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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第244話 浮木。




「あのっ!あの部屋なんですけどっ!!」



 翌朝、エアが隣でニコニコしながら、元講師の彼女が何やら抗議をしてきた。

 それほど気に入って貰えなかったのだろうか。

 手抜きをせずにちゃんと作ったつもりだったのだが……。



「いえあのっ!あれだと逆に広すぎてしまって、その、落ち着かないと言いますか。わたしはもっと小さい部屋で充分ですから、そちらに変えてはいただけませんか?」



 そうか。それ程広くしたつもりはなかったのだけれど、なんとも彼女は謙虚な人のようだ。

 ただ、広いのがかえって落ち着かないというのであれば解決するのは吝かではない。勿論、直ぐに対応させて貰う。

 だが、全体的に部屋を小さくするだけでいいのだろうか。他には要望はないかな?家具が足りないとかはあったりするかな?



「はい。それ以外は大丈夫です。……あっ、そうだ。あの、部屋にある魔法道具についてなんですが……」



 おお、なんだろう。魔法道具に何か問題でもあっただろうか。

 彼女はとある天才魔法道具職人達の魔法道具がどうやら何か気になるらしい。

 それ程変なものを置いてはいない筈だし、部屋を機能的に使えるように幾つか設置しただけなのだが何か失敗した、かな……。



 私が魔法道具を設置したのは確か……必需品である水場があるのは当然として、簡易的な食事を作れる用に竈の様な火を使える場所を作った時に、それぞれ水と火の魔法道具を使った。

 そして、他には部屋の中でも心地良い環境で過ごせるようにと思い、風が出る魔法道具で室温も調整可能にした筈だ。

 それから、【土魔法】の応用でもあるのだが、簡易的なトイレも魔法道具で作ってあるので、誰に遠慮することなくのんびりと過ごす事が出来ると思う。


 後はなんだったか……ああ、そうだ。大き目の水場もあるので、そこで水浴びも出来る様にした位であろう。

 ……うむ。思い返してみても特に変な物は無かったように思うが、何が気になるのだろう。



 私もエアも基本的には浄化を使ってしまうので、排出も水浴びも普段はあまりしない。

 だが、そんな私達では気づけない何らかの欠点を、彼女は見つけだしたくれた様である。

 こういう気付きは物作りをする立場からすると、大変にありがたい意見だった。


 ……きっと話というのはそれをもう少し改良して欲しいという相談なのではないだろうか。ワクワクである。



「あ……いえ、そうじゃないんですっ!あんな高価な魔法道具を単純に使っても良いのかの許可を得たかったんですっ!」



 ……どうやら違ったらしい。それも使用許可が欲しかったのだという。やはり彼女は謙虚のようだ。

 最初の印象からもっと豪放磊落な人物かと思っていたが、なんとも気配りさんでもあるらしい。ふむふむ。覚えておこう。



 当然私は彼女に『好きに使って欲しい。それで何かあれば直ぐに言って欲しい』と伝えた。

 そうすると彼女はひくひくと少し引き攣った笑みを浮かべて『わ、わかりました』と答える。

 基本的にはあれば便利だろうと思い作っただけなので、どうかあまり気負わず好きに楽しんで使って欲しい。



 ──という事で、現状は最初の『部屋が広すぎる問題』を解決するだけである。

 部屋の中にある施設を削る事はしたくないので、全体的にスペースを小さくしていこうとは思うが、それをすると各施設に使えるスペースも当然小さくなってしまうので、もしかしたら中に居ると少し息苦しさを感じさせてしまうかもしれない。

 それを避けつつ要望を叶えるには、果してどうすれば良いのか……。



 ……ふむ。なるほど、これはこれで考えるのが中々に面白い。

 使用者に圧迫感を与えない為にも、先ずは天井を少し上げて対応してみるのはどうだろうか。

 それに、部屋の配色にも少し拘りをもって、薄く淡い色で視覚的に広く落ち着きのある空間にした方が良いかも知れない。

 他にも、ブツブツブツ──




「──えっ!?本当に二人とも浄化が使えるのっ?」


「え?うん、言ってなかったっけ?ちゃんと使えるよ?」


「それに、その……排出しないって言う今の話も、本当?」


「うんうん。本当っ」


「でもそれって、鬼人族が皆そうだったっけ……昨日空で教えて貰った『天元』の話も含めて、今まで私が教わって来た話と全然違う気がするんだけど……」


「んー、ロムが言うには、やっぱり個人差はあるって言ってたよ?ピンキリなんだって。それに訓練次第でこれもちゃんと成長するんだっ。わたしだって最初からここまで出来たわけじゃないよっ」


