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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
230/790

第230話 逸言。




「ばうっ!?」



 バウも驚かせてしまって済まなかった……。

 だが、驚かせたからと言って、私の胸に頭突きするのはほどほどで頼む。

 エアもバウも落としてしまう。落としたくないのだ。



「あの、大丈夫ですか?」


「ああ、君達も突然済まない。驚かせてしまったな」



 私達と一緒に来ている三人の青年達もエアが突然気を失い倒れた事に驚いて、心配して声を掛けて来てくれた。

 追手の心配もなさそうだし、今日はこの辺で夜営をしても良いだろう。

 ちょうどいい時間帯でもあった為、私は足を止め彼らへと声を掛けると夜営の準備をし始めた。

 その間エアは少しだけ宙に浮かんだままで寝ていてもらう。



 彼らは気を遣ってくれたらしく何でも率先的に夜営の準備を手伝ってくれたので、大部分は任せる事にした。

 なので、私は焚火だけ準備してその傍へと座り、魔法で浮かべていたエアを自分の腿へと頭を乗せる。

 今日も焚火の番をこのままのんびりとするつもりだ。



「……あの、少し話しを聞かせて貰えませんか?」



 だが、そうしていると、夜営の準備が終わった後の食事時に、彼らがそう言って近寄って来た。

 ここ数日はいつも私が火の番をしていたので、彼らも火の番をやってみたいという事だろうか。

 まあ、そう言う訳であれば私としても否やは無い。是非とも経験して行って欲しい。



 夜営を一緒にする事自体は大して珍しい事ではないのだが、基本的に彼らはエアと話す事が多く、私とやり取りする機会はこれまではあまりなかった。

 だから、エアが私の腿で寝ている状態で、彼ら三人と私とバウという組み合わせは少し新鮮でもある。

 思えばちゃんと話をするのはこれが初めてかもしれないな。

 何か話したい事でもあるのだろうか。是非ともゆっくりとしていくと良い。



 ……因みに、バウはエアとは逆の私のもう片方の腿に顎を乗せており、彼らをその可愛くほっそりとした糸目で眺めている。



「あの、寝ているその子、鬼人族の……大丈夫なんですか?」



 どうやら彼らはエアの事が聞きたかったようだ。

 ……確かに、繰り返しにはなるが、彼らにとっては私との関りよりも、エアとの関係の方が大きい。


 なにせ、彼らは三人共エアに襲い掛かり、逆にエアにボコボコにされて、説教されて、冒険者としての生き方を導かれた。

 そう考えるとエアの存在は彼らの中でかなりの影響がある事がよく分かる。


 おそらくだが、彼らの視点でのエアは、完全なる慈愛の女神にしか見えてないのだろう。……うむ。きっとそうに違いない。ならばそこまで心配したくなるのも当然だと私も思った。



「えっ、あ、いや、別にそこまでは誰も言ってな──」



 まあまあ、皆まで言わずとも理解している。

 とりあえずは彼らが知りたいと思う事を教えても良い範囲で教えていく事にしよう。

 それ以上を聞きたい時には、直接エアに尋ねてほしい。



 ゴホン。とりあえず、エアが何で倒れたのかが知りたいようなので私はその理由について教えた。

 『鬼人族とはこんなに突発的な眠りに落ちるものなのか』と聞かれたので素直に答える。


 それは違う。私が悪かったのだと。



 今回の事は私に原因があって、エアに高圧の魔力を渡してしまったからエアが気を失ってしまったのだと正直に話した。



「何故そんな事をしたんですか?」



 故意ではなかったのだがな。純粋に魔法使いとしてエアが成長している事に私が喜んで、いや、喜びすぎてしまったが故に、お祝いで魔力を渡したらそれが強すぎてエアは気を失ってしまったのだ。



「へー、そんな事があるんですね……」



 彼らは魔法については疎い方であるらしく、初めて聞いた現象に驚いていた。

 エアが倒れた原因が私にあるのだと知ると、最初は少し微妙な顔をしていたが、魔力を渡した理由が魔法使いとして成長を喜ぶものである事を聞くと『それじゃ、しょうがないですね』と言って理解を示してくれたのである。……君達、良い子だな。



「それであの、そのエアさんが言ってたじゃないですか。あなたが俺達をその、冒険者に向いていると思っているって、それはいったいどういう理由なんですか?」



 ……ああ。なるほど。そっちも聞きたかったのか。

 確かに。私はエアに言った。『君達はきっと冒険者に向いている』とな。

 君達であれば肩を並べて共に冒険者として活動したいと思ったほどである。



 それほどまでに、君達に素質……適正……んー、なんと言うか、冒険者としての独特の雰囲気とでも言えばいいのか、そんな特別なものを感じたのだ。



「雰囲気、ですか?」



 ああ。人にはそれぞれ性質がある。

 それらは息づかいだったり、身の動かし方だったり考え方だったり、魔力の使い方だったり、視線の置き方、声の出し方、周囲をどう感じるか、または周囲へとどう感じさせるか……まあ、そんな色々から判断する事が出来る。



