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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第238話 朽木。





「なあ、あんたら。どこの誰だか知らねえけれど、そんなとこでいちゃついてんなよ~邪魔だぞ~」



 私がエアの機嫌が直るまで角突き頭突きを受けていると、途中でそんな声が路地から聞こえて来た。

 そちらに居たのは、少し見すぼらしい格好をした人物で、その髪のぼさぼさ具合から一見して世捨て人にしか見えない感じである。


 ……だがちゃんと視れば、その身に宿る魔力の量は潤沢であり、今の雰囲気はただまやかしを用いただけの偽装に過ぎず、かなりの魔法の使い手である事が分かった。



 エアはその人物を視ると、首を傾げてから一歩下がり、私の背に半身を隠す。

 どうやらまやかしによって上手く判断が出来なかったようで危険人物と認識して、警戒したらしい。

 そのエアの切り替えの早さは大変に素晴らしかった。


 相手の人物は、ポリポリと頭を掻きながら同様にエアの仕草を見ると、『へぇー』と小さく声をあげる。



「そちらの子は随分と鋭いんだな。……で?一切反応すらしないあんたは、流石のエルフと言う事かい?あの学長と同じ様なのがこんな所にもいるとは思わなんだ。あーやだやだ。でもこれって絶対に世間は狭いやつでしょ?こんな人がそうそう何人も居てたまるかってんだ。どうせあんたも学園の関係者なんだろ?……はぁー、さっき迄のやり取りも釣りだったってわけねー。はぁ~花街行く道すがら、邪魔だったから思わず声を掛けちまったよ~……やーだーやーだー、面倒だー。学園に戻りたくない~。何もしたくない~。このまま路地裏で酒飲んで~、寝て~、花街通って~、グダグダと管をまくだけの生活をしていたいわ~。これ以上金も要らんし~、争いも興味ね~。……はぁー、やる気でね~」



「…………」



 その人は、いきなり何かをブツブツと語り始めると、いきなり地面へと横になり始めて、まるで駄々をこねる子供の様に辺りの地面をコロコロと転がり始めた。

 ……なんか、急に変なのがやって来たな。


 その人物はどうやら花街に行きたいだけの様だし、ここは関わらずにさっさと去るのが吉だと私達は判断する。



「──帰ろうか、エア」


「──うんっ、ロム」



 これには流石のエアも機嫌を一瞬で戻すと即答して、私達はさっさとこの場を離れる為に手を繋いで逃げ出し始めた。


 すると、そんな私達に気づいた相手は『あっ』と声を出し、魔法ですーっと身体を浮かべると、そのまま地面を寝ながら滑るように私達の後をついて来たのである。……来るな。君の行き先はあっち。花街は向こうだろう。



「おーーい、なんでだー。俺を連れ戻しに来たんだろー?」


「違う。勘違いだ。君は好きな場所に行きなさい」


「いやーーっ、嘘だ~、そのしゃべり方は学長そっくりだもんー、しょうがねー、あんた達に連れ戻されてやるかー。本当は戻りたくねえんだけどな~仕方がないな~」



 来るなって言ってるのに、何で来るのだ。

 戻りたくないのならば無理はする事はない。君は路地裏に戻りなさい。こっちに来るな。


 その人物の始末の悪い所は中々の魔法の使い手であり、一応は【虚】にも手を出している様で、まやかしが多少なりとも使えて私達以外の街の人達にはその姿を認識し難くしているという点であった。



 それに『迷惑だから付いて来なくていい』、『学園など知らない。連れ戻す気などない』、『学長なんて者も知らない。そもそも関係者などでもない』と、幾ら言っても話を聞いてくれないのである。


 それも、なんらかの判断基準と興味があるのか、既に相手は私達を逃がす気はないらしくどこまでも追いかけて来る。良くわからない学園の関係者だと決めつけている様だった。



 走りながら逃げている私達の横を穏やかな街並みがあっという間に過ぎ去ってしまう。

 因みに、バウはエアの背中にガシッとしがみ付いている様だ。



 そんな私達の後方二メートルくらいには、未だ変わらずずっと寝ながら地面を滑って追って来る不審人物がいる。


 ……ふむ。このままだともう少しで宿にも着いてしまうな。

 ただ、あれ以外の不審人物の気配はここに来るまでに感じられなかった。


 例の追手の件もあるので、もしかしたらと思って、密かにここまで泳がせていたわけなのだが、該当する者が他にいないならば、ここらでもう追いかけっこも終わりにして良いかも知れない。



