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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第261話 浸透。


 


「痛ッ……あー、掌のまめが潰れました。……これは、思っていたよりも大変な作業ですね」



 三人で鶴嘴を振っていると、講師彼女がそう言って痛そうに手のひらを見つめている。

 そんな彼女にエアは近づいていくと『手を貸してっ』と言って、手の治療をし始めた。



 『第四の大樹の森』の為の壁の穴掘りはもうだいぶ進み、魔力の探知で地上にある部分に影響がない様に加減をしながら、ある程度は魔法で補強しつつ掘り進めていく。

 『自然な形で掘るのって難しいね』という話をしながらも、カツンカツンと軽快に鶴嘴を振り下ろしていき、崩れた土や石なんかは【空間魔法】でどんどんと収納していった。



 特に今回はエアが活躍は目覚ましく、『天元』に土の魔素を通すとどこが脆いのかが感覚的に良くわかる様で、一振りごとに一抱えもある様な岩の塊だったり、土塊をボロボロと零れ落としている。

 そして気づけば、あっという間に奥へと長い洞窟が完成していた。



 ある程度まで長く掘れた所で、今度は天井をもっと高くして、地面は歩き回りやすい様に少しだけ魔法を使って整えていく。……因みに、ここもある程度の空間が確保出来たら後は【空間魔法】で【拡張】していくつもりなので、残りは一気に魔法で解決した。



 浴場の形は大樹の苗木を植える場所を真ん中に置いたこれまたドーナツ状で、外円から中心に向かうにつれて水深は深くなるように傾斜もつけている。

 また、優先するべきは『秘湯感』という自然みなので、壁は自然そのままのゴツゴツ感を残しており、その中には密かに魔法陣も仕込んで、壁や天井や地面には外の雪景色を投影できるようにもなっていた。



 これは、私と学長の魔法戦を外部の者達が視ていた時に使われていたものを一部改良し、転用したものである。

 この場所は学園の地下にあるので、学生たちがここを見つけて来てしまうこともあるだろうと思い、そうなった時のお楽しみになればと思って作ったのだ。

 因みに、他の用途には使えない様に細工もしてある。



 そうして、出来上がった全体部の調整をしつつ、あとは雪をこの場所に運んで来たり、運んで来たものを温めて温水に変えたり、最終的には排水や湯気を外へと出したりなのだが……まあ、そこら辺は最早魔法道具などを仕込むだけなので割愛しておこう。



 また、後は外円の周りに木々を植えていくだけで終わりなのだが、ここは今までの場所と違って比較的に広げ過ぎない様にし、代わりにこの雪景色と秘湯を見ながらのんびりと過ごせるように休憩所となる家を幾つか作っておいた。



 最後に、この場所の入口にはまやかしを仕掛けておき、一応は『隠し部屋』ぽくする為、見つけ難くはするつもりである。……特にこれに対する理由はない。強いて言えば遊び心である。


 一応無関係な者達が近付かない様にするための配慮でもあり、普段はあまり人目に触れられないようにはしたかった。

 だが、ここを見つける事が出来た優秀なこの学園の魔法使い達には是非ともここを楽しんで貰えたらと思っている。……是非とも密かな名所の様な扱いになってくれたらと思う。



 ここは、他の場所に作った『大樹の森』と比べればきっと足を運ぶ人もかなり多くなる事だろう。

 精霊達にとっても、この地はちょっと変わったお楽しみ場所になってくれるのではないだろうか。



「ほんとうに凄い場所ですね。地下なのに、雪の中に居る様で、凄く綺麗ですね……」



 講師彼女は鶴嘴片手に、土に塗れながら良い表情でそう語った。

 エアはそんな彼女に微笑みながら『浄化』をかけてあげている。

 そして、二人は一緒に出来上がったばかりのその秘湯の周りをのんびりと歩いて、見逃しや手抜かりが無いか見回ってくれた。



 ただ、その途中で、講師である彼女はなにやら湯を見ているとウズウズしだしたらしく、エアへと向かって『そろそろ、あの……休憩所に行って、準備しませんか?』と尋ねている。



「準備ってっ?」


「えっ、だって、折角こんなに綺麗な景色の中、これだけ立派で大きな浴場を作ったんですよ。入りますよね?……えっ、入らないんですか?」


「あの中に入るの?」


「えっ──」



 ──そもそもの話、とある綺麗好きに『世の中には秘湯と呼ばれる場所があり、とある地方の風習では、その中に裸で入って汚れを擦り落とすらしいぞ』と言う話を、私は噂で聞いたことがあるだけであった。……当然、自分で入った事は一度も無いのである。


 私達には浄化の魔法もあるし、湯に浸かるという発想と必要が全く無かったのだ。



 なので、彼女が入りたいと言ったその気持ちは、正直分からなかったが……。

 まあ、折角の機会でもあるわけで、講師である彼女からも『絶対に良いんで、入りましょうよ!作ったんだから試してみるべきですっ!』と積極的に誘われてしまっては、私達も一度くらいは経験してみても良いかと、私達は浴場へと入ってみる事になったのであった。

 ……因みに、ドーナツ型の浴場は半ドーナツ型になる様に区切りも作って、男女で別れて入れる様に少しだけ作り変えている。




「……んーー、ああああああーーーっ!」



 そして、入ってみた結果、私は自分でも信じられない様な声をだしてしまい、少し恥ずかしい思いをする事になるのであった……。





またのお越しをお待ちしております。

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