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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第215話 行雲。



「ロムさん見てください。『雷石改六』の付属品的な役割を持たせただけの魔法道具ですけど、これが中々いい出来だと思うんですよ」



 食後に訪れた彼らの作業部屋にて、そう言ってお父さんたちの一人が取り出したのは一枚の羊皮紙であった。

 よく見ると、その中心にはどこか『雷石改六』の構造に似た魔方陣が使われている。……ふむふむ、なるほど。これはいい。



 私が魔方陣を一瞥し、その内容を読み取ってから顔を上げると、魔法道具職人であるお父さんたち五人はドヤ顔でニヤリとした良い笑みを浮かべている。……うむ。確かにこれは素晴らしい発想であると私も思った。



 『雷石改六・付属式懐皮紙』と言うらしい。その羊皮紙自体の大きさは大したものではなく、二つ折りなどにすれば十分に懐に隠せるようなサイズで持ち運びに大変便利である。



 ただ、この魔法道具は『雷石改六』が無いと何の効果も無い魔法道具となっており、雷石をその羊皮紙の中心にある魔方陣の上に置き、魔力を通す事で初めてその効果が表れるのだ。



 そうして、私が実際に魔法道具を使って見ると、石と紙が反応し合い、石は中に焼き付けられた光景を紙へと映し始めた。

 これによって本人以外にも石に焼き付けられた光景が簡単に見える様になるというのだ。



「素晴らしいと思う」


「ほんとですかっ!」



 私がそう言うとお父さんたち五人は嬉しそうに笑って答えた。

 その嬉しそうな顔を見ているだけでも私も嬉しさを感じるのだけれど、彼らが紙に映し出してくれているのが先ほどの食事風景だというの事が尚更私をほっこりとさせた。



 皆が笑顔で話し合っている姿がいつでもみんなで見られるというのはとても素晴らしい事だろう。

 そして、この魔法道具の良い所は石を乗せ換えるだけで他の映像を見る事が出来るという事である。

 使っている魔力は雷石の方の魔力を使用しているので、懐皮紙には魔力を込める必要がない。

 その分雷石の魔力消費は多いけれど、皆で見れるという利点を考えれば充分に見合っている言える範囲であろう。



「ただ、今はこの雷石を置いたままじゃないと紙に絵が映らないんですよ。でも、理想は石が置いてない状態で見たいんです。ほら、映っている絵の真ん中に石を置いたままじゃそれに隠れちゃって見えないでしょ?だから、この問題をどうにかしたいと思ってロムさんに相談したかったんですよ」



 ……なるほど。それは確かに改良する余地はまだありそうだ。

 彼らの考えだと、最初に石を一度乗せた後は石を置き続けていない状態でもそのまま続きの光景が見れるようにしたいという事なのだろう。今だと石を置かなくなったら光景が途中で止まってしまうそうである。


 それを解決する為の方法は幾つか思い浮かんだ私は彼らにその方法として、魔方陣の追記をして、そもそも懐皮紙だけで魔力充填や光景を焼き付けられる機能をつけて、石を必要としない完成された一つの魔法道具にしてしまう方法や、もっと大きく見られる様に、懐皮紙に映る絵を他の羊皮紙や、紙、水面や地面に更に絵を映す方法だったり、そもそもが平面的な上から下を覗き込む様な形ではなく、紙面に映る絵を三次元的に浮きだたせて、本当に自分の目の前にあの瞬間の光景がもう一度行われているかのように見える方法など、幾つかの案を提示をしていく。



「良いですね!どれも良い!」


「いやー、ロムさんも職人ですなー!」



 私の案を話すと、お父さんたち五人は皆喜んでくれた。

 実際に実現可能なものしか提示していないので、実際に作ってみてからまた改良したり相談したりしましょうという結論に至り、私達は夜遅くまで物作りを楽しんだ。




 ──翌日。



 私はエアと一緒に買い物に出歩いている。

 因みに、私の背中には白い糸目のプニプニドラゴンのぬいぐるみが今日も大人しくしていた。私に背負われているとあまり周りが見えない筈なのだが、スンスンと匂いを嗅ぎ続けては『ほっ』として眠るというのを繰り返したい気分らしいので、今日の私の背中はバウ専用であった。



 エアは久々のゆっくりとした買い物で嬉しいのか、まるで跳ねる様に歩いている。

 これにちゃんとついて行かずにエアが一人だけはぐれてしまい迷子になってしまうと、エアは不安そうにしたまま私が迎えに来るまでその場を微動だにせず待ち続けるので、人混みは多いけれど見失わない様に私も送れない様にと軽く跳ねてついて行った。



 ……因みに、エアが待ったままその場を動かないのは、下手に動きまわるよりもその方が早く私が見つけてくれると信じてくれているかららしい。当然そう言われれば、私もエアを見つけないわけにはいかないという事で、逸れてもこれまでは一分と待たせずに全部エアを見つけている。



 一瞬でも不安にさせたくないという思いがあるので、ずっとエアに笑っていて貰う為にも私は確りと付いて行くのだが、エアのその動きは思っていた以上にかなり早い。

 これは別に全力で走っているというわけではなく、体捌きや、足運びがとてもスムーズになっているという事なのであった。


 普段の生活でもこれほどに綺麗に動けるようになったのだと、私が気づけたというだけの話である。

 剣闘場でも見ていてその成長は確かに感じたが、いつの間にかエアが魔法以外の分野でもこんなに成長している事に思わず私も喜びを感じてしまう。……頑張っているからな。当然ではある。



 私は自分の足に掛ける魔力を増やして、そんなエアへと追いつけるように、少しだけ速度をあげた。





 その後は、エアが満足するまで買い物に付き合い、家に戻ると一緒にお母さん方や子供達と一緒にバウの姿にそっくりな可愛いぬいぐるみの量産に励んだりする。

 まるでこれの専門のお店でも開く勢いで皆で楽しみながら作り込んだ。


 因みに、バウはそのぬいぐるみの群れに囲まれるとコテンと身を預けてぐ~すか寝ている。先ほどの買い物中にもたくさん寝ていたがまだまだ眠いらしい。

 賢いとは言っても基本的にはまだまだ生まれたての赤ちゃんなので、バウの睡眠時間は基本的に多いのだ。


 ぬいぐるみの量産が一段落つくと、今度は老執事や女中少女と共に『第三の大樹の森』の部屋へと赴き、中に何があるのかを詳しく説明しておく事になった。二人的には何か畑で作物でも作ってみたいらしいのだ。



 それに、老執事達は既にこの街にいる精霊達からかなり好かれているので、実は彼の周囲で綿毛達が『ふんすっ!』と協力する気とやる気で漲っていた。

 生長したらきっと美味しいお野菜達ができ上がる事であろう。

 是非とも頑張って欲しいと私は微笑ましく思った。




 ──更にその翌日。



 今日もまたゆったりと過ごす予定であった私に、この日はちょっとだけ普段とは違う出来事が訪れた。


 連日のほのぼのとした状況に私が癒しを感じてほっこりとしていると、その日の買い物の途中で、急にフードで顔を覆い隠したまま近付いて来た黒いローブ姿の人物から、ボソッとこんな事を呟かれて足を止める事になったのである。



 『"泥の魔獣"よ。あなたに伝えたいことがあります。お一人で私に付いて来てもらえますか──』と。





またのお越しをお待ちしております。

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