「そ、そうなのかもしれないけど、うっ、ダメだ。なんか価値観がどんどん壊れていく気がする。じゃあ、あのお部屋にある施設や魔法道具も、本当に好きに使っちゃっていいって事?魔法道具って一概に言っても、あれかなりの逸品揃いだったよ?絶対にとんでもなく高価な物ばかりなんだけど、私が本当に普段使いしていいの?壊したら高額の請求したりしない?」


「しないしないっ!気にし過ぎだってもーっ!最初から普通に使ってって言ってるのにーっ!」


「だってー、エアさんの部屋も見せて貰ったけど、魔法道具なんてあんまり無くて、普通にベットがあるくらいだったから……まあ、奥にはもう一部屋とんでもない大量の服があって驚いたけど……」


「あははっ、やっぱりあれ驚くよねっ!でも、ロムが好きなんだよ『お裁縫』。だからいっぱい作って貰っちゃった。それに寝る時に使うベットの部屋は、ロムのお部屋に少し似た感じにして貰ったっ!」


「はぁーなるほどねー、これは問うまでもなく散々甘やかされてるなー、このお嬢さん。……あの、普通さ、ここまで揃ってるって無いからね?ちゃんとわかってる?」


「もちろんだよっ!ロムが凄いって事は、わたしが一番知ってるんだからっ!」


「うーん、そう言う事ともまた違うんだけどー。──って、ロムさんは明後日の方向を見ながら何か考え込んでいるけど、どうしたんだろう」


「今はきっとお部屋を作り替えてるだと思うよ。……でも、本当に良かったの?もっとお部屋が小さい方が良いなんて言っちゃって。ロムはちゃんとその要望通りにしてくれると思うけど」


「うーん、広すぎて落ち着かないのは本当だったし。わたしは二人の好意に甘えて協力して貰ってる立場だからね。もっと身の丈に合った部屋で十分かなって思って。流石にわたしが二人よりも広い部屋で暮らすのはちょっと違うと思うよ。──って、エアさん?どうしたの?」


「……これ、来るよ」


「……へっ?来る?な、何が?」


「──敵みたい。ロムッ!」



 ああ。私が部屋作りに集中し始め、エア達が何やら楽しくお喋りしていたのだが、それを無粋にも邪魔する不届き者が突如として現れたらしい。



 ただ、それをエアがまだだいぶ遠いこの範囲で気付けたのは大変に喜ばしい事だと私は思った。

 まあ、実はそこまで吞気にしていられる状況でもなく、現状はその不届き者からの攻撃がこの家へと向かって来ており、かなり危険でもあるのだが……。

 因みに、簡単に言うとこのまま何もしなければ『土ハウス』は木っ端みじんになりそうである。



 でもまさか、こんな比較的大陸に近いこんな場所で、こんなのが現れるとは思わなかったと言うのが本音である。これは中々に珍しい事なのだった。

 ……また何かおかしい事でも起きているのかもしれないが、なんだとしてもまあ迷惑な話である。



 私は一先ず、探知の範囲を広げ、相手の攻撃と相手の全体姿を完全に捉える事を優先させた。

 そして、そこそこ広げて視てみると、既にこちらへと恐ろしい勢いで近付いて来ている敵の攻撃が何なのかよく視る。


 それによるとどうやら、その敵の攻撃は鋭く、海中による水の減衰をほぼほぼ受けずに、とんでも無い衝撃を宿したままあっという間に『土ハウス』へと接近してきている様であった。……ほう、直撃間違いなしの完璧な狙いだ。当たるまでもうあまり時間も無い。



「ロムっ!これクラーケンじゃないっ!」



 そう。今回の海の相手は珍しい事に海ではお馴染みとなったクラーケンさんではなく、ちまちまと遠距離から『ブレス』を吐いて来る嫌な奴であった。

 まあ、そこまで言えば分かるかもしれないけれど、当然相手は──



「──ロムッ!ドラゴンだよッ!!」



 ──そう、海の中にいるのは、水属性の羽トカゲである。


 この相手は、普段滅多に人前には姿を現わさない事で有名な筈なのだが、何を思ったのか突然プレゼント持参でやってきてくれたらしい。……なんとも有難くない話である。



 ……だが、態々やってきてくれたとあれば、こちらも精々ド派手に歓迎してやろうと、私とエアは急いで外へと飛び出していくのであった。




またのお越しをお待ちしております。

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