第22話 老。
2023・03・26、本文微修正。
結局その後のエアの『服』については、必要だと思ったのでエアの肌着類まで作る事になった。
「…………」
エアは少し恥ずかしそうにしていたが、無いと困るものであり一つだけでは明らかに不便だろうと。
まあ、最終的にはどういうのが欲しいのかを自分でハッキリと伝えてくれる様になったので、問題はない。
私も本人の言葉がある方が正確な物が作れるので、二人であれやこれやと力を合わせて頑張って作っていった。そのおかげでかなりエアの思い通りの品が出来たとは思う。エアも嬉しそうな表情をしていたのだ。
鬼人族は基本的におへそ周辺が開いている服の方が『天元』の効果も高まる、と聞いた覚えがある。
なのでエアの服はどれも少し丈が短めだったり、ピンポイントでおへそ部分だけが開いている様な物が殆どとなった。
またそれらも色違いや、素材等を変化させ汗を吸収しやすくした物や、通気性が良さげで軽い物なども増やした。
まあ、これまたデザインはどれもこれも悲しい事に全部一辺倒ではあったが……。
「…………」
ただ、一つだけ変わり種もあり、肌着の丈を逆に長くしおへその部分だけ軽くスリットを入れ、フリルを目一杯エアの希望通りにあしらった特別な品も作ってみた。
恐らくはワンピースと言うやつに良く似たデザインだとは思うのだが、私にはその発想が無く、この子は真の天才かと内心震えた。
そしてそうして二人で裁縫に興じていると、段々とエア自身もかなり裁縫に興味を持ってきたようで、自分でも何か作りたくなったらしい。最後には下着類は自分で作ると言いだしたのだ。
自分の装備品を自分で作りたいという心意気には私も深く共感する。私も自分の装備品は自分で作りたいと思う派だ。気持ちは良く分かった。
とりあえず素材となる物を大まかに出し、どれでも好きなだけ使っていいことを伝え、必要になったらいつでも手助けする事を伝えるとエアは「うんっ!」と頷いて無邪気に笑うのだった。
「…………」
ただ、いきなり全部をやろうと思っても難しいだろうから、私が昔友(淑女)から『目を一切開かずに、これと同じものを作れッ!』と無理矢理な注文をさせられて作った時の残り(下着類)を、一応の見本になればと思ってそれも渡しておく……。
エアはそれを見て少し恥ずかしそうにしていたが、こればかりは私の関知外の事なので許して欲しい。私は友の要望通りの物を頑張って見ずに作っただけなのである。因みに、その下着類は両側を紐で結ぶタイプの奴とだけ言っておく……。
「一人でやってみるっ!」
「うむ」
エアは恥ずかしいからか、暫く一人で頑張りたいらしい。なので、私も本日は他の事をしようと思いエアの部屋から出る事にした。
流石にエアを一人家に残して外へ行くのは何かがあったら大変だと思い、先ずは家の中でぶらぶらとする。……はてさて、何かやり残した事はなかっただろうかと。
「…………」
すると、そうしてふらふらしていたところ、最近は何かと用事があったので来れていなかった──とある一室を見つけ、私はその扉を開いて中へと入ってみる事にしたのだった。
そこは、そこはかとなく全体的に薄暗い部屋ではあった。
部屋中には大小さまざまな容器と独特な薬液のにおい。
そして、奥の壁には大切そうにかけられた剣や斧、そして弓の姿。
かつて、冒険者時代私を支えてくれた相棒達の姿である。
幾つかは当時の戦利品と共に、私にとっては少し苦い思い出も多く積もっているこの『錬金術の部屋』へと、私は足を入れていた。
相棒達は、かつての思い出と共にひっそりと飾られている。
幾度自分で彼らへと付加を施した事だろうか。
あまりにその頻度が多いので、私にとってはこの『錬金術の部屋』こそがそのまま武器庫みたいな扱いになっていた。
「…………」
戦いは激しいものだ。
剣で何度も斬ればどんなにそれが優れた武器であろうとも刃毀れは免れない。
剣だけで倒せない敵も多く、腕が千切れるんじゃないかと思う程に何度も思い切り斧を叩きつけ振り回した事もあった。
長い間ソロで戦い続けたから、弓で戦う事はも多かったと思う。だいたいは魔法と併用していたかな……。
自分の限界を超える為、幾度の夜を泥に塗れながら過ごしただろうか。
周囲を敵に囲まれ、怯えながらも、負けたくない一心で、彼らを強く握りしめ、抱きしめながら眠った。
そして、そんな過酷な時代を付き合ってくれた彼らは、私なんかよりもよっぽど、とうの昔に限界を迎えていた。
それでも最後まで壊れる事も無く、付き合ってくれた彼らを、私は特別に感じ、大切に大切に飾り続けている。
「…………」
……ただ、この部屋に来ると、未だに未熟だった頃の事を思い出してしまうので、何となく足は遠のきがちになってもいた。それは素直な気持ちだ。
だが今は、エアが魔法使いとして力を付け、私達が冒険者として歩みだす時には、必ずまたここへと戻って来たいと、そんな気持ちも芽生えている。
そしてその時はまた一緒に、彼らもまた戦ってくれるだろうかと、内心で密かに問いかけていた。
『……なんだ。せっかく静かに眠っていたのに、また働かせるのかよ』
『いい加減、新しい武器を持てばいいのに』
『またあんな滅茶苦茶な戦いされたんじゃ。もう身体が持たないぞ』
壁にかかる彼らを見ていると、喋る筈のない彼らの、そんな声がなんとなくだが私には伝わってくるような気がした。
『同じロートルだ。最後の時まで一緒に居ようじゃないか』と、私はそう心で呟きつつ彼らをそっと手に取る。
既に大きな罅が幾つも入っている彼らの身体を一つ一つ磨きながら、かつてと同じように補修をして、そして錬金術で丈夫になる様にと付加も掛けていった。
歳を重ねて昔よりも数段、いやあの時とは最早比べる事も烏滸がましく思えるほどに成長した全力の魔力を込め、私はまたあの頃と同じように願った。
『その身砕くことなく、決して諦めぬ我が心と共に、幾戦幾夜を超えよ。命続く限り、共に在れ』と。
そんな昔と同じ文言と共に発動された錬金術の一種【付加魔法】の【剛体】は三種の武器へと間違いなく注ぎ込まれて行く。
込め過ぎた魔力が多すぎたせいか、はたまた長年使い続けた事でそうなったのかは分からない。だが、三種の武器に定着した付加の効果は、明らかに通常の【剛体】を超えている様に私の目には映った。
いっそそれは【不壊】と呼んでも良いレベルではないかとも私は思う。
きっと彼らがまだ私に応えてくれているのだろう。有難い事だ。
『共に在ろう』と。
彼らもそう私へ言ってくれている。そんな気がした。
「──ん?あれは……」
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