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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第26話 仲。



「これがいいっ!」



 最終的に、見本の中からエアが決めた武器の種類は『槍』であった。

 投げてよし、突いて良し、肉を刺したまま焼いても良し。

 因みに、エアの決め手になったのはその最後の部分である。



 実際武器を選ぶ時の基準に絶対なんかはない。自分が気入ったから。カッコいいと思ったから。運命を感じた。そんな理由が大半だったりもする。なんにしても武器があると言う事がそも重要なので私はそれでいいと思った。



 エア用に作る武器は少し特徴的で、見た目は重量重視で両端の先が尖っているだけの刃がない普通の投擲槍である。

 槍全体を精霊達が出してくれた薄鈍色の鉄インゴットで作っており、一見すると何の変哲もないただの鉄槍に見えるのだが、不思議な事に今回に限っては精霊達から『一緒に作らせてくれっ!』『一生の願いだ!手伝わせてくれっ!』とグイグイ迫って来られたので、一緒に作っていた私の何か知らない仕掛けの一つや二つが、既にこの槍に仕組まれているのではないかと疑っている。……そもそも君達、一生の願いをここで使わないで欲しい。



 現在槍は形が既に完成していて、これから最終的な研磨作業と錬金術を使って付加をしていく予定なのだが、『いやーやっぱ久しぶりに作ってみると楽しかったなー』『なー槍だしなー』『アレよりもっと良い素材仕込めなかったのか?』『しっ、馬鹿聞こえちまうぞ』『!?あーっと肩凝ったなー!すげーがんばったーっ!!』『あっ、いっけね!』『大丈夫だ、あいつが気を利かせてフォローしてくれたぞ』『さんきゅーな!助かったぜ』『ふははっ、良いって事よ!』



「…………」



 ぜんぶ、きこえて、いるのだが?



 まあ、彼らがエアの害になる様な事をする筈はないので、そういう点では心配していないのだけれど、彼らは面白がってやり過ぎてしまうきらいがある。注意して見ておこう。



 因みに今ここにいる精霊達は、火に関係が強い者達が多いと感じる。

 なので、おそらくはこの前のお野菜行列祭りの時に、エアに餌付けが出来なかった者達なんだろうと私は察した。

 あれは土や水や風の者達が丹精込めて作ったお野菜をあげるイベントだったみたいなので、きっとあの時出来なかった分まで、今回彼らはここで何かエアにしてあげたかったのだろう。本当に有難い事である。



「……もし良かったらなんだが、この銀のインゴットを使って、それぞれエアに合った指輪を一つ作ってあげてくれないか?私が一番良いと思った作品は、そのままエアにプレゼントするって事で──」



 そこで私はふと思いついたことを精霊達へと提案してみた。

 お野菜イベントの代わりになるとまではいわないけれど、火の精霊達にも何かしらのイベントがあった方が嬉しいんじゃないだろうかと考えたのだ。まあ断られたら直ぐに取りやめる所存ではある。



 力があっても、それを発揮できる場所が無いというのは悲しい事なのだと、この間の祭りで精霊達の顔を見て、少し思ったのだ。だから今回はそんな感じで彼らにも少しは楽しんで貰えたらと──




 ──いいねー。そいつは本当かい旦那?ほんきでやっちまって良いって事ですかい?

 ──ついにこの時が、来ちまったって事かな?おれの本気を出す時がよ。

 ──もーいいか。そろそろこれまで温めてきた全力ってやつ?今日こそ見せちまうか?

 ──あっべ、勝利しか思い浮かばねぇ。まじで、もう勝っちまった。俺、勝っちまったぜ。

 ──リスクは承知の上じゃ。ワシと言う存在全てをオールインしてやろう。他の奴との違いを見よ!

 ──がっはっは!他の奴は全員馬鹿ばっかだっ!貰ったな!"エア"に贈る指輪は俺のもんだぜッ!

 ──とうとう、誰が一番かわかる……って、おい待て……今なんか、いなかったか?


 ──てめぇ。良く聞こえ無かったが、今なんつったぁ?もしかして言っちまったわけじゃねぇよなぁ?

 ──てーへんな言葉が聞こえちまった気がするぜ?これはもうあれよ?終わりよ?

 ──こいつ死んだぜ。もう塵さえも残さねえよ?あのワードを言っちまったからにはなぁっ!

 ──こいつめっ!なにてめえの物みたいに呼び捨てにしてやがんだっ!『エアちゃん』もしくは『エア様』と呼べと会合で決まったばっかだろうがッ!!




「…………」



 おかしいな。私が思っていた反応と違う。お野菜イベントに参加できなかった代わりに、火の精霊達用にちょっとしたイベントを開くか位の軽い気持ちで言ったんだが、穏やかさがゼロ。職人気質が多い火の精霊達の殺伐具合が、なぜか半端ではない事になってしまった。……そもそも君達、いつも会合とかやってたんだ。それも議題はエアの敬称と。愛されてるなエア。



 暫くは言い合いをそのまま見つめていたが、流石に見逃せなくなってきたので、途中で私は止めに入った。

 ほらもう怒らない怒らない。駄々っ子パンチしないで。喧嘩しないで一緒に作ればいいだろう。

 ほら落ち着いて。うんうん。君達がエアを大事に思ってくれてるのは凄いわかったから。そうそう。今は落ち着いて。君達の熱気で錬金術部屋の中の気温上昇も凄い事になっている。置いてある材料とかに影響が出る前にも早く止めなければ……



