第250話 放言。
「それに、あなた達が何かしらを企んでいる事は察しています。わたしがそんな事も気付かない愚鈍だと思いましたか?」
学長は私達の表情から何かを察したらしく、私達に企みがある事に気づき、自分が舐められていると敏感に感じ取ったらしい。……凄く怒っている。
『……まったく、ここまでコケにされた事はありませんよ。さあ、こちらへどうぞ、簡易的にですが戦える場所を用意してます』と、彼女は急に部屋にある書棚へと近寄ると、そこから一冊の本を抜き取り、その奥へと手を入れて、何かの操作をしだした。
すると、ガコンと何かが動きだした音と共に、書棚が横へと動いて、そこには地下へと移動できる様な下り階段が目に入る。……隠し扉だ。
どうやら彼女の言だとその先には簡易的に戦える場所があるらしい。
……もしかしてあれかな?この学長先生は戦闘狂なのかな?と思わずには居られなかったが、対する学長の表情は雄弁に物語っていた。
『何を企んでいるのかまでは知りません。ただ、今はそれに目を瞑っておいてあげます。……だが、その代わりに魔法戦でその人と戦わせなさい!エルフとしての格の違いを思い知らせてやります』と。
一見して、今の学長は綺麗な微笑みを浮かべてはいるが、その笑みの下には『耳長族の淑女』としてのプライドと『この学園の学長であり、一番の魔法使いであると自負する者』としてのプライドがあった。
そして、そんな誇りを軽んじてくるこの目の前の生意気で礼儀知らずなエルフの男性を──どうせ大した事のない魔法しか使う事が出来ないであろう『白石』このムカつく冒険者を──『絶対にギッタンギッタンにして、目にもの見せて、延々と説教してやる!』という強い想いを抱いている様に見える。
そんな学長先生の顔を見ていると、遠い昔に友(淑女)から理不尽な怒りをぶつけられた時の光景が、一瞬だけ私の頭には浮かんだ。……エルフの淑女たちは怒ると、この独特の雰囲気があって凄く怖い。
これはもうどうにも言葉で宥められる様な雰囲気ではなかった。
そもそも、私がこれ以上何かを言っても火に油を注ぐだけで、無意味であろう。
……やっぱりこうなったかと、最初一目見て、『あっ、淑女だ。まずい』と思った私の感覚は、間違いではなかっらしい。
学長先生は、顎で『クイッ』として、『こっちに来い』という仕草をすると、先行して階段を下りていく。
「ロム……」
「ロムさん、あの、すみません。わたしがもっと上手く説明できていれば……」
いや、良いのだ。どうせこうなる様な気がしていたのである。
エア、バウを頼む。
バウは、他にバレない様に静かにしているのだぞ。……「ばうっ!」よし、良い子だ。
私達も、学長の後に続いて、階段を下りていき、その後の通路を暫く進むと、広い場所へと辿り着いた。
そこはどうみても、巨大な剣闘場の様な場所で、周りには観客席まで備わっている立派な場所である。
……これのどこが簡易的なのかは分からないが、普通に戦うのであれば何も問題が無いだろう。
そんな地下に備えた巨大な剣闘場施設の中央には、いつの間にか綺麗な漆黒のローブを纏い、力のある宝石で綺麗に装飾された魔法使い用の実用的な杖を構えた学長の姿があった。
これから哀れな男性エルフを魔法でギャフンと言わせる事に楽しみを見出しているのか、その顔には笑みが浮かんでいるが、雰囲気は真剣そのものである事が直ぐに分かる。
「……ここに繋がってたの。全然知らなかったな」
私の背後からは、元講師である彼女がボソッと呟き、そして私にこの場所の事を密かに伝えてくれた。
それによるとどうやら、『ロムさん、この場所は色々な魔法の実験施設の様な場所で、幾つもの計測魔法道具や観測の魔方陣等が仕込まれて入れています。基本的に、ここは学園に居る生徒達の教材となる様に情報を集めたり、試験時に魔法を使ったりする場でもあります。きっと今、ちょうど各教室ではこの場所の光景を魔方陣を通して覗いている事でしょう』という事らしい。
