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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第27話 誓。



 

 冒険者時代、私がただの魔法使いだと言ったら、周りの冒険者達に笑われた事がある。

 私の時代は、強力な魔法使いと言うのがまだ世に中々存在していなかった。

 せいぜいが居ても夜営の時に焚き木に火を点けて威張ってるくらいなのだから、それはもう周りの冒険者達の反応も当然であったろうと今では思う。


 だが、当時の私はそれが許せなかった。

 もちろん魔法使いの事を馬鹿にされ笑われた事にではない。

 それに反論して証明してみせるだけの実力がまだ、自分には無かった事にである。


 森を出て、自分がここに居る為、存在理由は強くなることしかないと知った。

 剣を持ち振り回してみたが、その重さに振り回されるばかりの非力な自分の細く弱い身が悔しかった。

 頼りにしていた魔法が、敵との予期せぬ遭遇に焦って上手く発動できず、命からがら逃げだした時には絶望すらした。



 弱いという事は死に繋がる。生きる為に冒険者になった筈なのに。私の毎日は死に凄く近かった。




 でも、それでも負けるわけにはいかなかった。



 自分の腕力じゃどうしても倒せない敵がいた。私は斧にも頼る様になった。

 弱い自分一人ではどうにも対処が苦しい群れを成す敵が沢山居た。私は弓にも頼る様になった。

 私と言う弱い魔法使いは相手にされず、他に仲間を作るという事もしなかった。

 自分が目指すのはあくまでも個の強さだったからだ。



 だが、剣も斧も弓もどれも技量を必要とする武器だった。

 そんな技量の一欠片も見えないただ振り回すだけの愚者の剣。

 ヘロヘロでなんとか持ち上げ一度だけ振り下ろす為だけの虚弱な斧。

 ヒョロヒョロの矢で敵の嘲笑を浴びつつその注意を引き寄せる為だけの不器用な弓。



 だが、それらは全て魔法へと繋げる為の布石だった。



 私は魔法使いだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 ただ、私にとってそれのみが、たった一つ、人並みに出来る事でもあった。



 私は魔法使いだ。

 どんなに弱く、どんなに愚かで、何をするにも人一倍の時間がかかる。

 そんな不器用な私だったが、誰が何と言おうとも魔法使いだった。



 怯えながらも足掻き続け、生き残り続けた。

 負けない為に。

 目的の為に。

 想いだけは誰よりも高くもった。



 森の中、私は弱き牙をひたすらに、磨き続ける事しか出来なかった。

 ひたすらに魔力を使い続けた。

 毎日限界近くまで吐きながらも魔法を使い。吐きながら次の日の魔力を吸収するために森に居続けた。



 私は野生に生き、野生に生かされた魔法使いだ。



 そうして、時は流れ、私は少しずつ経験を重ね続けた。

 気づいた時には馴染みのその戦場に残っているのは、私一人になっていた。

 みんな戦いから身を引いて行った。


 それでも尚、数多の夜を越え、数多の敵を葬り、数多の魔法を使い続けた。


 私は魔法使いだ。

 自分にそう言い聞かせ、誰よりもそう在ろうとしただけの、そんな元はまやかし(虚)の魔法使いだ。



 だが、それらの果てに、遂にまやかし(虚)は実を得た。

 ずっと前から知っていながらも届き得なかった、『差異』へと、気づいた時にはそっちに一歩を踏み入れていた。



 その頃には失ったものも多かったが、それよりも得たものは大きかった。


 私は魔法使いだ。

 今ではそれが己の何よりも得意とするものであると知っている。



 そんな追憶と共に、私は、これからも魔法使いとして生きていく……。





 エアが少しずつ魔法使いとして力をつけていく姿を見る度に、私は昔の事を良く思い出すようになった。

 冒険者の血が騒ぐと言えば多少は格好も付くのだろうが、何せ未熟な頃の私と来れば、それはもう酷くて酷くて酷いものだったので、思い出す度に頭を抱えて蹲りたくはなっても、胸を張って私はこんなにも凄かったのだと言える事が殆どないのである。



