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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第198話 願望。





「……すまないが、私にその気はない」



 突然の『あなたのお嫁さんになってあげてもいいんですよ?』という発言に、私は驚いた。

 それも、エルフ流の読解力をもってすると、彼女がその言葉を本気で言って来た事がわかる。

 まさか、日の出前のこんな時間帯に、宿の一室にてそんなプロポーズを受けるとは思いもしなかった。



 ……だが、どんなに驚きはしても、私の答えは既に決まっており、彼女の気持ちに応える事は出来ない。

 だから、自分でも気づいた時には口から自然とそんな断りの言葉を出していたのである。


 


「……そっ、そうですか!……そう、ですよね」



 その言葉に、彼女は先ほどまでの少し楽し気な様子から、みるみるうちににしょぼんとして、残念そうな表情に変わってしまった。

 最初から謝罪だけが目的で来たわけでも無かったのだろう。

 その言葉を言う為に来たような雰囲気も感じる。


 ……そして、悲しい事にどうやら私に断られる事まで、本人は予想がついていたようだ。



「当然ですよね。わ、私は昨日失礼な事をしました。それでもう嫌われてしまっていたのは分かっていたんです。ただ、それでも……」



 昨日、私が帰り際に言った言葉が、胸に響いたのだという。



 『急でしたので、思わず嬉しくなって、少し舞い上がってしまっていました。でも、もう大丈夫です。今は冷静です。最初から上手くいくなんて思ってもなかったんです。はい。でも、一応は、もしかしたらがあるかもしれないと思っただけで、一応は確認しといた方が良いかなっと思っただけですので。まあ予想通り断られてしまったわけなのですが、予想通りなので私的には全然平気です。何の問題もありません。ただ、こんな朝早くに訪れたのも、冒険者だと伺っていたので、もしかしたら朝にはもう他の街に行ってしまうんじゃないかと思って、それでこの時間ならばまだ居ると思ったので、思わず来てしまいました。昨日に引き続き、色々とご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした』



 彼女はキョロキョロと視線を彷徨わせながらも、一呼吸で早口にそう言って謝って来た。

 ……なるほど。理由は良くわかった。

 なので、私としても迷惑に関してはもう気にしていない事を告げる。

 もちろんそれで嫌うような事もないと伝えた。



「嫌って、いないのですか?あんな失礼な事をしたのですよ?」



 彼女は少し落ち込みながらも、そう尋ねてくる。



「冒険者をしていると、あれくらいの事は時々あるのだ。気にする程でもない」



 正直な話、今まで色々な人達から散々と失礼な事や危険な事をされてきた経験がある為に、彼女の言うその『失礼』が何を指しているのか分からなかったりする。

 『バウを渡して欲しい』と言ってきた事だろうか、それとも彼女の後ろの三人が力ずく襲い掛かろうとしたことだろうか、それ以外ではもう何をされたのかも覚えていない。そんな思い出せないレベルで気にしていないのである。



「お優しいんですね……」



 ただ、私のその言葉を聞くと、彼女は胸が少し痛んだのか、そこを抑える様な仕草をしながら、しみじみと感心するかのような声を出して微笑みだした。

 どうやら彼女はまた少し元気を取り戻せたようである。



 そして、彼女は一人の魔法使いとして、【転移】を間近で見れて嬉しく思ったと語っていた。

 とても驚いたし、いずれ自分も使えるようになりたいのだと。

 ……だが、それを最後に、彼女の言葉は急に止まってしまった。


 話している途中で段々と冷静になり現実が見えて来たかのような、先ほど告白をして断られた事がまるで時間差で心に襲い掛かって来たかのような、そんな辛い雰囲気が彼女の表情からは伝わって来る。



「……い、良いものを見せて頂きました。迷惑をかけてごめんなさい。私もこれからは一人で頑張ってみます。……ありがとうございました」



 そして、その言葉と共に、彼女は突然席から立ちあがると、急いで出入り口の方へと向かって歩きだし去って行ってしまう。来るときも突然ならば、去る時もまた突然であった。



 部屋を出て行く彼女の背には、何かを想う気持ちが一方通行で終わった時の、そんな瞬間の切なさが表れているようである。


 魔力で探知すると、閉じた扉の先で暫く彼女は立ち尽くしており、目元を押さえている姿が見えてしまった為、私はすぐさま探知を止めた。



 少しすると離れていく小さな足音だけが、まだ少し薄暗い早朝のこの空気に寂しく響いて消えて行く。



「…………」



 彼女は部屋から出て行く時、微笑んではいたが、それは最後の強がりであったのだろう。

 だが、そんな姿を見ても、去った彼女を追うような事を、私はしなかった。



 友曰く、それをして良いのは、少しでも相手にその気がある者だけなのだとか。

 ……私もそう思う。


 私にとっての大事な者はもう決まってしまっているので、彼女へとその気持ちを向けてあげる事は出来ない。



 だから、この話はこれでお終いなのである。




 『旦那……朝から随分と面白そうなことをしてましたね』



 すると、彼女が出て行くのと丁度入れ替わるかのように、火の精霊が【(ホーム)】でこちらへとやって来た。


 どうしたのだろう。今日は君まで随分と来るのが早いな。

 他の三人もまだ来ていないというのに、何か用事でもあったのかな?



 『いやー、用事って言って良いのかどうか迷う所なんですけどね。……どっちかと言うと旦那にお願いがあって密かに来た感じです』



 おやまあ。それはなんとも珍しい。なんだろう。

 私に出来る事であれば、なんでも言って欲しいのだが。



 『なんでも?良いんですかー?そんな事を言ってしまっても、そんな事を言われちゃ、俺は本当になんでもお願いしちゃいま──』



「──構わんよ。なんでも言ってきなさい」



 君達のお願いなど喜んでやるに決まっているじゃないか。



 『あーー……ははははっ、そうですよね。旦那はそう言う人だ』 



 それで?何をして欲しいんだ?

 流石にこの街を一部作り直して、火の精霊達でも住みやすい様に、ちょっと街の中に溶岩でも流れる様にしてくれと言われても、少しだけ時間がかかってしまうが……。



 『そんなことは頼みませんてばっ!……でも、そんなお願いでも少し時間がかかるだけで、ちゃんとやってくれることはやってくれるんですか?』



 もちろんである。それを君達が本当に望むのならな。



 『……そりゃ、嬉しいもんですね。信じて貰ってるって証拠でしょう?変な事はお願いしないって』



 ああ。その通りである。

 ……ふむ。どうやら少し言いよどんで悩んでいる所を見るに、今回は少しだけその『変なお願い』に入ってしまうのかな?

 大丈夫だ。もしそうだとしても構わんよ。やれるかどうかを試すことくらいは出来るだろう。

 遠慮する必要はない。



 ──と、私が伝えると、火の精霊は『旦那、それじゃあ、遠慮なく……言います……』と一呼吸の間を置いてから、先ほどエルフの淑女がやっていたのと同じように、自分の胸を押さえる仕草をした後に、一言、その願いを告げて来た。



 『……どうか、世界を支配してくれませんか?』と──。





またのお越しをお待ちしております。


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