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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第229話 喜地。




 

「少々お待ちください」



 ギルドに入り受付嬢へと旅の報告も簡単に終えて、続いて青年達の新人登録を一緒にしてもらおうと思ったが、受付嬢が一度奥へと呼ばれて席を外すと、そのまま奥へと行ったまま全然帰ってこなくなった。

 ……既に待ち始めて十分程が経過している。


「ロム」


「そうだな」



 まだ十分程だと思うかもしれないが、既に状況が動き出し始めている事を私とエアは感じ取っており、間違いなく面倒事だと察した。

 青年達は『遅いなー』『でも、街に入るの久しぶりだね』『そうだな』とまだ少し呑気にしている。



 このまま待っていても、何かが起きた所でおそらく対応は可能だろう。

 だが、折角の彼らの新たな門出を邪魔されて、けちがつくのは正直面白くない。

 笑って始めようとしているのだ。邪魔をしてくれるなと思う。



 私は先ず静かに立ち上がり、密かに魔法を使った。

 それに続いてエアもスッと立ち上がり、青年達をツンツンと突いて同じように立ち上がるのを促す。



 青年達は私達が急に立ち上がったので『えっ、どうしたんだ?』と私とエアへと顔を行ったり来たりさせているが、今は状況を細かに説明しているのも時間が惜しい為に『ちょっと来て欲しい』とだけ言って、少し強引にだが一緒に来てもらった。



 ……因みに、まやかしを使っている為、周りからは私達の姿は変わらずその場にいる様に見えているだろう。



 私達はそのまま、街の外へと足を向けて、歩きながらエアが『ここのギルドの対応が悪いから、遅くなる前に次の街に行って登録をしよう』と簡単な説明をしている。


 だが、流石にこれには青年達も『何かがおかしい』と勘付いたようで、三人揃って私へと顔を向けて来た為、私は一度だけ頷きを見せると、彼らは顔つきを真剣なものへと変えた。



 やはり、この子達は良いな。無駄に騒がず、状況判断も悪くない。その上、芯が強いな。きっと良い冒険者になる。尚更、私も気合を入れねばと思った。



 街外へと向かいながら、周囲の状況やギルド内の状況も確りと魔力で探っておき、時間的には余裕がある事を察する。


 ここまで来て漸く、慌てずのんびりとしていても問題はなさそうだと判断できた。

 逆に険しい顔をし過ぎては不審がられてしまうかもしれないので、笑っている位で丁度良いだろう。


 ──という事で、私はエアやバウ、それから青年達に向かって顔を向けると、頬をぐにっと指で持ち上げて、『笑顔ポーズ』をした。



「……へっ?」


「プッ……もうっ、ロム」



 青年達は私がいきなりしたそれの意味が解らず、呆気に取られてポカーンとした表情をしているが、エアはバウをギュッと抱きしながら小さく笑い声をあげる。


 それから、エアは青年達に『顔が強張ってるって。もっと笑っていいんだよってロムが言いたいみたい』と完全な通訳をしてくれた。ありがとう。


 青年達もエアの言葉に『なるほど』っと納得をすると、先ほどの私の顔がジワジワと後から効いてきたのか、エアと一緒に彼らも少し吹き出し微笑んでいる。



 ……そうだ。冒険者は楽しむものだからな。笑っている位で丁度いいのだ。



 そうして、私達は傍目には和気あいあいとしながら、のんびりと街の外へと出る事に成功する。完璧な脱出行動だ。


 ギルドや街中の暗躍していた者達は、気づいたら私達の姿が無い事に、今更ながらに慌てていた。

 今ようやく気付き、周辺を探し始めた所なので、今更追いかけてきても魔法使いでもなければ、追跡は困難だろう。


 だが、当然魔法使いが相手であれば、私達も早々負ける事はない。惑わす事や相手の裏をかく事が十分に可能なので、そちらも対処済みである。



 そんな諸々を三人へとエアが説明していると『それは……凄いですね』と彼らは面白そうに感心していた。

 ……因みに、エアは私達が元々よくこういう事に巻き込まれるという説明の仕方をしてくれた為、三人は彼らの狙いが自分達ではなく私達二人と白くて糸目のプニプニドラゴンのぬいぐるみを装っているバウの事だと思っている。



「ばうっ!」



 おっと、頑張ってジッとしてたからバウのお腹が空いたらしい。ほれほれ、たーんとお食べ。



「ばうっ!ばうっ!ばうっ!」



 よーしよしよし。私がエアに抱っこされたままのバウへと『お食事魔力』をたっぷりとあげて、頭をクシャクシャと撫でてあげると、バウはくすぐったそうにしながら嬉しそうに何度も『もっと!もっと!』と要求してくる。よし、満足するまで撫でてやろう。