「エア、もういいだろう」


「うんっ!わかったっ!」



 そうして私達は一緒に立ち止まると、振り向いてその人物を見る。

 どうやら本当に私達をどこかの関係者だと勘違いして追いかけているだけだろうと、現状は判断した。

 ならばもうこんな茶番をして、ただただ追いかけられている必要もない為に、その人物は少し強めの魔力で雁字搦(がんじがら)めにしておいた。

 中々の魔法使いであるから、普段のものよりも少し魔力増しである。



「……君、少し尋ねたい事がある」


「うげっ、なんだっ!?急にこの魔力圧。身体が動かなっ!やばいっ!!……!?……!!!」



 私がその見すぼらしい服を着た女性(・・)の身体を魔法で動けなくすると、彼女は危険を感じたのかまやかしを解いて突然叫び出しかけたので、私はすぐさま【消音】を使って彼女の周りの音も遮断した。


 すると、彼女は随分と驚き、急に何かを叫んで暴れようとしているが、既に私は周りの迷惑にならない様に彼女の代わりにまやかしを施しておいたので、周囲は誰もその異変に気づけずにいた。


 彼女は周りが何の反応も示してくれない事に気づくと、私がまやかしを使える事を察した様で、急に静かになり、身体の力と魔力の圧をふっと緩めた。これは魔法使い同士で伝わるある種の降参の意である。


 私はそれを確認してからゆっくりと【消音】を解くと、再度彼女に質問を投げかける事にした。



「問いたい事がある。無駄口は不要。首を振るか頷くだけでいい。……理解できたか?出来たのならば、頷きなさい」



 女性はコクンコクンと首が落ちるんじゃないかと思う程に頷きながら、その目を大きく見開いている。

 なんとなく彼女が嬉しそうに微笑んでいる様に見えた。

 だが、その意味まではよく分からない。

 なんだろう、このまるで何か凄い発見したとでも言いた気な表情は……まあ、いいか。


 とりあえずは大人しく質問には答える気があるみたいなので、私は知りたい情報を色々と尋ねていった。



 ──その結果、分かったのが、彼女が追手とは直接の関係はなさそうだという事と、彼女が『吹雪の大陸』と呼ばれる私達が目指す先の大陸から交易船に乗ってここまで逃げて来ていた人物だという事。


 そして、とある学園で彼女が魔法講師をしていたという事であった。



「……講師?」


「そうです!俺は……いえ、わたしは魔法学園にて講師を務めておりました!」



 まやかしによって自分を男性に見せかけようとしていた彼女は、私達には全く効果がないと悟ったのかすぐさま口調までも本来のものに戻し、畏まってそう答えた。


 見すぼらしかった服には一応浄化をかけて綺麗にし、先ほどの移動時にどこかの地面で引っ掻けていたのか、彼女の服の所々は大きく穴が空いてしまってもいたが、ペラペラと軽快に語る彼女の話を聞きながら私は手早く繕って隠した。……もう少し慎みなさい。



 だが、彼女の方はそんな私の懸念も余所に、自分の服が破れている事なんかよりも、穴を繕う為に私が使った魔法の方に興味深々らしく『お裁縫』を見ると、彼女は珍しいものを目にして驚いたというよりは、まるで宝箱でも発見したかのようにギラギラと瞳を輝かせて、私の傍へと尺取虫の様に這いずって近寄って来るのであった。



「これこれ。それではまた服が汚れるし、破けてしまうぞ。……仕方ない」



 だが、そう言っても彼女は止まる気配が無かったので、私はしょうがなく雁字搦めにしていた魔力を解いて彼女を解放したら、彼女はザッと勢いよく立ち上がると、全力で私の胸に飛び込む勢いで、飛び込んで来たのである。


 ただ、そんな事は許さないとばかりに、その瞬間、私と手を繋いでいた筈のエアが動き出し、クルッと身を翻すと私と彼女の間にその身をサッと滑り込ませると、彼女のダイブを代わりにブロックしてくれたのである。


 それもただブロックしただけでは無かった様で──ペチンとビンタ一発を彼女のほっぺに繰り出しており、既に彼女を地面へと叩き落としていた。



「…………」



 すると当然、そんな両者の視線はぶつかり合い、片方はエアが『ロムに触らないでっ!』と彼女を睨みつけ、もう一方は彼女が『邪魔しないでっ!』とエアを睨みつけ返すという、謎の修羅場空間が形成されてしまったのである。……なんだこれは。



 そして、そんなエアと彼女は、無言のまま視線だけの口論をし始めてしまう。



 そんな光景を見ていると、いつの間にか私の背中にはバウがパタパタと飛んできており、ストンと乗っかってきた。


 この不思議な空間には、流石に賢いバウも何が起きているのか理解不能だったらしく、『何をしているの?』と不思議そうに首を傾げているのが何とも愛らしかった。……おやつ、食べるか?「ばうっ!」そうかそうか。





またのお越しをお待ちしております。

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