 ……ふむー。これは困った。

 予想外の展開で少し慌てたものの、止めた甲斐はあって、一応治まった。

 だがこのままだと、現状またいつぶり返すかも分からない状態である。

 もしこのままイベントを始めたら、また間違いなくイベント中に精霊同士の殴り合いが始まってしまいかねないと私は思った。



 そこで私は、仕方なく、急激に魔力を高めて彼らの視線を一時的に集めると、彼らにとって無情とも呼べる言葉を発つことにした。



「仲良く出来ないなら。君達、大樹周辺への『出禁』」



 『ッ!?!?!?!?』

 


 『大樹周辺への出入り禁止』、それは何気に精霊達にとって、数少ない大きな娯楽施設への立ち入り禁止を意味した。例えるならば、そうデ〇ズ〇ーランドへの出入り禁止。

 それも、精霊達の耳が早いのは言うまでもないことなので、この穏やかな場所で出禁になったという情報は瞬く間に広がり、きっと他にもあるだろうこう言った場所へも、彼らは今後行けなくなってしまうという事になるのである。


 彼らは私のその言葉で、一斉に冷や水を浴びせられた様な表情になると、完全に頭が冷えたのか、さっきまで睨み合っていた者達同士が頷きを交わし、いきなり全員が肩を組んで、私に朗らかな表情で微笑みを向けだした。


 『今日は良い天気ですね』『こんな日はきっとお茶が美味しいですよ』『おほほほっ、それはいい考えですな。私もご一緒して宜しいですかな?』『ええ、ええ。もちろんですとも。皆で一緒に行きましょう』『なんたって私達、みんな"大の仲良し"ですからね』『あははははは』



 元々彼ら精霊達は、力の傾向が同じか似た属性の者同士は基本的に仲が良い。

 なので、こうした喧嘩みたいなものも、頭が冷えれば直ぐに落ち着くだろうとは分かっていた。

 だからわざわざそこまで『大の仲良し』を強調していかなくても、ちゃんとわかっている。ほんとに『出禁』になんてしたりしないから。



 今も肩を組んで、『みんな揃ってこれから仲良くお茶を飲みに行くんですよ』って雰囲気を出しながら彼らはチラチラと私の事を見ていた。『出禁』は解除されたかな?大丈夫かな?と確認の視線を送ってくるので『大丈夫だ』と言う想いを込めて、私は彼らに頷きを送った。



 それを見た彼らはふーっと一安心したような表情を浮かべると、そのまま本当にみんな揃ってお茶を飲みに向かう。今回はもう槍も作ったし、『銀の指輪イベント』はまた次の機会にやろうと言う事らしい。

 彼らが部屋から出る寸前、そんな小さな伝言が私の方へと飛んできたので、私はそれを見てとりあえず了承し、槍の研磨の残りと錬金術の付加で『剛体』を付ける作業に戻るのであった。




「すごーいっ!ひかるっ!もどってくるッ!!」



 そして完成した槍をエアに渡したら、薄い鈍色だった槍が何故か突然白銀の綺麗な槍へと変わった。

 エアが持つと変化するようになっているらしい。専用槍か?


 そして、その槍を試しにエアが投げてみたら、数百メートル先の的に補正込みでド真ん中に当たった。

 それだけでももう充分に凄かったのだけれど、エアがそこで一言『戻ってこないかな』と言うと、なんとあの槍は的をズドンっと突き破り、そのまま上空へと舞い上がったかと思うと大きく弧を描きながら、エアの手の中へとスポッと飛んで戻って来たのである。どうやらあれには引き戻せる機能までをも付けちゃったらしい。



「…………」


 私がとある方向へと視線を固定すると、その先の人物達は冷汗をかきながらサッと素早く視線を逸らした。……やはり仕掛けていたな。それも色々。


 そうして、少々問い詰めて白状させたところによると、実はあの引き戻す時の軌道もエアの思うが儘にできるらしく、いっそ慣れれば投げたらそこから軌道変化させて、あの槍だけで自由自在に空中の敵を倒せるようになるだろうとの事。それと、あれはまだ未完成でビーム機能は付いてないとの事。……冒険者になるだけなのに、君達はとんでもない物をエアに授けてくれたらしい。まあエアの力になるなら私も否定はしないが。



 まだ流石に、エアは彼らの言う程まで使いこなせてはいないみたいだが、いずれあの武器が猛威を振るう事は間違いないと私は悟った。もしあれが完全体として完成すれば、エアは国と単独で戦っても勝てるようになるんじゃないだろうか。



 『やはりまだもう少し素材の比率が多く出来れば~』『強度がまだ弱め~』『倒せてドラゴンまで~』『せめてビームを~』……充分です。ビームは止めてください。


 そんな風にまた、元通り楽しく仲良さそうに話し合う精霊達の声を聞きながら、エアが想像以上に武器を気に入ってくれたことに私は幸いを覚えた。良き相棒になってくれたらと思う。

 お気に入りの古かばんに新しい光る槍を何度も出したり入れたりしながら、無邪気そうに笑うエアの姿に、作って良かったと私も心の底から思うのであった。





またのお越しをお待ちしております。



気付いて貰えるでしょうか。

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