 エアはそれを微笑ましそうに眺めており、青年達もドラゴンの子供の姿はこう言うものなのかと思ってか、ジーっと観察してとても興味深そうにしていた。



 あの街に潜み暗躍している者達が何者だったのか、三人とはどういう関係なのか、正直言えば私はそこまで興味は無かったが、変な展開になっては困るので街を離れて歩きつつも、ずっと街の様子を探り続けて情報を集めている。


 長年魔力で探知する事になれて来ると、これくらいは造作も無く出来るようになってしまう。

 それによると、向こうは魔法使いに探らせ始めて、既に私達の足が街の外へと向かった事を察したらしい。

 そこで私は、彼らが私達のその後の足取りをたどる為にもう一度街外で同じ魔法を使った際に、バレない様に少しだけ干渉すると、私達が今居る所とは全く違う方向──三人と初めて会った方──へと魔法の結果を捻じ曲げる。



 それによって、彼らは私達がそちらへと向かったのだと思い、その為の行動をし始めた。……ふむ。案外気付かれずに上手くいくものだな。彼らは随分と素直である。



 ──ブル。



 とそれは、小さな震えだった。

 私はそれを隣から感じて、そちらへと目を向けると、エアが驚いているのを見る。

 その表情からは『信じられない』というような言葉が聞こえて来そうではあるが、どうやらエアも一緒に探知していて、今のを視ていたらしい。


 ただ、エアのその驚きを見るに、私が『何かをした』のは分かったが、『何をした』のかまでは察知できなかったのだと見える。


 『敵はわたし達を探知する為の魔法を使った、けれど全然方向違いの場所を探知している。だが、それが成功したと思い込んでいた。だがいつそれに干渉したのだろう。わからない。けど、これはロムがよく言うまやかしともまた違う。もっと別のものだ』と、エアは気づいてくれた。



「…………」



 エアがそれに気づいてくれるようになってくれている事に、私はこれ以上ない程に幸いを感じてしまった。

 何故なら、それは魔法使いとして更なるステップへと到達した瞬間でもあったからだ。

 その目安となる場所へとエアが到達した事で、『差異』まで着実に近づいている事を私は察する。

 これでエアが『差異』へと至ってくれるのは遥か遠い夢物語ではない事を私は理解した。



 それのなんと嬉しい事だろうか。私は心の中で、一人ずんちゃかずんちゃか踊りたくなっている。

 それほどに私は喜んでいたのであった。



 私は喜びすぎて、その嬉しい気持ちを思わず伝えたくなり、魔力でエアへと気持ちをそのまま送ってみる。

 きっと今ならば、前よりももっとはっきりと気持ちや感情が、そこに込められた想いや言葉が、エアには伝わる筈だと私は思った。



 ──ビクッ!!



 だがしかし、その瞬間、エアは身体を硬直させると、ふっと気が遠くなり。そのまま気絶してしまったのだ。私は『……あっ』と思わず声が出た。



 『あっ、旦那』『あっ』『あっ』『あっ』

 


 するとそのままエアは力なく、『くたっ』となって地面へと倒れかけたので、私はすぐさまに横向きにエアの腰と膝下に手を伸ばして掬い上げると、バウごとエアを抱っこする。



 ……やってしまった。

 流石に精霊達に渡すような高密度の魔力を一度にエアに渡し過ぎるのはやりすぎであった。



 ……背後から、精霊達の『あれっ?旦那?エアちゃんに何してくれちゃってるんですか?』という責める視線を凄く感じる。


 彼らは初めて会った時から本当にエアの事を好いてくれて、大切に想ってくれていた。

 だから、こう言う時はとっても厳しい。私相手でもそれは変わらない。

 ……すまん。故意でしたわけではないのだ。許してくれ。



 エアの身体的にも問題はなく。一応視て見ると、いきなりの高魔力に身体が驚き、『天元』がそれに順応しようと強制的にエアの身体を休眠状態へともっていってくれたらしい。……まあ、結果的に視れば、これによってエアの身体はこのレベルの高魔力に身体を晒されても今後は大丈夫になるのだから、問題はな──



 『旦那、ちゃんとエアちゃんが目を覚ましたら謝って下さいよ』『そうそう!自分の師匠にあたる人が失敗を誤魔化したりするカッコ悪い人だなんてエアちゃんも思いたくないだろうしっ!』『改善要求』『こればかりは擁護しようもありません。一歩間違えば危険な事になっていたかもしれないのですからね』



 ──ごめんなさい。反省します。



 いつもより幾分か長文のメッセージが、少し怒りを交じえてちゃんと伝わって来る。

 魔力越しに彼らの叱責を受けながら、私は何度も心の中でエアへと謝り続けるのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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