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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第234話 和顔。





「おかえりなさいませ」



 私達は【転移】で『白銀の館』へと帰って来た。

 すると、これまた丁度良く老執事が通りかかった所だった様で、彼は驚きながらもまたいつもの微笑みで朗らかに出迎えてくれる。

 なんだか久々に聞いた気がする老執事の声が、耳にとても心地よく感じた。



「思っていたよりもお早いお帰りでしたが──おや、そちらの方々は?」



 私達の方へと近寄ってきた老執事は、私達の背後に居る見知らぬ三人の姿に気がついたようだ。

 ただ、背後の三人の方はまだ老執事の事よりも、いきなり変化した景色と屋敷の中の光景に興味があるらしくキョロキョロと見回していた。……聞けばこれが初めての【転移】だったそうで、かなり驚いたのだとか。


 一応、事前にちゃんと【転移】を使うと説明してはいたのだが、本当にいきなり知らない所へと来た事で、今は冷静さよりも驚きが勝ってしまっている様だ。



 そこで先ず、私は両者の間に入りそれぞれの簡単な紹介をする事にした。

 老執事には少し詳しく彼らがここに来た事情を説明して、この三人を屋敷の空き部屋に住まわせてあげて欲しいと頼んだ。



「なるほど。そう言う事情でございますか。承りました。お任せください」



 『そんな事でしたら大した問題ではございません』と言わんばかりに、即答してくれる彼の優しさにはいつも頭が下がる想いである。いつも苦労を掛けてすまんな。ありがとう。



 因みに、言うまでもないかもしれないが、青年達にはこちらの大陸に慣れるまでは暫くこの屋敷を拠点として使ってもらうつもりだ。

 もちろん、必ずここを使えといったわけではない。

 もしここが嫌だったのならば、その時は好きにして欲しいという事もちゃんと伝えてある。



 ただ、いきなり全く知らない土地に連れてこられて、何もわからず右往左往して時間を無駄にするよりも、ここを拠点として有効に使って貰い、その分積極的に冒険者として活動をして貰う事で、街の人やこの屋敷の人達を助けてあげて貰えたら嬉しいという、そんなお願い交じりの提案を彼らにしたら、快く引き受けてくれた。……出来れば屋敷の皆とも仲良くなって貰えたら更に私としては嬉しく思う。




「お三人共、これからはよろしくお願いします」


「あっ、はいっ!どうかよろしくお願いします。こうして別の大陸に来たのは初めてなので、色々と不作法な振る舞いがあるかもしれません。だから、その場合はご指摘して貰えると助かります」



 老執事が青年達に話しかけると、彼らは姿勢を正してそう受け答えをしていた。

 そんな青年達に老執事も朗らかに笑う。



「はははっ、なるほど。でしたら、私達は同士ですな」


「はい?」


「私達も同じなのです。お二方に他の大陸から連れてきていただいたのですよ。この屋敷に居る者達はそれぞれ色々な場所からやって来たものばかりなので、気にする必要はありません。だからここでは、あなた達はあなた達らしく、思うが儘に心行くまでお過ごしになってください。皆、歓迎いたしますよ」



「有難いです。けど、俺達こんな立派な屋敷に住んで、本当にいいんですか?」



「もちろんでございます。ここは今日からお三方にとっても『家』なのだとお思いください。言わば、この屋敷に住む者達は、皆『家族』の様なものです。……だから、先ほどは歓迎すると言いましたが、申し訳ありません、少し言い直させてください。……ごほんごほん、んん。皆さん、おかえりなさい」



「……た、ただいまです。よろしくお願いします」



 その瞬間、青年達は老執事の言葉に少しジーンときてしまったのか、ぼーっとしているのが分かった。

 ……どうだ、彼は温かいだろう。沢山癒されるといいぞ。



 そして、君達も屋敷の皆と同じ様に、どうか幸せになってくれ。




「──バウさんっ!エアさん、ロムさん!色々とありがとうございましたっ!」



「ばうっ!ばうっ!」



 そんな一通り彼らと老執事のやり取りを眺めていて、もう大丈夫そうだと感じた私達は、元いた街へと戻る事に決めた。

 その際、青年達と老執事には『身体をちゃんと労わり、無理はし過ぎない様に』と伝えて、屋敷の皆にもよろしく言っておいて欲しいと頼んでおく。



 ──ただ、そうした彼らとの別れの挨拶のその途中、私とエアには色々とエピソードを混じえた別れの言葉があったのに、バウにだけは名前すら中々彼らから呼んで貰えず、その事に白くて糸目のプニプニドラゴンのぬいぐるみこと、バウは『僕忘れられてるっ!仲間外れにされてるっ!』と『ばうーっ、ばうーっ』と悲し気に鳴いて、しょんぼりと落ち込んでしまうという出来事があった。



 だが、流石にそこは青年達もすぐさまバウのその仕草に気づいてくれたらしく、慌てて訂正してくれたので、私は思わずほっこりした。近くに居たエアや老執事もその光景にはとても微笑ましそうにしていた。






「今日のロム、頬っぺた上げなくてもニコニコしてたねっ!」



 青年達や老執事と別れを告げ、宿へと戻って来ると、人数が減った事で寂しさを感じるかと思ったが、エアのその言葉で悲しい気持ちはすぐさま吹き飛んでしまった。



 ……うーむ。どうなのだろうな。ニコニコしていたのだろうか。

 だが、他の人どころか私自身でさえもその判別はつかないけれど、エアがそう言うのならばきっとそうだったのだろう。

 確かに今日は良い一日だったと思う。

 このままいけば、私が自然と笑顔を浮かべる日も近いかもしれないと自分でも思った。



 こういう楽しい日がいつも続いて欲しいものである。




またのお越しをお待ちしております。

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