第263話 偵知。
区切りの都合で少し短めです。
「あんただろっ!学長よりも強いって言うエルフっ!」
その日、私の部屋へと珍しいお客さんがやって来た。
彼の名は『燃焼の魔法使い』と言うらしい。
音の響きと相手の容貌から『年少?』かと思った私に、彼はずけずけと接近してくると、キッと睨みつけて指をさしこう告げて来た。
「俺と勝負しろっ!俺の『煉獄黒炎蝶』に掛かれば、お前なんか一発で消し炭にしてやるぞっ!!」
「…………」
……うーむ。まあ、とりあえずいらっしゃい。
どんな訪問理由かは察したが先ずは歓迎しよう。
少し部屋で話でもしようか。一応は美味しい果物がある。君も食べるかね?
「じゃあ一個だけ」
「……そうか。では少し待ってなさい」
──という事で、私はアブロの皮を剥きながら木の器に切り分けると、彼の分の椅子を部屋にだし、その席を勧め、果物の木の皿は傍の机の上へと置いた。
どうやら本人曰く『魔法戦をしに来た!』らしい少年魔法使いを見て、私は少し困惑する。
その少年は、出されたアブロの実を食べると『うまっうまぁっ!?』と驚きながら、パクパクし続けていた。
どうやらこの実を食べたのは初めてだったらしく、かなり気に入ってくれたように見える。
それも、この食べっぷりからすると、どうやらもう一個くらいは食べたくなるだろうなと思い、私は密かに次の実の皮も剥き始めた。
ここらへんはエアとのやり取りですっかりとお手の物となった私であるからして、この位の雰囲気を察するのは大変得意である。
私は少年が丁度食べ終わるのを見計らい、木の皿に追加で並べていくと、少年はハッとしてから嬉しそうにニコッと笑ってきた。……ここ最近よく見かけるとある顔にそっくりであるが、あまり気にしないでおこう。
──コンコンコン。
「ロム講師、今日もよろしくお願いしまーす!」
「失礼しますー」
「おねがいしますっ!」
ただ、そうしていると、ちょうど部屋の扉をノックする音が聞こえて来て、私の講義を聞きに来ている学生達の数人が入って来る。
どうやらもう講義の時間であったらしい。
入って来た彼らは少年の事を視ると『今日は珍しいお客さんが他にも一人居るのかー』くらいの気持ちらしく、果物を食べている少年の方にはあまり興味が無さそうに見えた。
それぞれ思い思いの席へと座り、今日の内容の準備をする方が大事らしい。
「今日はなんの講義すんのっ?」
すると、そんな風に美味しそうに果物を食べていた少年は、さり気なく今日の講義内容を近くの席に座っていた学生一人にそう尋ねている。
その学生も『えっ、なに、君も興味あるの?』と、ちょうど本人も話しかけたかったのか、満面の笑みを浮かべながら楽しそうに少年へと語り始めた。
少年は、そんな学生達の話を聞くと、『ウンウン』と相槌を打ちながら、自分でも質問を繰り返し、ずっと彼らと一緒に私の講義を聞き続けている。
そんな講義の間、終始少年は楽しそうにしてずっとニコニコしており、途中で私も『あれ?魔法戦は良かったのだろうか?』と思わずには居られない程に、良い笑顔をしていたのであった。
まあ、騒がれるよりはこの方が私としても嬉しい。
興味を持って貰えて、このまま何事もなく最後まで無事に講義を終える事が出来るのならば、それに勝る幸いはないだろうと思い、一安心する。
「──ロム講師、今日もありがとうございました!」
「また明日もよろしくお願いしまーす」
「またねーっ!」
二、三時間と言う短い時間だが、休憩も適度に挟んみ、今日の内容に満足がいった学生達は意気揚々と帰って行った。……これから彼らは自室でもまた練習に励む事だろう。なんとも感心な者達である。
本当に、この学園は向上心のある者ばかりで、教える方としても嬉しい限りだと思う。
……ただ、本来はそんな学園に居る生徒達を支える側である筈の存在が、今日はなんの理由があってここまでに来たのか、それだけを私はずっと疑問に思っている。
最初は本当にただただ再戦をしに来たのかとも思ったが、どうやらそのつもりではないようであるし、私は気になったので、彼女へと直接その真意を尋ねてみる事にした。
「……それで、結局は何しにいらしたのかな?──学長?」
またのお越しをお待ちしております。




