第222話 潜在。
おかしい。教訓が活きなかった。
気づいたら、エアの『死生観』についての話もいつの間にか終わっている。
そしてエアは今、プリプリと怒っていた。
「エア、私は──」
「ロムのはもういいよっ!分かったから!もうっ!」
と、こんな感じで話をしてもらえないのである。
これはまさか、噂に聞く『反抗期』と言うやつなのだろうかと私は一瞬思った。
もしそうだとしたら、そんなの余程『死』よりも怖い事である。
密かに身体には冷汗と震えが……。
『旦那、違う違う』『反抗期とかじゃないからっ!』『安心して』『最近は、もうすっかりと仲良しさんだと思ってましたが、エアちゃんはまだ直接的な攻撃に弱かったんですね』
……攻撃?私がエアに攻撃するわけがない。いったいなんの話だろうか。
とりあえず、背後に居る精霊達からのコソコソ話によると『反抗期ではない』と言う事なので、その言葉を聞いて一先ず私はほっと一息をついた。
こうして冒険を再開するのも何気に久しぶりなので、最初にある程度躓く事も時にはあるだろう。
だから、何も問題はない。ゆっくりとだが着実に、一歩一歩を確りと進んでいく事にしよう。
「ねえロム。白い苗木に使ってる魔法ってどんな魔法なの?」
歩き出して暫くはまだ少しぎこちなさもあったけれど、私達の旅では常に魔法の練習を欠かすことが無い為、気づいたらいつも通りに魔法の話をしており、空気感も元へと戻っていた。
流石にあれから一月以上も経ってはいる為、エアの怒りもとっくに直っている。
「あれは、エアがもう少し成長したら教えたい技の一つだ」
「今じゃ覚えられない技なの?」
エアは今すぐ覚えられるなら覚えたそうな反応をしているが、『ドッペルオーブ』は流石にまだ少しエアには早いだろうと私は判断した。
この魔法は何気に魔法制御が特殊なので、無理をしようとすればどんな反動があるのか分からない。
だから、その反動が起きても大丈夫になるか、確りと反動を抑え込めるまで魔力制御の技術が上がっている事が条件なのだ。
私がエアにその条件を伝えると、エアはやる気が出たのか『わかったっ!』と気合を入れて了承した。
「がんばるからねっ!」
無理をしない程度で頑張って欲しい。
そうして、私達は一月以上をかけて、こちらの涼しい大陸のだいぶ深い所までは踏破出来ていた。
いくつかの街にも泊まり、ブラブラとしながら数日を買い物に使って、また冒険するという日々を来り返すと、芽吹きの季節へと入っているにも関わらず、こちらの大陸は段々と雪が溶けずにそのまま残っている場所が多くなってくる。
私はそれを見て、エアに季節はずれでも構わずにマフラーや手袋、厚手の服を着替える様に伝えた。
恐らくはこの先は年中雪が降り積もる様な場所なのだろう。
雪が完全に降り出すまではこのまま歩き、完全に降りだし始めたら空を飛んで進む事も視野に入れようと話すとエアも了承し、私達は旅を続けた。
ただ、ここらへんまで来ると、途中に見かける人の姿もだいぶ減ってしまい、見かけるのは行商人か、はたまた身をやつした盗賊かと言った具合である。
「ロム……どうするの?」
「…………」
そうして、たまたま発見した行き倒れの三人組は、まさにその身をやつした少人数の盗賊団だったのだけれど、その見た目は何処からどう見ても普通の成人直後の男女三人組でしかなく、とても盗賊を働く様な者達には見えなかったのであった。
私達は最初その事に気づかず、ただただ道端にまだ雪が残っているこの環境で、着ている服がただのボロ貫頭衣一枚だけだった息のまだある三人組を見つけ、流石に見逃せず彼らに似合いそうな温かい服を幾つか用意してあげたのである。
そうして、道端で気を失っている青年二人には私が服を着せて、女性一人にはエアが着せた。
彼らが目を覚ますまではこの場でのんびりとしようかと話も決まったので、【回復魔法】で四肢の凍傷等も治しつつ、看病を続けたのであった。……魔力で視るに、暫くご飯を食べていなかったので倒れてしまったようだ。
「──か、金目のものを出して貰おうか!」
ただ、そうして暫くはその行き倒れポイントを夜営地にしながら三人の様子を見ていたのだけれど、三人の内の一人が目覚め、開口一番がそんなセリフだったことから私達は倒れた者達が盗賊なのだと気づいたのであった。
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