第267話 力戦。
実りの季節の深まりを感じる今日この頃。
私達は大樹の森に戻って、各種イベントの進行の忙しさに追われていた。
やる事は沢山あり、トラブルは気づけばどこかしらで発生している状況。
正直、休む暇もない程……と言うのは少し言い過ぎかもしれないが、まあまあに忙しい事は間違いが無かった。
それに、どことなく周りの空気はピリピリとしている。
ただそれは、『殺伐』と言う程の荒々しさとは違い、互いの存在を好敵手と捉えているからこそのワクワクした緊張感……と言った方が近いだろうか。
そんな精霊達の傍に居ると、私達もワクワク感を感じられて、大変悪くない心地であった。
……因みに、今回は精霊達からの要望で、『大運動会イベント』や『大収穫イベント』、『指輪イベント……』、『宝探しイベント』等は比較的時短して、最後の『精霊対抗大魔法戦イベント』と言う、前回の日差しの厳しい季節に試しでやって大流行りしたあのイベントに一番の力を割く事になっている。
普段は争いを好まない精霊達だが、これはある意味で『娯楽』と『実益』を兼ねたとても良いイベントとして、皆このイベントを好意的に見てくれている様であった。
いつもはカツカツで、碌な余裕もなく、毎日をその身を削られるだけだったような状態から、趣味を得て活き活きとする様な感覚と言えば、想像もし易いかもしれない。
各地の大樹の森を経由してやって来る精霊達は、この最初の大樹の森で『魔力の滝』に触れて力を満たし、適度に運動する事で『精霊体』としてフィジカルを鍛え、魔法を思う存分使う事で己の新たなるポテンシャルを引き出し、一回りレベルアップをしてから皆艶々になって帰っていっている感じなのである。
……まあもっと簡単に言うのならば、要は皆ここに来て、元気になって、成長してから帰って行くのだった。
その誰もが笑顔で、普段はやり取りできなかった者達との会話を楽しみ、全力全開の魔法戦をしてお互いを鍛え合う。
それも回復担当として、一応は私もいる為、即死する様な攻撃でなければ大体は回復が間に合うという事で皆、皆心置きなく完全に本気なのであった。
基本的に、精霊達は我慢強く、魔法に対する耐久力も人よりもかなり高いために、観客としてこの魔法戦を見るだけでもハッキリ言って見ごたえがある。見ている私も凄く楽しいのだ。
それに、先ほどは即死級の攻撃は禁止だと言ったが、彼らの魔法抵抗力が高いおかげで、基本的にお互いの最大威力の攻撃魔法でも即死級とまではならない為、基本的に禁止となる魔法はない。
だから、彼らは最初から最後まで、最大威力の魔法を連発しまくるのである。
それも、魔力が切れた者から順次『魔力の滝』で回復して戦場へと戻っていくために、止めどないのだ。
森に対する被害も、私が魔力で探知し、木が燃えたり潰れたりしそうな際には防御魔法でちゃんと守ってもいる為、私にとっても良い練習になるのがこのイベントの良いメリットである。……因みに、エアもこっち側に参加していて、森の一部の防御を担当して貰っている。
基本的に、幾つもの大樹の森を視ながら、精霊達の回復や森の防御、戦況把握と異常事態へのフォロー等を熟している為に、今の私には普段とは違ってあまり余裕もない。
なので、今も大樹の傍で地面に座りながら、遠くを見つめるようにただただ、呼吸に集中し続けていた。
そして、私と同様に、森の防御の一部を引き受けているエアも、精霊達の高威力の魔法から木々を守る事に全力を尽くしている為、額に汗を浮かべながら全力で取り組んでいる。
以前までならば、精霊達のチームは同種族で組んでいた為、防御に使う魔法も対応が楽な方だったのだが、今回はもう各属性が入り乱れてチームを組んでいるために、色んな高威力の魔法が飛んでくるのでエアも必死に切り替えながら、防御をし続けていた。
時々、細かな漏れこそあったが、エアは立派に最後まで役目を全うして、最終的にはふらふらになり、私へとガバっと倒れ込みながらも『ふへへ』と嬉しそうに微笑んでいる。……よくがんばったな。
精霊達が元気になるだけではなく、エアの成長をも感じ取る事が出来て、私も大満足であった。
……それと、そんな私達を何かと支えてくれてた、陰の功労者であるバウも本当にありがとう。
私は疲れてぐっすりと眠る二人へと回復をかけながら、その寝顔を見て微笑ましくなるのであった。
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