「は、はぁー……なるほど」



 これらは基本的に人それぞれの感覚に頼った判断に過ぎないから、本来は確かな事とは言えない。


 普通に君達も他の人を見ていて、この人はきっとこんな人なんだろうなとか思う事があるだろう?それと同じである。



「ああ。なるほど。あります。……じゃあ、それってただの勘って事ですか?別に確証があって言っているわけではないと?」



 ……ふむ。なるほど。彼らは何か確証が欲しくて聞いて来たのか。

 確かに新しい事を始める上で安定を求めたくなる気持ちは分からなくもない。


 ただ、この感覚をただの勘と言いきってしまえばそれで終わりだ。

 なので、そこに一つだけ考慮に入れて欲しいものがある。



「それはなんです?」



 私の経験だ。

 これまで何千何万の者達を見て、感じ、魔力で探知してきた。

 時には魔法を使って相手の体を癒し、時には相手を倒すために全力で攻撃した事も数えきれない。



 ある意味で、第三者がする評価と言うのは、本人が自分に下す判断よりもかなりシビアになる。

 『こいつは戦える奴なのか。こいつはどんな動きをするのか。どんなことを考えるのか』と。


 そんな事に注目して観察し、自分の中に判断基準を作り、作ったその基準に相手を照らし合わせていく。


 そうする事でその内、『この相手は、かつて出会ったあいつと似ている。ならばきっとこいつもこれくらいはやるだろう』という予想がつく様になる。それが基準だ。



 その基準は当然の事、一人二人では精度が悪くなる。例え分かるとしても大雑把にしかわからない。

 だが、私の中にはその基準となる者達が先ほど言った様に、何千何万といるのだ。



 だから、その判断もかなりの正確性を得ていると自負している。

 もちろん、独断と偏見でしかない事は事実で、そこは否定しない。



 だが、そんな基準となる者達と比較してみて、君達の基準となったのは、かつて古き時代に私と肩を並べていた者達であった。



 つまり、君達は嘗て私と肩を並べていたそんな者達──激動の日々を送っていた中で輝かしい成果を残し、かつしぶとくも生き抜いていた当時上位の冒険者達──と同じレベルになれるのではないかと思ったのだ。



 君達ならば、きっとそうなれるだろうと私の経験が告げている。



 ……いや、そうなって欲しいなと思ったのだ。



「……すぅー、なるほど」



 彼らは私の話を聞くと、大きく息を吸いこんで、何度か頷いている。

 それに顔も少し赤い。喜んでいる?いやどうだろうか。

 だが、どうやら納得できる材料にはなったらしい。



 ……まあ、もっと言うならば、その基準において彼らはどう見ても盗賊をするような者達には見えなかったという理由も大きいのだ。

 

 彼らはおそらくは無理矢理に盗賊をやらされていた雰囲気があるので、なりたくて盗賊になった訳ではないだろう。あのまま盗賊を続けるのは、私からしたらもったいなくて見ていられなかったのである。



 だから、そんな彼らがもっと冒険者に興味を持ってくれるのであれば、彼らの聞きたい事は話せることは何でも話したいと私は思ったのだ。


 夜はそこそこ長い。彼らが眠くなるまでは、私ものんびりとどこまでも付き合うつもりである。





 ──そして、翌朝。




「へー、そんな事もあるんですねー勉強になります。……あっ、そう言えばエアさんもこの話は聞いた事ありますか?昨夜ロムさんから聞いたんですけど、とある凄腕冒険者は初めて川に行った際に、魚を取る為に道具は一切使わず、手掴みのみで魚を追いかけ続けたそうです。水で身体の動きが制限される中、それでも果敢に魚を追う様はそれはそれは凄かったそうで、最後は倒れるまで挑戦し続けたって話なんですけど、やっぱ世の中には常識に囚われない凄い冒険者が──」



 ──サッ。



 一晩寝てすっかり元気になったエアも含めて、皆で仲良く焚火の傍で食事をとりながら、色々と冒険者談義に花が咲いていた時の事。


 これから冒険者になる三人に、私が今まで出会って来た凄い冒険者達の昔話を聞かせている途中で、青年達の口から突如として出てきた『とある凄腕冒険者』についての話になると、エアは『サッ』と視線を私へ向けてくるのであった。



 ……どうやら私は、少ししゃべり過ぎてしまったらしい。

 エアが微笑みながら少し怖い顔をしているのが分かったので、私はそっと顔を逸らすのであった。





またのお越しをお待ちしております。



祝230話到達!


『10話毎の定期報告!』

皆様、いつも『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ。』を読んでくれてありがとうございます!



後ほども出てきますが、ここでも感謝を伝えさせてください。

本作品の総合評価のポイントが、現在の目標である500ptの半分である250ptに到達しました!あと半分で目標へと到達できます!

当然!書籍化というもう一つの大きな目標が、書籍化された後も頑張っていく事と同じ様に、

こちらの総合500ptも到達したら、どんどんと次の目標に更新していく予定であります!



もちろん、足元を疎かには出来ません。

確りと今できる事を、これからも地道にひたすら突き進んでいきます。

もう半分も油断せず、頑張って参りますので、今後も応援よろしくお願いします^^!


ブクマをしてくれている六十二人の方々(前回から一人増)!評価してくれている十三人の方々!

皆さんのおかげで、この作品の総合評価は250ptに到達しました!

本当にありがとうございます!


──さて、それでは着実に進んでいる事と、今一度自分の目標をちゃんと声に出していきます!

「目指せ書籍化!なおかつ、目指せ先ずは総合500pt(残り250pt半分行きましたっ!嬉しい)」


今後も『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ』を、是非ともよろしくお願いします!

更新情報等はTwitterで確認できますので、良かったらそちらもご利用ください。

フォロー等は出来る時で構いませんので、気が向いた時にお願いします。

@tetekoko_ns

twitter.com/tetekoko_ns

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