第260話 地道。
「各種の職に合った魔法の開発ですか。それはなんとも興味深いですね」
魔法学園の研究室の一室にて、私の使った魔法に感銘を受けたという者達が集まり、私へと気になった事をどんどんと質問してきた。
職に沿った専用魔法の開発と言うのは中々にマイナーな分野であり、とある方面では積極的に開発されているが、それ以外は殆ど注目されていないと言っていい程、真剣に研究している者が少ない分野である。……因みに、積極的に開発されているのは戦争に役立つ魔法である事は言うまでもない。
武力に対して対抗できるのは武力だけ、魔法には魔法。
その考え方だけは年々研究が進んでいくのに、それ以外の分野はいつまで経っても変わらないのは寂しいと思う。
なので、今回彼らに少しでも興味を持って貰える事は私にとって素直に喜ばしかった。
それに、その効果の程は彼らに見せた通り、上達すれば上達する程に、役立つ事も間違いなしなので、どうか積極的に学んで貰い、この部屋に来た優秀な魔法使い達にはそんな『専門職魔法』を沢山編み出していって欲しいと思う。
ある程度の熱中した講義を終えた私は、今日の分の講義を終えて帰って行く彼らに小さく手を振って見送ると、その後に空いた時間を使って自分はこの学園の地下へと足を進めた。
……実は今、あの地下剣闘場の一角に『第四の大樹の森』へと通じる『隠し部屋』を作る事になっているので、その準備や調整を行っているのである。
──と言うのも、エアと講師彼女と学長がここ暫くはとても仲良しになったらしく、離れる気が全くないというか、三人で居る時間がとても楽しいらしくて……『ロム、あのね、もう少しだけこの学園に居たいのっ』とエアが頼んで来たという事もあり、もう暫くここに長居する事に決めたのだ。
それに、『そう言う事ならば仕方ないか』と満面の笑みで言いながら、学長は私に『それならば、だらだらとここに居候するわけにはいかないでしょうし、講師用の部屋を用意しておきますね』と、空いている部屋を一部屋だけ用意してくれたのであった。
そう言う訳で、先ほどの様に生徒達や学長がやって来た際にだけ、私は魔法についての質問に答えたり、ちょっとした指導をする事になったのである。
……因みに、それをする代わりと言ってはなんだが、剣闘場の一部を好きな様に弄ったり仕掛けたり広げたりしても良いという許可をいただいたので、その場所を密かに『第四の大樹の森』へと作り替えてしまおうと思い、その活動中なのだ。
それに、こちらの大陸は基本的に雪が多く、天候の移り変わりも激しいために、元々普通に屋外で大樹の苗木を育てるのはかなり難しいだろうとも考えていたので、今回の事は正直言って丁度良かったのかもしれない。場所的にもここならばそこまで問題にもならないだろう。……地下に森が出来るだけである。
また、折角の機会でもあるので、『第三の大樹の森』とはまた少し違った雰囲気の、落ち着けて心地よい空間にしようと私は考えていた。
そして、地下剣闘場の一角にまで辿り着くと、私は収納から大きい鶴嘴を取り出し、その壁へと向かって勢いよく振り下ろし始める。
……辺りにはカツーンという音が鳴り響いた。
「あのロムさん?一部に仕掛けをしても良いという話はお聞きしていましたが、壁を掘ってまで何をするつもりなんです……?」
すると、私の講義が無いのと同様に、ちょうど時間が空いて暇を持て余していた講師彼女が、エアと一緒に魔法の訓練でもしようかと、やってきたらしい。
この訓練場の一角で不審な白銀男が、壁に向かって鶴嘴を振りだしたのを見つけた二人は、何をしているかと興味深そうにそう声を掛けて来た。……おや今日は、学長は一緒には居ないらしい。ん?ああー。仕事が溜まって今日はこれそうにないと?それはなんとも難義な話だ。
私はそんな二人へと、この鶴嘴でこれから『隠し部屋』を作る予定なので、その為に必要なのだと簡単に説明した。
「へー!隠し部屋ーっ!!
