんな彼女の事を当然誇らしく思っているのだ。



 また、彼女は弓の達人でもあり、本人の特別製である『極短白弓』と言う、短弓の半分も無い様な、一件ただの幼子の玩具の様な白弓を用いた攻撃は、正直言ってとんでもない。


 その技量の高さと不思議な高火力は、武器や道具を用いる冒険者であれば一度は目にしておくべきだと私は個人的に思っている。




 ──パキンッ!!



「──おっと、早速来たぞ。……凄いな、初撃は全く感じ取れなかった」



 【不可視化】を施し見え難くされた高速の一撃……そんな容赦のない魔矢が突如として引かれ、気づいた時には私の背後数メートル先に用意しておいた防御魔法が穿たれ、罅を開けられていた。


 羽トカゲのブレスくらいならば簡単に弾く防御なのだが、一点集中の強みが出たのか、軽々と罅が入ってしまったのである。……なんとも恐ろしい。



 防御の魔法を完全に貫かれる事こそ無かったが、その罅の場所へと的確に二射目三射目を寸分たがわず狙って来るのだから凄まじい話である。……流石のエアも、これほどの遠距離で行われているその技量の高さに大きく目を見開いていた。



 これは、もう少し魔力を込めて強度を上げておく必要があるだろう……まったく。



 未だに、なんであの玩具の様な白い弓でこれだけの威力が出るのかはさっぱりと分からない。

 だが、この国の王城の一角と思われる場所から『あの馬鹿!あのバカ!ロムのばかっ!落ちろっ!落ちてしまえっ!!』と一発一発罵声込みで矢を撃ち込んで来る彼女の元気な姿と、その彼女の隣で、彼女が飛ばす為の矢を『やれやれ』と言った顔をしながら、仕方なくも作って手渡している友の姿を視て、私は思わず苦笑するのであった。



 ……本当に、なんて攻撃をしてくるのだ君達は。

 これが友にしていい攻撃か?正直に言えば、とんでもない威力なのだぞ?防ぐ方の身になって欲しいものだ。



 暫く会わない内に、どうやら彼らもまた一つ腕をあげたらしい。素晴らしい事だ。

 それに、一見するとただ『魔力の矢』を作っているだけに見える友にしても、何が『俺にはもうお前の力は測れない。一人で先に行くな』だ、と抗議したくなる。


 正直言って、友(淑女)に『仕方なく付き合わされています感』を装ってはいるけれど、彼がそんな殊勝なだけの男ではない事を私は知っているぞ。私の目は誤魔化せない。



 あいつが微妙に矢の魔力配分を変えながら作っているその『魔矢』だが、何やら傍では確りとメモをとっており、密かに『魔力の矢』を使った時の効果と威力等のデータを取っている事はこちらもちゃんとわかっているのだからな!……まったく、私を都合の良い実験体に使いおって……もう。

 油断も隙も無い二人組である。



「……ロム?楽しいの?」


「ん?……ああ、実は少しだけな」


「そっかっ!」



 だがそうして、攻撃を受けながらではあったが、エアが気づいた通りに私は少しだけ楽しかった。

 もちろん、攻撃された事を喜んだわけではない。


 あの二人が、ああして一緒に居る姿を視られて、その姿に心底安心したのである。

 幼い頃からやんちゃで、常に皆の先頭を走るリーダー的な役割を喜んでやっていた友(淑女)と、その補佐役として常に皆を支えてくれた心優しき友。



 あの二人の存在は私にとってはかなり大きい。

 彼らの存在があるからこそ、私もまだまだ頑張らねばと思える部分もあるのだ。


 ……ありがとう。いつも急に来て、急に去る事しか出来ぬ私をどうか許して欲しい。

 いつか、私の旅が終わる様な事があれば、その時には、また君達の元へとちゃんと挨拶しに戻って来る事にしよう。



 その時には、今度はゆっくりと、昔の思い出でも語り合いたいものだ。



 暫く逃げ続けていると、流石に弓の有効射程から逃げられたのか、友(淑女)からの攻撃が完全に届かなくなった。

 それを見計らって、私は友二人へと向け、かつてと同様に魔力で『……また会おう』と伝えてから去っていく。



 すると、その瞬間に二人はこちらへと顔を向けると、二人揃って、かつてと同じ様にこう返してくれたのであった。



 『元気でな、長生きしろよ……』と。




またのお越しをお待ちしております。

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