つまりは、学長がここに私達を連れて来たのは、学園の者達に学長の魔法戦を見せて、魔法戦とはこういうものだと確りと生きた戦闘を見せて教材とする事と、学長の強さや偉大さを分からせて威厳を保つ事、それから一番の目的はどこぞの白銀の生意気なエルフに思う存分魔法で叩きのめした後に説教して、『お前が説教されているこの恥ずかしい光景は、学園の生徒達に全部見ていたのだ!どうだ反省したか!これに懲りたら今後は、エルフの紳士として礼儀正しく身の程を弁えて生きるのだな!』と言って、マウントを取ってから高笑いし、自らが悦に入るという一石三鳥の思惑があったのだろう。
「では、そちらの準備が出来たら、早速魔法戦に入りましょう。使用魔法は相手を即死させるようなものでなければ全て可とします。想定する戦況は、魔法使い同士の戦闘において、相手を殺さず捕獲する場合です。よろしいですか?」
「了承した。こちらはいつでも構わない」
「……杖は?持たないのですか?」
「ああ。生憎と持っていない。私が持っているのは精々、剣と斧と弓だな。それを使うのは今回はやめておこう」
「ふふふっ、なるほど。冒険者の装備と言う事ですか。魔法を使う為にここに来たとか言ってましたが、杖すら持たないとは高が知れますよ。……まあ、続きは後にしておきましょうか。水竜を倒したと嘯くその実力の程を、是非とも見せてもらいましょう。──それでは、魔法戦、開始っ!」
「…………」
魔法使いにおいて、杖とはいったい何だろうと、私は昔に考えた事があった。
確かに、魔法を使う上で、魔力を一時的に溜めておけたり、単純な魔力の増幅器として使うのはありかも知れないと考えた事はある。
だが、そんなもの、結局は自分の身体一つ、感覚一つで出来る事だ。
もっと言えば、それを魔法の『発動速度の向上』や、『操作性の向上』などの理由で持つ者は、己の未熟を他者へと伝えている様なものだと私は判断している。
なので、杖を持つ事は弱点を晒すと同義であり、魔法使いとしては恥ずべき行為だと、私はエアにも教えて来た──。
「──だからな。杖を持つ事を誇るのは止めた方がいいと、私は思う」
ただしこれは私の感覚の中だけの話で、そうではない者も探せば世の中にはきっといるのだろう。
……だが、どうやら、君はそうではなかったらしい。
身動きどころか、呼吸さえまともに出来ず、ただ藻掻くだけで一つの魔法すら扱えぬ今の君に、そのオモチャは何の意味もない。
「……反論があるならば聞こう」
だが、学長は私の一つ目の魔法を解除出来なかったようで、そのまま反論する事無く気を失ってしまった。
その様子を冷酷に見ていた私は、学長が気を失った瞬間に拘束の魔法を解くと、彼女へと直ぐに回復を施し、生命活動を安定させる。……これで私の勝利、で本当にいいのだろうか。まだ何戦かするのだったか?
……まあ、少し待ってれば彼女も起きるだろうと思った私は、学長が起きるまでの暫しの時間を使って、全力の『お裁縫』を披露しながら待つことにしたのであった。
またのお越しをお待ちしております。
祝250話到達!
『10話毎の定期報告!』
皆さん、いつも『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ。』を読んでくれてありがとうございます!
前回の報告でも予告しておりましたが、本作品は80万文字に到達致しました!
本当に、いつもありがとうございます。皆の励ましが元気になっております。
油断なくこれからも頑張って参りますので、引き続き応援頼みます^^!
読んでくださっている方々の為にも、もっと良い報告が出来る様になりたいですね。
その為にも確りと積み上げていきたいと思います。
ブクマをしてくださっている六十五人の方々(前回から一人増)!
評価をしてくださっている十四人の方々(前回から一人増)!
皆さんのおかげで、この作品の総合評価は266ptに到達しました!
本当にありがとうございます!
──さて!大事な声だしをしていきましょう!目標を常に意識していきたいと思います!
「目指せ書籍化っ!尚且つ、目指せ先ずは総合500pt(残り234pt!)!」
今後も『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ。』を、是非ともよろしくお願いします!
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