第271話 錯誤。
「それで?何があったの?」
私達は今、大樹の森の中をのんびりと歩いている。
数年前に、同じ道を通った時には、後ろから精霊達がぞろぞろとついて来たけれど、今回はいつもの四人だけがついて来ていた。
そんな中で、バウをいつものように抱っこしたままのエアは私が話す昔話に興味津々な相槌を打っている。
私的にはそこまで楽しい話でもないとは思うのだが、エアが喜んでくれるのならばと言う事で、思いつく限りの事を語り続けた。
「その時、友は言ったのだ。『お前の考えには誰もついていく事はできない』と、『そんなんじゃ一人になってしまうぞ』と。だから、周りと仲良くなりたいのならば、『少しは周りと合わせるという事も、覚えてみてくれ』と友は私に教えてくれたのだ」
「へーーっ!」
エアに語っている話の専らは、私の友二人についてであった。
これまで教訓の話をする時ぐらいにしか、彼らの話はしていないと思うのだが、今回これから向かう先が『とある場所』と言う事もあって、エアは友二人の話を凄く聞きたがったのである。
……まあ、ここまで言えば想像もつく事だとは思うけれど、エアが次に行きたいと言った場所は、とある国の王都であり『友二人が要職として働いている街』であった。
もっと言うのならば、エアは私の話に出て来るその二人に前々から少し会ってみたいと思っていたらしく、今年の実りの季節から寒さが厳しい季節になるまでの、ちょっとしたこの間の日数を使ってその二人に会うために王都に行ってみたいと言って来たのである。
……そしと因みに、今回の『友二人が居る王都』行きの旅は、次の『大樹の森』を作る為の旅とはあまり関係していないのだ。
──と言うのも、最初は『第五の大樹の森』は何処が良いかと言う話もしていたのだけれど、その話をしている途中で、寒さが厳しい季節になったら『白銀の館』に帰る約束していた事を思い出し、『第五の大樹の森』を作る為の大陸選びの話は、またその時にでも話し合う事にしようと決まったのである。
森を歩くエアはとても楽しそうだ。
そんなエアを見ていると私まで楽しい……と、本来は言いたいのだが、今回だけは少し私は憂鬱な部分があった。
それは何かと言うと、これから向かう先の国と街が、私にとってはかなり因縁深い場所だったりする事が理由の一端にある。
羽トカゲを捕まえて、それを卸した際、殊の外そのドラゴンを気に入ったのか、この国の国王が『祝ってやるから、王宮迄来い』みたいな話を使者を通して伝えて来た際に、かつての私は丁度虫の居所が悪く『うるさい。偉そうにするな。用があるならお前が来い!』みたいなことを言ってしまった覚えがあるのだ。
そして、それからはもう、国の代表たる者を侮辱した罪やらなんやらで追いかけ回される事にもなり、別の国に逃げ込むまで追いかけられ続けて大変な想いをした事があった。
ただそんな事があっても、その事件自体がいつ起きたものだったのかは、もうあまり覚えていない。
ずっと昔の出来事の様な気もするし、最近起きた様な気もする。
……正直言って、心底どうでもよく、興味も無かった為に全く覚えていないのだ。
まあ、街に入る事はそこまで問題も無い筈である。
何十年前だったか、前回食料を買いに街に寄った際にも特に問題は無かった。
友二人の探知に引っ掛からない様に、魔力を抑える等の工夫はしていたが、それ位である。
「…………」
……ただふと、本当にこのまま会いに行っても大丈夫なのだろうかと、一瞬私の心には影が差した。
エアにこれまで話した色々な話に嘘や偽りは無く、そんな教訓を教えてくれた友二人の事を私は大切に想っている。
だが、私がそうだからと言って、友も同じように思ってくれているとは限らない、というのがその影の原因でもあった。
実はまだ、エアに話せていない内容が幾つかあり、これまでは敢えて話すまでも無いと思い、避けてはいたのだけれど懸念事項があった。
まあ、その懸念内容の一つを挙げるとするのならば……。
かつて、この国の王を侮辱し、不敬罪やらなんやらで私は追われる身となった訳なのだが、その際、他の国まで追いかけて来たのも、実はこの友二人だったりする。……あの時は逃げるのが本当に大変だった。
──だがまあ、そこらへんはもう流石に昔の事なので、きっと彼らも今ならば笑って許してくれる事だろう。
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