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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第202話 変容。



「おおーーっ!水が入ると上の炎の蛇が水面にも映るよっ!バウも見て見て、綺麗だねー」


「ばうっ!ばうばうッ!」



 エア達が掘ってくれた真円の大きな穴に、魔法で水を満タンにした。

 中心部だけは浮島の様になっているのだが、今はまだ白い苗木だけがポツンと立っているだけなので、少し寂しく見える。

 だが、それも数年から数十年、数百年という時をかけて生長していき、いずれは立派な大樹へとその姿を変えるのかと思うと、なんとも感慨深いものだ。

 かつての大樹の森も、最初はこれと似たような状況であった。



 この中心に位置する浮島みたいな場所から、私達は辺りを見回している。

 ここからの景色も中々に悪くはない。



 見上げると、少し暑苦しくも感じるが、綺麗な炎の螺旋が青い空の中で美しい花を咲かしているかのような光景を下から眺める事が出来た。



 一応、ここで使っている【火魔法】は少し工夫も凝らしてあるので、日中はこの鮮やかな赤色やオレンジ色をしているが、夜になるとその色を紫や青へと変化できるようにもなっている。ちゃんと夜にも配慮し眩しくない様にしてあるのだ。



 まあ、精霊達が望むのなら何色にでも好きに変えてあげたいと思うので、言って貰えば好きな時間帯に好きな色を灯すせる様にしておく。この位の魔法の性質や色の変化などは、魔法使いからしたら朝飯前であった。



 『旦那、ここも良い場所ですね』『綺麗だねー!元の大樹は落ち着いた大人な感じがするけど、こっちも良いねっ!』『水も喜んでる』『土もですね。この全部にバウちゃんの魔力がコーティングされてるんで、辺りの土地には一切問題もないみたいです』



 流石は地学竜の子だという事で、バウのブレスでの魔力コーティングは大地にとてもいい影響を与えているらしい。素晴らしい出来栄えであると精霊達がみな褒めている。

 私が、その事をバウへと伝えると、糸目のプニプニドラゴンはニコニコして『ばうっ!ばうっ!』と嬉しそうな声をあげた。凄く嬉しかったらしい。



 それに、真円を綺麗に魔法で作り出したエアの技量も素晴らしいと感じたらしい。

 魔力で探知しつつ、正確に魔法を使えた事の証拠でもある。

 普段の練習の成果が一番現れる瞬間でもあった。



 こういう時に、普段から真面目にやっていないと、ちょっと残念な結果になってしまうのは言うまでもない事だろう。それだけエアがちゃんと練習をこなしているという事であり、私はエアを見て誇らしく思った。



 そんなエアは今、空を見上げている。

 『炎の蛇』ともう名付けられてしまった私特製の『炎の滝』を、真剣な瞳で見つめている。その雰囲気からは何かを学んでいる様にも見えた。



 だが、今回私のやった事はちょっと大雑把で、力押しが過ぎる強引な魔法に過ぎなかった為、その螺旋が綺麗な真円を描いているのかと言われれば、それはちょっとだけ違う。

 下から見るとその粗さ加減がよく分かってしまった。

 ……まあ、それが逆に炎の流れに乗る時の良いウネリに感じられるそうなので、結果的には成功したと言う事にしておこう。




「ねえロムッ!私もアレに乗って来ていいッ?」



 すると、いつの間にか、『天元』に炎の魔素を取り込んでいたのか、エアの髪は薄いピンク色へと変化しており、その顔はうずうずとしているのがよく分かった。見ていてあの炎の流れに乗りたくなったらしい。……ああ、もちろんだ。気を付けていってきなさい。



 勢いがつけ過ぎてコースアウトだけはしない様にと注意すると、『うんっ!分かったっ!』と言って、エアは『ぴょんっ』とジャンプしていく。



 そのジャンプを見て『おおっ』と私も思わず声が出た。何故ならエアはまだ少し不安定ながらも、器用に上半身には『炎の魔素』、下半身には『風の魔素』と分けて通しているようで、ただ上へと飛び上がるだけならばその下半身に通した風の魔素だけで充分に跳んでいけるらしい。……まだ未熟さはあるが、よく考えていると私は思った。素晴らしい技である。



 そうしてエアは暫くピョンピョンと飛び跳ねていくと、炎の渦の中へと頭からズボンと潜っていった。


 そして、潜る直前には上手く下半身も『炎の魔素』へと切り替える事が出来たようで、悠々と炎の中を進んでいる。


 後はもう、今のエアならばあれ位の炎の流れは思うが儘に漂う事が出来るようで、エアが今どこを泳ぎ流されているのかが下から見るとよく分かった。とても楽しそうである。




 それに、エアの方からもこちらがちゃんと視えているらしく、私へと向かって炎の中から手を振って来た。

 私はそれを見ながら内心で微笑みを浮かべて手を振り返す。


 隣ではバウが沢山ブレスを吐いてお疲れになったらしく、いつの間にか気持ち良さそうに寝息を立てていた。


 ……因みに、エアの髪の色が薄いピンク色をしているのは、前に大樹の家でとある指輪と出会ってから、エアの炎に対するイメージがあの色へと変わってしまった為である。

 その綺麗で可愛いピンクの指輪は今、エアの右手の小指へと嵌っていた。



 一方、そんな繊細で可愛いモノを作った男前は、白い苗木の周辺でこの土地に住んでいる綿毛の精霊達とお話をしながら、仲間達と一緒に笑っている。


 彼らも色々と忙しいらしいけれど、今回の出来には満足いってくれたみたいで私も安心を覚えた。


 ……ただ、隣に居るバウがあまりにも気持ち良さそうに寝ているものだから、私も段々と眠たくなってきて、欠伸も出てしまう。




「ふぁ~……ん~む」



 『……私も少しだけお昼寝をしようかな』と思い、大樹の森の花畑で寝転がるのと同様に、ここでも寝転んでゆっくりと深い呼吸をしていった。



 最近は街中に居る事が多かったので、専らは『ドッペルオーブ』形態でスーハ―をすることが多かったけれど、今はそのまま純粋に魔力を広げていってみる。



 ……ついでに、少しずつ周辺へと魔力を行き渡らせると、周囲の綿毛の精霊達や、木々の一本一本、小さな草花の一つ一つにもゆっくりと魔力をしみ込ませて、それら全てを優しく強化していった。



 いわばこれも、精霊達に対して行う『引っ越しの挨拶』の様なものだろうか。

 『よろしくお願いします』と、ちゃんと魔力にはそんなメッセージを添えておき、私はバウと一緒にのんびりと寝息を立てるのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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