第262話 見誠。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
「ロムーー、んっ?あれーっ、またあそこに行くのっ?」
「……ああ、また少し行って来る」
『第四の大樹の森』こと『大樹の秘湯』を魔法学園の地下に作ってから、数日が経った。
その間、私は連日、一日に最低でも十回ほどはあの場所へと通っている。
だがしかし、勘違いをしないで欲しいのは、私が別にあそこを気に入ったから通っているわけではない、という事を最初に言わせて頂こう。
雪解けの温水の中に肌を晒すという事で、他の者達が入った場合に何か異変などが起きてしまっては大変だろうから、私は先ず自分の身体で調べているだけで、そう、純粋な実験の為に入っている訳であって、それ以外他意はないのである。……べつに、そこまできにいっているわけでもない。
それに、そう言う異変と言うのは試行回数を増やさないと分からない事も多い筈だ。
だから、一日最低十回入るのも、実はそこまで不思議な話ではないと思う。
まあ、エアには最近『ロム、そんなに入ったらふやふやになっちゃうよ?だいじょうぶ?』と心配されたりはするが、問題ない。水分補給も確りしているし、秘湯上がりに回復や浄化をかけると『スーー』っとしてかなり気分が良いのだ。
「おや、こんな所で合うなんて奇遇で──」
「──君の場所はあっちだ」
最近、私がここに通う事を知った学長は度々この場所で私を待ち伏せするようになった。
それも、毎回私が男性用に区切った方へと間違って入って来てしまっているので、私はその度に彼女を女性用の区切りの方へと魔法で飛ばしているのである。……毎度うっかりさんだな。
学長を区切りの先へと飛ばすと、私は白いローブやその下の衣類を脱ぎ、収納へと仕舞って、『大樹の秘湯』を今日も楽しむのであった。
「……あああああああーーー」
……うむ。今日も大変素晴らしい。
──そうして私が、本日何回目になるかわからない秘湯通いから戻ってくると、私の講師部屋の前には数人の学生たちがもう待っていた。……おや、講義の時間まではまだ時間があると思っていたけれど、もしかして遅れてしまっただろうか。
「あっ、いえあの、ロム講師、実は講義前に少し教えて欲しい事がありまして……」
ふむ、教えて欲しい事か。
何かな。私に答えられる事であればなんでも教えるが……。
「実は──」
──という事で、学生たちから相談されたのは、エアの事と恋愛についての話であった。
エアに関する事は彼らの熱い気持ちなどは直接本人に伝えてもらう様に言い、私でも答えられそうなもう一方の話題へと真剣に対応する事にする。
……まあこれも、学生ならではの問題なのかもしれないが、恋愛についての問題をこの私に聞くとは、彼らも中々に見る目が無い。
魔法使いにとっても必須となる観察力が冷静さが不足しているのかもしれない。……その手の講義や実戦練習を課題として出すべきだろうか。
いや、流石に今それを伝えるのではあまりにも酷いか……。
また今度にしよう……。
「あの、ロム講師。ロム講師はどうやって、その、あんなに女性と良好な関係を築けているのですか?……や、やはり顔ですか?」
「それとも、魔法で?」
「なにか悪い事しているんじゃ」
……ふむ。君達の私に対するイメージはよく分かった。覚えておこう。
「いやいや、すみません!冗談ですっ!」
「そうです!ちょっと羨ましかったもので、つい……すみません」
……いや、そこまで謝らなくてもいいの。私も冗談を言ったつもりだ。
とまぁ、そんな感じで私は決して器用な人間と言う訳ではないし、ユーモアもあまりない。
どちらかと言うと極めて不器用が過ぎる、愚かな生き物と言えるだろう。
「それだけ魔法が使えるのにですか?」
愚かな事と、魔法が使える事に関係はないからな。
そして、私からすると、皆が言う様に女性と良好な関係が築けているとも思えん。
どちらかと言えば、正直苦手である。
「……そうなんですか。どうにも信じられませんが」
……ふむ。まあ、一旦私の事はさて置き、女性と良好な関係を築き、家庭を持つに至っている者達に共通する事を挙げるとするのならば、私が見て来た者達は大体皆、『誠実』な人物が多かったように思う。
「せいじつ、ですか」
ああ。だが、勘違いして欲しくないのは、それはなにも完璧に潔癖であれと言う訳ではない。
時に不真面目でも私は良いと思う。ただ根は真面目と言う人間が多かった気がする。
正直、私に出来るアドバイスはとても少ないが、魔法に対してはかなり誠実であれる君達ならば、同じように誠実で居られると思うのだ。
だから、そう焦らずとも機がくれば上手くいくのではないのか?
「誠実なだけじゃ……いい人止まりで終わってしまう事が多いんですよ」
……それではいけないか?
「そ、そりゃ、はい」
じゃあ、それを魔法に置き換えて考えてみるのはどうだろうか。
君は今、魔法が上手く発動しなかったとする。
……さて、それでは『その理由はいったい何故だったのだろうか』、と。
『魔力量が足りなかったのかな?』それとも『発動の仕方が間違っていたのかな?』
「…………」
なんでもそうなのだが、一芸に秀でたものは、他の出来事にも己の経験を当てはめてみると上手く理解出来る事は多い。
だから、私が知る優秀な君達であれば、上手くいかない時には、その理由を一つずつ探っていくのがいいのではないだろうかと思う。
そして、考えられる問題を一つ一つ試し、改善していく筈だ。
『ここはこうすればよかったかもしれない』『ここではこうしてはいけなかったんだ』と。
そうして、少しずつ君達はその結果を重ねて、信じるに足る要素を増やしていき、最終的には自信を持って魔法を使うようになっていくだろう。
だがまあ、人間の心や感情と言った要素はとても複雑である。
魔法よりもよっぽど難解で、己でさえもままならない事ばかりだ。
全てを理解しきるのは到底無理だと言えるかもしれない。
だから、私達に出来るのは相手の心を慮り、思いやりを持って接する事だけである。
ただ、どちらにも言える事は、『好意を持つ』事ができて、『興味を持つ』事が出来る。
そして、『好きな相手の為に何かをしたくなる』。
その為に、日々の失敗と改善があって、その様々な経験を重ねて積み上げていき、信頼を得て、自信を感じる事ができるようになるのだ。
──まあ、私に言えるのはその位である。
後は、私の友から得た教訓なのだが、これはかつて私の友が言ったのだ。
『男とは、ただただ耐え忍び、ただただ誠実であれ』と。
そして、もう一人の友(淑女)はこうも言った。
『愛や恋をしたいだけなら一晩で出来る。欲を満たしたいだけなら店にでも行け。運命を感じたいなら軽々しい行動はとるな』と……。
「さて、これらの話が君達にとって、何かしらの経験や教訓の一つとなるならば私も嬉しく思う。だが、もしピンとこないのならば、君達は君達にまま、今出来る事を誠実にこなしていくだけで十分だとも思う。……自分らしさを忘れず『誠実』に頑張って欲しい」
『数百年は生きてる筈なのだが、私に言えるのはこれくらいで、あまり参考にならず申し訳ない』と私が謝ると、学生たちはそれぞれ感じる所があってくれたようで、『ロム講師、ありがとうございます!頑張ってみます!』と言って微笑んでくれたのであった。
……苦手な分野だが、ほんの少しでも、彼らの役に立てたのならば、私も嬉しく思った。
またのお越しをお待ちしております。




