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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第207話 色々。



 精霊達の治療や、その後のイベントも終え、身体を休める為にのんびりとしていたら、あっという間に実りの季節も終わっていた。


 元々夜長な季節と言う事もあるが、今回は特に日が過ぎるのが短く感じる。

 一日が過ぎ去るのがなんとも早いものだと毎夜毎夜驚いたものだ。



 だが、その間何も無かったという訳ではなく、ちゃんとエアはいつも以上に魔法の訓練に励み、バウは自分なりに魔法を見つける為の練習を重ね、私は新たに壁を超えた事で得た感覚で何が出来るのかを色々と模索する事で楽しく過ごしていた。



 短いとは言えども、各々が魔法の練習に熱中し、集中し続けられた日々はとても充実を感じるものであり、だからこそ尚更に日々を短く感じてしまったというか、真剣に魔法漬けの日々を送る事が単純にとても面白くもあり、一日の終わりには『もう今日も終わってしまうのか』とみんなで残念がったりもしたものだ。



 ただ、それぞれ課題がある中で、私達の会話はいつになく弾んで、食事の時にはそんな魔法談義や進捗状況で盛り上がり、時にはアドバイスもしたりして、私達は魔法の練習へと大いに励めたのであった。


 だがそんな魔法使いとして最もありきたりであり、同時にとても幸せな日々でもあるそんな日常は、実りの季節の終わりと共に一旦ここらで中断する事にしておいて、私達はまた冒険へと戻ることにする。



 なぜならば、まだ私達にはやらなければいけない事が残っているからだ。休憩は一旦終了と言う事である。

 それに、冒険者としての活動は純粋に私達にとっては大切な事でもあり、そろそろ戻りたいという気持ちもあった。


 更にいえば、私達にとって魔法の練習とは必ずしも部屋の中でしか出来ない物でもなく、歩きながらでも練習は出来るのだ。


 魔法の練習は自然の中の方が習得が早いという私の持論もあり、結局は私達は寒い季節の前にエルフの青年達が居る方の大陸へと【転移】でいく事にしたのであった。……久しぶりに『白銀の館』へとお邪魔する事にしよう。

 




「──おやっ、お帰りなさいませ」



 『白銀の館』へと【転移】で帰って来た私達に最初にそう声を掛けてくれたのは、あの老執事であった。

 彼はここに来た時からずっと、ここに住む者達全員を支えてくれているとても穏やかで優しい御仁である。


 そんな彼は『そろそろもしかしたら、顔を見せに来られるのではと考えておりました』と言って、私達へとその穏やかな微笑みを向けてくれた。


 ……聞けば、こちらの大陸でもやはり『ゴブ』が至る所で発生したらしく、一時大きな騒ぎになったのだという。


 だが、この屋敷には五人の冒険者兼剣闘士として目覚ましい活躍を遂げているエルフの青年達も居るし、それ以外にも天才魔法道具職人五人のお父さんたちが居る為、屋敷の防備には何も問題はないのだとか。



 確かに見回せば見知らぬ魔法道具が出入口には沢山取り付けられている様に見えるし、淀みを掃う為なのか浄化に関する魔法道具もチラッと見ただけだが幾つか確認する事ができたのであった。……なるほど、これなら備えていれば本当に大丈夫そうである。




 私は、元々ここに居る者達であれば『ゴブ』はそこまで問題ないとは思い心配もしていなかったが、その期待以上に彼らの備えと対応の素晴らしさに完璧で感心したのであった。


 そして、それをそのまま老執事へと伝えると、『あなたのお墨付きがあるならば、お父さん方も喜びますな』と言って尚更に笑みを強くしている。嬉しいらしいが私も嬉しく思う。



 その後、私達は老執事に案内されながら、折角だからとみんなが居る大きなリビングへと向かう事になり、全員とは言わないが、お母さん方が楽しそうにお茶をしていたり、子供達や元お嬢様である女中さんなどが一緒にお喋りをしている光景を見て、素直にほっとしてしまった。


 なんともここは穏やかな空間だと思ったのだ。



 彼らは元は別々の家族の筈だが、今ではもう完全に一つの家族である様にしか見えない。

 ここは本当に、そのまま一つの『里』であるかの様だ。


 私はこれまでに自分が失くしたものを取り返したいと、無意識かつ潜在意識でそんな事を思っていたのだと気づけた事があったが、今この瞬間にちょっとだけそれを強く思い出したのである。



 そして、本当にこの場所が私にとっても『里』になった様な気がした。

 帰省した時の『ふっ』とした瞬間と言うのか、安心感の様なものを感じたのである。


 ……まあ、ただの気のせいだった可能性もあるが、その気持ちを抱けたことが先ず、私にとっては大きな喜びであった。



 ──その後、私達はその穏やかな空間に受け入れて貰えて、色々と話を聞かせて貰えた。



 最近の『エルフ達の青年達の活躍は凄くて、街の人気者でもある』とか『ここの家に住む天才魔法道具職人達が開いた店が、街でこれまた大人気を博してお父さんたちはとても忙しくしているのだ』とか、そんな楽しい話題を中心に、『ゴブ』の話題でもまた一つ大盛り上がりし、バウが仲間になった事を言ったら『ぬいぐるみがしゃべったッ!?!?』とお母さん達は驚き、子供達にはバウが大人気になったりして……。



 そして私の周りにはエアやバウが傍に居て、近くには老執事や女中さんも座り、バウの代わりに本物のバウそっくりのぬいぐるみを渡すと大喜びするお母さん方と、一緒にそれで遊ぶ子供達がいて、いつの間にかエルフの青年達も元気な笑顔で帰って来ている上に、お父さん方もくたくたになりながらも嬉しそうに近寄ってきて……。



「…………」



 気づいた時には、小さいながらも本当に、ここに『里』がある様な気がしてしまって、私の胸の奥は密かにジーンと熱くなってしまっていた。……こちらの大陸が暑いからだろう。なんとも言葉に出来ない想いである。



「……ろむ?」



 それに、そんな状態の私の手を、エアがぎゅっと握っているのも……なんと言うか、その熱さを加速させている要因になっている気がした。……エアさん、すみませんが私は今上手く言葉が出ない状態です。


 本当もし、ここで私が無愛想でなければ、何枚の手ぬぐいが必要な状況になっていたかわからない。


 そんな事になっていたら、きっと皆を心配させてしまっていたと思うので、今だけはこの不愛想な顔に感謝しておく事にした。




 ──そして、同時に、私はとあることを思いついたのである。


 ……ここに、この屋敷に、『第三の大樹の森』を作るのはどうであろうかと──。





またのお越しをお待ちしております。

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