第273話 類似。
2020・08・11・微修正。
「……もう行っちゃったね。もっと話さなくて良かったの?」
エアは私の顔を覗き込むと、そう尋ねてくる。
どうやら私がまだ話し足りなさそうにしている事を察してくれたらしい。
だが、そう言っても仕方のない事はあるのだ。
向こうは忙しいし、私達もやる事がある。これからは更に忙しくもなるだろう。
結果的には何十年かぶりに会えて元気そうな顔を見れただけではあったが、それでも充分だった。
「……あの人、ロムと似てた」
すると、隣にいるエアはそんな事を言ってくる。
だが、私からすると彼が似ている部分など皆無に思えて、類似点など一つも見つからなかった。
だから、私は『そんなことはないだろう』と言って、首を横へと振る。
「ううんっ!『君』って言い方とかそっくりだった!あと他にもいっぱい一緒だったよ!」
……なるほど、話し方の部分だろうか。確かにそれならば少しあるかもしれない。
人と人が関係する中で、自然と話し方だったり、振る舞い方だったりが似てしまう事はよくあることだ。
あの人がこうしていたから、こんな話し方や表現をしていたから、それを自分も『良いな』と感じ、使ってみたくなったり、気づかぬ内に自然とうつっていてその真似してしまっていたりする。
それは、一種の敬意や憧れに近い感情なのだろうと私は思った。
それ自体は決して悪い事ではないだろう。
心に残る忘れられないセリフだったり、行動だったり、忘れられない表情だったり……。
私が友二人から得た教訓とは、まさにそればかりだ。
その教訓の数だけ、私は彼らから胸を打たれる何かを得てきたという証なのである。
だから、それだけの影響力がある二人のちょっとした言葉や仕草が、私の行動にもうつってしまっていても私的にはなんら不思議はなかった。
……だが、そこを誰かから改めて指摘される事は、ちょっとばかしこそばゆい事ではある。
少なからず私は彼らの事を友として尊敬しているし、好意的に思っているのは間違いがないのだが、それを表に出すか秘めたままでいるのかは、それとはまた別の話なのだ。
つまりは、私と彼は友であり、対等な間柄で居たいという気持ちがある。
だから、片方がもう片方に『実はお前の事を尊敬しているのだ』と態々言うのは、なんか少し違うと感じてしまうのだ。……まあ、この微妙な間柄と距離感が、一番私達にとっては居心地の良い状態であるという事であった。
なのだが……まあ上手く説明は出来ない気がする。
なので私はエアのその言葉に対して頷く事も否定する事もせずに少し斜め上を見たまま、沈黙を貫く事にした。
すると、隣でエアが私をニマニマと見つめている気がする。
きっとエア的には、もっと根掘り葉掘りと私達の事を聞いたり、その複雑で繊細な感情の部分の話を色々と聞いてみたいのだとは思う。……その顔はそう言う表情をしていた。
だがしかし、それらは答えようがないのである。だから勘弁してくれ。
それに、先ほど彼も言ってもいたが、そろそろ私達はのんびりしている事も出来なさそうであるし、この話はまた今度気が向いた時にでもする事にして今は近付いて来る別の問題へと気を配る事にしよう。
──と言う訳で、そうしたエアの興味や関心が芽を出す前に、私はエアへと待ったをかけて行動へと移る事にした。
「エア、すまないが今からは少し急いで支度を済ませ、全力でこの街から離れるぞ」
「──えっ?ろむ?」
『突然どうしたの?』とでも言いたそうなエアを促しつつ、私は説明もそこそこに宿の清算を終わらせると、エアの手を引いて足早に王都から抜け出すために駆けだすのであった。
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