 私は自分が『差異』へと至ったと気づいた時に、精霊達の声を聞き、その姿が見えるようになって、私は冒険者を止めてしまった。そこへと至るのが私の目標であったからだ。

 だから、結局自分がそこそこの腕前となってから何か大きな功績を遺したとか、依頼を受けて何かを討伐し誰かから賞せられたなんてことが、全く一度も無かった。



 唯一それになりかけたのが、高級干し肉の時の肉質柔らか羽トカゲの案件だったのだが、あの時は色々ともう頭に来ることがあり過ぎて、そこの国の王が何やら招待するから城に来いと言って来たのに対し、『用があるなら貴様が来いっ!徒歩でなッ!!』と言って使者を追い返してやったら、その国の兵士から追い回される事になったので、逃げた。……それからその国にはあまり近づかないようにしている。



 今まで度々冒険者時代の事をエアには話してきたので、彼女ももうそろそろ察していると思い、私は話の流れでエアに自分が冒険者時代はかなり血の気が多かった事を告白した。



「なんとなく気づいていたか?」


「うんっ!どらごん、きらいなんだなって思ったっ!」



 大正解である。干し肉に変わるまでは奴等は敵だと私は思っているのだ。

 ただ、そんな良い返事で返されると、正直汗顔の至りであった。


 まあ、そんな訳で昔とは違い大分丸くなったとは思うのだけれど、まだまだ先の話とは言え、もし一緒に冒険者になった時に私が怒ってそうだな?とエアが思った時には、一言声を掛けて貰えれば助かると私は彼女にお願いした。


 私もだいぶいい歳をした大人であるから、まあそんな事態は万が一にも起こらないとは思う。

 ただ、一応保険として今の内から言っておこうと思ったのだ。まあ大人ですから基本は冷静にね。エアに経験者としてカッコいい所も見せたいですから。ええまあ。



「うんっ!だったら、じょうか掛けてみるっ!」



 浄化か。それはいい考えだと私も思った。

 まあ、殆ど使う機会はないとは思うのだけれど、数年に一回あるかないか?くらいじゃないだろうか。

 依頼がとんでもないものだったりとか、こっちがちゃんとしっかりやったのにごねてくるだとか、エアに絡んで来る馬鹿な輩がいたりだとか、羽トカゲが襲って来る又は奴等を見かける又は鳴き声や気配を察知する、みたいな状況にならない限りは、早々使う機会など来ない筈である。

 だからもしそうなった場合には、落ち着かなければいけないと互いに判断したら、浄化を掛け合う様にしようと私はエアに提案した。



「うんっ!がんばるっ!!もっと一日にいっぱい使えるように、れんしゅうしなきゃっ!」



 フンスッ!とどこか気合を入れて魔法の練習に取り組みだすエアの姿を見て、私は思った。

 あれこれ、全く信用されてないのではないかと……。いや、いいやいや、そんなわけがない。


 そんな私達のやり取りを見ていた周りの精霊達が、私の身体へと『どらごん除け』と手書きで書いたお札をペタペタと沢山貼り付けて来るのを見て、私は静かに『もし羽トカゲを見つけても、絶対に怒らない』と決心したのであった。



またのお越しをお待ちしております。




前話の途中に、ちょっとした遊び心と普段読んでくださっている方々やブクマや評価をしてくれた方に向けて小さなメッセージを仕込んではみたのですが、スマホ等で見ている方とかは特に、文字数的な問題で、気付き難い感じになってしまいました。申し訳ありません><;(あれで結構文字数とか削って調整したつもりだったんですけど……またどこかで挑戦してみます。)



大したものでもありませんが、まだ見つけていなかった方はどうぞ良かったら見つけてみてください。↓ヒント^^。














一応ヒント(ほぼ答え)で、とある部分が縦読みすると、『○○○○○○○ ててここ』って感じの作者からの小さなメッセージがありましたw



今後とも本作品をどうぞよろしくお願い致します。テテココより。

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