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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
236/790

第236話 応機。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




「嫌なのか」


「うん、やだ」


「どうしてもか」


「うん、どうしてもやだ」


「そうか……」



 ……困った。

 完全にエアは少女の味方的なポディションに立ってしまっている。まるで守護者だ。

 エアの感覚だと、このまま少女を見捨ててはおけないという気持ちになっているのだろう。


 そして、少女の方も素直で賢く、いつの間にかエアの傍にピタッと寄添って立っており、この人は頼りになるとエアに期待の眼差しを送っていた。



 ……なるほどなるほど。随分と世渡り上手な少女のようだ。

 それもこれは、少女が企んでやっていると言う訳でもなく、ただただ流れに身を任せて自然と行っている事に過ぎないのだから、なおさらに厄介なのである。



 『単純かつ純粋ほど魔法使いに効く』と言うのは昔から冒険者達や魔法使いに伝わる教訓の一つなのだが、今がまさにそれであった。


 それはつまりどういうことかと言うと、魔法を使う者にはよくある話で、相手が何をしてくるのかを『読む』という行為に魔法使い達は傾倒しがちなので、敢えてその『読み』に付き合わず、何も考えのない単純な力業で突破した方が、魔法使いと相対した状況では有利に進められることが多いという話である。



 だが、同時にその力業の大体は無理をしているからこそ発揮できている場合も多く、『そこまでしなくても他に方法はあるだろうから、少し冷静になりなさい』という、戒める時でも使われたりする教訓なのでもあった。




 ──さて、それでは話は戻すけれど、つまりはこの場合において、少女とエアは心配で弟の様子を見に行こうとしている訳なのだが、行くのはご両親のケガが治り、お金を稼いで、弟を連れ戻せる段階になってからの方が、私は良いと思ったのだが……それからではダメなのだろうか。



「心配だよ。会えもしないんだよ?こんな話を聞いたのに、動かないのはいつものロムらしくないっ!」



 ……そうか?

 ではもし、その店に行き、弟が見ていられない状況になっていたら、その時はどうするつもりなのだ?

 見て見ぬふりをして帰って来るのか?その方が少女にとっても弟にとっても辛くはないか?



 ……いや、その店がどういうものなのか予想がつく私としては、二人にとって許容できない行為を、既に弟がやらされているだろう事は想像に難くない。

 きっと君らが行けば、恐らくは嫌な思いをする事になるだろう。

 そして、怒りや悲しみを覚えるはずだ。



「じゃあ、その時は助ければ──」


「──力尽くでか?」


「……ロムだって、いつも、してるでしょ?」



 私の場合は、それはいつも何かしらの理由が基点になっているから、それを判断し動いているだけなのだ。

 それに沿えば、この場合、私は弟さんを助けたいと思えない。



 そもそも何故、エアはそれをするのだ?

 自らに誓うか。

 その弟を助けるのが、自分の本当にしたい事であり、その為に魔法使いになったのだと自らに誓えるのか?魔法使いとしてのこれまでの全てを掛けられるのか?



 ……エア、少し冷静になって欲しい。

 それを力尽くで行えば、もうエアは冒険者でもなくなる。

 気づいているか?



「…………」



 聞けば弟さんは確りと契約して自らを望んで売ったのだ。

 店はその対価として、両親のケガが治る分だけの十分な金を支払った。

 そこに結ばれた契約を無理矢理破るという事は、魔法使いにとっては約束を軽んじるという行為そのものにあたる。

 私はそれの方が見逃す事が出来ない。



「……でも、一目安全を確認する位はしても良いじゃないですかっ!わたしは弟が無事な姿を見たいだけなんですっ!お父さんもお母さんも心配してます!絶対に迎えに来るって、もう一度ちゃんと弟にも伝えてあげたいっ!」



 ……なるほど。君の気持ちは分からなくもない。

 とても優しく、尊いものだ。


 だが、それは君だけの気持ちである。

 そこには弟さんの気持ちはあまり考慮されていない。



「そんなことないっ!!」



 ……そうか?

 君は、弟の覚悟を確りと聴いたのではなかったのか?

 姉と両親の為に、自らを売りに出した彼は、君に頼んだのは何なのだ?

 様子を見に来てくれと頼んだか?両親の事を頼んだのではなかったのか?



「…………」



 そして、その時に君は弟となんの約束をしたのだ。

 『両親のケガが治ったら、絶対に連れ戻す』と約束したのだろう?

 今から行く事で、その約束は叶うのか?



 正直に言おう、私は君の事よりも、君の弟さんの方を気高いと思う。

 彼のその想いの方こそ私は尊重したいと思う。



 君が今からしようとしている事は、君の心と両親の心の安心に繋がるかもしれない。

 だが、弟は再びそこで待つことに変わりはないのだ。

 君が去った後の、彼が感じる再びの残酷さが君に分かるだろうか。



 君と一時だけでも会えた事で喜びを感じはするだろうが、その後に彼に待つのはその辛さなのである。



 ……それでも良ければ、私は止めん。



「…………」



 私の言葉に、少女は何かを言いたいけど言い返せない悔しさを滲ませながらも口を閉ざした。





 ……そこで私は、魔力で彼女に似た顔立ちをしている弟の姿を既に捉えている事を伝える。

 そして、私が視て判断する限り、彼は元気であり、無事である事を私は少女へと告げた。



「ほんとうですかっ!!」



 ……ああ。先の話は、彼の身の安全を確認したからこその話でもあった。

 もし彼の身に何かがあれば、その時は店側に契約違反を伝えて、私も連れ戻す事に協力しただろう。



 だが、今回の場合はそうではないのである。

 彼は約束を信じて必死に頑張っているのだ、その彼の為にも君は家へと戻り、両親のケガが少しでも早く治る様に尽くして欲しい。

 


「……はい。分かりました」



 ここから一人で戻れるかね?



「はい!大丈夫です!もう迷いません!」



 そうか。一日も早く君達家族が揃う事を私も願っている。頑張って欲しい。

 少女は私の言葉に頷くと、大きく駆け出して家へと戻って行った。

 あの表情であれば、もう大丈夫だろう。両親の事も彼女に任せておけば問題あるまい。



「…………」



 ……どちらかと言うと、問題があるのはこちらの方である。


 よく見ると、エアはまた『プクーーッ』と頬をパンパンに膨らませていたのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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