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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
248/790

第248話 毫末。





「勝手な話ですね」



 結論から話すと、私達は学長と呼ばれる人物の元へと取次いで貰えて、その人物と話す事が出来た。

 だが、元講師である彼女が話をした後、学長から返って来たのはそんな素っ気無い答えである。



「……ごめんなさい」


「…………」



 彼女の話が終わるまで、相槌一つなくただただ無言で聞いていたかと思えば、返事はそんな一言だけで、後は元講師である彼女の事を鋭く見つめ続けている。……これはなんとも重苦しい雰囲気だ。


 すると、元講師の彼女は色々と思う所があったのか、学長へと向かって深く頭を下げた。


 恐らくはその一言は『学園を一度は気まぐれで捨てた人間が、また気まぐれで帰って来たかと思えば、これまた好きな事をベラベラと語ってきて、大変に不愉快ですね。そうは思いませんか?』と言う意味合いで使っているのだと、私は経験から察する。



 静かな怒りを学長は彼女へと向けていたのだ。

 ……これは少しだけ気まずい状況だと私は思う。



 出来る事であれば、私も彼女の援護として何かしら擁護を述べるつもりでは居るのだが、その相手は部屋に入ってからずっと視線で私に語って来ているのであった。『──お前は喋るなよ』と。



 ──よしっ、ならばこの際だ。正直に話そう。

 私はこの学長と呼ばれている人物が苦手である事がわかった。

 ……何故なら、目の前の学長は耳長族(エルフ)の『淑女』であったからである。



 私は昔からこういう時、淑女達との相性が(すこぶ)る悪い。

 なにせ、ほぼほぼ意見が食い違ってしまうので話が拗れる事が多く喧嘩になってばかりなので、そりゃ相性もいい筈がなく……。



 それにこれは、ただ単に男女の考え方の差とか言う問題でもなく、他の男性エルフ達と比べて私が礼儀知らずで紳士らしくないというのも理由が大きい。

 ただ、私としてはもう苦手意識がついてしまっているので、基本的に彼女達と余計な争いを起さない様にしようと思うと、あまり関わらなくて済む距離へと自然と足が離れてしまうのであった。



 なので、同族の淑女達のからすると、私の言動はかなり変に感じるらしい。

 友(淑女)が教えてくれたので先ず間違いが無いだろう。

 ……だが、苦手だからと言ってこの重苦しい雰囲気をそのままにはしておく事はできないだろうと私は思った。



 何もここまで遊びに来たわけでもないのである。

 だから私は自分の役割を果たすためにも、二人へと声を掛ける事にした。



「少々、口を挟ませて貰うが、私はいったいどこで魔法を──」


「──挟まないでください」



「…………」



 私がこの暗い雰囲気を変えようと思って声を掛けたら、更に雰囲気は悪くなったのである。

 学長の即シャットダウンであった。

 ……よく見ると、元講師である彼女へと向けている視線よりも幾分か更に冷たくなった眼差しで、学長は私を見つめてくる。



 胃が痛む気がするが、仕方がない。

 ここは私から友好的に話しかけていくべきだろう──



「──だが、そう言う訳にもいかぬのだ。こちらは彼女と契約を結んでいる。今の雰囲気だと、それに支障が出かねん状況なのでな。話だけでも確りと聞いて欲しい」


「……契約?一体何のです?」


「ん?聞いている振りだけで、彼女の話をちゃんと聞いてはいなかったのか?『私が魔法を使って見せる』という契約だ。まあ、詳細までは彼女も語っていなかったので、もう一度ちゃんと伝えるが、覚えられなかったら何度でも言ってくれ。何度でも話し直す。……ゴホン、彼女との契約では、私がとある魔法を使う事になっており──」



 『彼女の話をちゃんと聞いていなかったのか?』と私が尋ねた辺りから、学長の額には『──ピシリッ』と青筋が一瞬浮かんだのを私は見逃さなかった。


 それに、私が話をすればするほどに学長先生の不機嫌さが増している気もする。……何でだろう、どうやら私は、何か学長の気に障る事でも言ってしまったらしい。

 だが、それが何かわからなかった。



 ……と、とりあえずはこのまま話をしきってしまおう。

 私は口下手だが、精一杯説明するので、どうか許して欲しい。

 だが、私が契約の内容を語ろうとしたところで、今度は学長の方から口を挟み返されてしまった。



「──どうやらあなたは、あまり紳士的な方ではないようですね?礼儀が全くなっていません。そんな粗末さではエルフの男性としてはちょっと失格ですよ?いったいどこの森の方ですか?」



 学長から漂って来る雰囲気は、控えめに言って最悪である。

 だが、ここで更なる悪化を恐れて口を閉ざしても、きっと問題解決にはならないだろうと思い、私は答えられる事だけを正直に話す事にした。



「答える義理はないな。私はただの冒険者だ。紳士ではない。それに礼儀の話をするのならば、人が話している途中で話しかけて来る君も、あまり感心できないな。……先ほど彼女の話を聞いていた時と同様に、最後まで話は黙って聞き、全てが聞き終わってから質問をして貰えると望ましい。分かったかな?……ゴホン、ではもう一度話すぞ」



 ──ビキッ!!



 ……ん?なんだろう。学長先生が座っている椅子の傍で、強く床板が軋んでいる様な、少し破砕音に似た何かが聞こえた気がした。気のせいだろうか。


 まあ、これだけ外見が立派な建物なのだから、内部も同じく立派で丈夫に違いないとは思う。

 それに、私達が今居るのは学長室らしいので、そうそう床が軋む様な貧相な作りになっている訳も無いのである。


 ……よしっ、そうとくれば、『ここは一つ、相手の長所を少しでも褒めておく事で、関係性の修復を図るのも肝要だろう』と私は思った。

 なので──



「──随分と丈夫な床のようで、喜ばしい事だな」


「……なんですって?」


「あ、あの!ロムさんっ!学長先生っ!お、落ち着いてください!お二人が言い争っても何も良い事はありません!私達は、そんな事をする為に来たわけではないのです!魔法技術の向上の一助にでもなればと思い、こうして『新たな発見』を携えてきたのですから、先ずはその事をについて、是非とも建設的な話し合いをしましょうっ!」



「……ふんっ!それで、いったいなんなのですかっ!?その『新たな発見』と言うのはっ!」



 学長先生は、激しい怒りを表しつつ私の事をギロリと睨みつけてくる。

 ……やはり、この相性の悪さはどうにもしがたいものらしい。

 まるで『お料理』をしているかのような手応えの無さである。……悲しい。



 ──だが、結果的には、学長先生から元講師の彼女への怒りはなくなったらしく、話が先へと進んだことは僥倖であった。

 それに、彼女が取り出したものを見たその瞬間、学長は椅子から『ガタンッ!』と勢いよく立ち上がると、目を大きく見開く事になるのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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