「なんか凄いですねっ!」
すると、二人は更に興味深そうに近寄って来て、協力したいとまで言いだしてくれる。
……おお、それはなんとも有難い。
「でもロム、なんでこんな道具を使ってるの?」
「そうですよね。穴を開けたいならば魔法を使った方が凄い早いと思うのですが……」
……うむ。そんな二人の疑問は当然のもので、かつては私もそう思った事がある。
だがその際、とある綺麗好きの男から私はこう返されたので、私も今回それをそのまま彼女達へと返す事にした。
「『魔法でやると、味がでないだろ』……だそうだ」
「味?」
「どういうことです?」
んー、そうだな。私もそこまで詳しい訳でもないから、何となくの答えになってしまうのだが……。
大事なのは自然み、らしい。
そして、もう少し詳しく説明するのならば、今回この掘った場所には、外の年中降り積もっている雪を魔法でここに運ぶ仕掛けを作り、その運ばれた雪を温める仕掛けにかけ、それから温まった水がある程度溢れ出て、それをまた外へと運ぶ仕掛けを作るつもりなのである。
そして、その大きな水溜まり(温水)を作ると、その中心にはまた白い苗木を植える為の浮島を作って、大樹の森をその周りにも植林し、一見してどこからどう見ても秘湯にしか見えない『第四の大樹の森』を作るというのが現状の計画なのであった。
つまり、今やっているのは、その秘湯の為に自然な感じになる様に地面や壁を掘ってくり抜いていくという作業を行っている訳で、魔法でそれをやると壁の切り口や堀跡がどうにも綺麗になり過ぎてしまい、どこか『秘湯感』というやつがなくなってしまう為にダメなのだという。
「へー、それで態々鶴嘴で掘ってるのかーっ!いいなー、面白そうーっ!」
「ほーー、あの、ロムさん?鶴嘴って三本あるんですか?」
……ん?二人とも本当に良いのかな?魔法の練習をしにきたのでは?
これは中々に、時間がかかる作業になってしまうぞ?
「うんっ!大丈夫っ!楽しそうだし!それにこの状態でも魔法の練習は出来るでしょっ!」
「そうですね。エアさんの言う通り──えっ!これやりながらっ?……そ、そうですねっ!がんばりますっ!」
一人、なんか驚いていた気がしたものの、鶴嘴を受け取った二人は一生懸命壁へと向かって鶴嘴を振るいだした。
『ズゴゴゴ、コツン、ズゴゴゴ、コツン』と一緒に掘ってくれる二人に私は感謝しつつ、自分でもまた鶴嘴へと力を込める。
そうして私達は三人で横並びになりながら、楽しく鶴嘴を振り続けるのであった。
またのお越しをお待ちしております。
祝260話到達!
『10話毎の定期報告!』
皆さん、いつも『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ。』を読んでくれてありがとうございます!
依然として、まだまだ良い報告はありませんが、それでも日々油断なく頑張れております。
アクセスやブクマや評価を見ると、本当に励みになりますね。皆さんありがとう。
暑い日々で頭がボーっとする時はありますが、完全にダレる事も無くモチベーション高く出来ているのは、きっとそのおかげだと思っております。
今後も頑張って参りますので、どうか引き続き応援していただけると幸いです^^。
ブクマをしてくださっている六十八人の方々(前回から三人増)!
評価をしてくださっている十五人の方々(前回から一人増)!
皆さんのおかげで、この作品の総合評価は282ptに到達しました!
本当にありがとうございます!
──さてさて!今回もまた目標に向けて確りと声を出していきたいと思います!いずれここで堂々と報告出来る様になる為に、一歩一歩を着実に進んでいきましょう!
「目指せ書籍化っ!尚且つ、目指せ先ずは総合500pt(残り218pt)!」
今後も『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ。』を、是非ともよろしくお願いします!
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