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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第193話 観。




 今日の私達は部屋でのんびりと過ごしている。

 私はぬいぐるみを製作中で、エアは魔法の練習中だ。


 『ロム以上に強くなる』という目標を掲げたエアの意識は高く、そして前よりも魔力の扱いがしなやかになってきた。

 昨日まではどこかまだガムシャラと言うのか、何となく『もっと強くなれたらいいな』、『せめてクラーケンを倒せるくらいにはなりたいな』と言う漠然とした気持ちのまま練習をしていた気がする。



 それが今は『百年でロムを越えるんだ』と意気込みやる気に燃えて練習に取り組んでいるのだ。

 今からそれだけ燃えていると、早くに燃え尽きてしまうのでは?と心配するほどに熱意を感じる。

 もっとほどほどに抑えてもエアなら充分に大丈夫だと私は思うのだが……。



 流石に昨日までの漠然とした状態のままでは百年あろうと届き得なかったとは思うが、意識が変わった今の状態のエアならば、百年もかからずに私へと届き、そしてそのまま追い抜かしてくれるだろう。

 ……だから、私はただ呼吸をしながら待つことにする。



 エアのやる気がそのまま燃え尽きてしまわないか心配しているのに、そのまま声もかけず止めもしないのか?それで協力してると言えるのか?と思うかもしれないが、今日の所はそこまで心配していない。何故ならば今日は私達の目の前に、運良く良いストッパー役のお二人がいるからである。



 当然その良いストッパー役と言うのは、白い兎さんとバウの二人なのだが。

 仲良くなった二人は今、これまた仲良くのんびりとお食事兼おやつを楽しんでいる所で、エアは練習に燃えているにもかかわらず、そちらがどうしても気になってしまうらしく、見ない様にしてても結果的にはどうしても見てしまっていた。



 そして、それを見つめると微笑んでほっこりとしてしまうのだ。

 暫くは見つめて十分に癒されると、また『よしっ!』とやる気を出して練習に取り組む、みたいな状態をさっきから何度もエアは繰り返していた。



 これは『適度に休憩を挟みながら、集中力の効果が一番高くなる短時間に、魔法の練習を合わせる』と言う練習方法……に似た状況を作り出せているので、これをする事によって通常よりも意識の切り替えがスムーズに行えるようになったり、深い集中効果によって通常よりも魔法を扱う感覚が一時的に優れるようになったりするという利点がある。



 正直な話、たまたまなのだが、これはこれで今日の練習としては悪くないだろう。

 何より丁度よく集中がかき乱されているので、エアのあの過剰なやる気も良い塩梅に調整してくれる気がする。だから今日の所は、このまま様子見していようと私は思った。




 ……因みにだが、目の前の二人が何をしているのかと言えば、どうやら新人であるバウに白い兎さんが野生流の食事方法を伝授しているらしく、兎さんが咥えたお野菜スティックを『んーー』とバウの方に向けると、お野菜スティックの反対側をバウが反射的にパクっと咥えるのである。


 二人はお野菜スティックの両端を互いに咥えたまま暫く見つめ合うと、それから同時にシャクシャクと食べ進めている。


 あれが本当に野生流のお食事方法なのか、それとも単に兎さんがバウと仲良くなるためにやっているのかは分からないけれど、その光景がなんとも愛らしいというか、ほのぼのとする光景なのであった。



 エアの集中が上手い具合に途切れるというタイミングで、二人は何回もお野菜スティックを食べさせ合っているので、エアはどうしても気になって見てしまうみたいである。

 エアには是非ともそのタイミングを体感で覚えて貰い、上手く自己鍛錬に活かしていって欲しいと私は思った。




 因みに、ある程度感覚をつかめた魔法使いは場合、余程の事がない限り、そこから先へと成長する為には誰かに教えを斯う事はしなくなる。

 なぜならば、一人一人微妙に魔法を使う時の感覚は似ているようでも違ったりするからだ。



 魔力の動かし方や使い方などの基礎的な部分においても、人によっては『魔力は風にそっと乗せる感じで!』とか『水にジワッと沁み込ませるようにだよ!』とか『炎の様に豪快に猛々しくに決まってる!』とか『大地の息吹を感じるのだー』とかみんなバラバラなので、自分の感覚以外はあまり参考にならなかったりする。



 教える方としては、その点は十分に考えて教え方に気をつけなければいけない。

 まあ、この差が分かり語れる様になるのが魔法使いとしては第一のラインとでも言えるだろう。



 今のエアくらいにまで成長しないとこれは中々に分からない話でもあるので、この会話をしている魔法使いがいたとしたら、それはレベルが高いという証明でもあった。



 そんなエアの練習を視ながら、バウと白い兎さん、それから羊さん達のぬいぐるみを作っていた私は、完成したそれぞれのぬいぐるみを二人にプレゼントしてみた。羊さんの分まで作ったのは、羊飼いの少年と出会う機会があるかもしれないので、その際に二人が驚かない様にするためにである。



 二人は自分とそっくりなぬいぐるみを渡されてみて、最初はびっくりしたり、気味悪がったりもしていたが、最終的には寄添う様になっていた。……見ていたら段々と安心できたらしい。

 家族がいなくなってしまった二人には、そのぬいぐるみがまるで自分の兄弟か何かの幻にでも見えたのかもしれない。……少しでも癒しになれば幸いである。



「かわいいいいいーー!」



 そして、そんなぬいぐるみ達を見たエアは一旦練習をストップすると、ぬいぐるみ達(うち二人は本物)を優しくぎゅっと抱きしめながら、一緒に遊ぶ事にしたらしい。


 エアは頑張り過ぎるきらいがあるので、今日はこの位で息抜きに走っても充分に良いと私は思った。エアの事は彼らに任せる事にする。よろしく頼んだ。



 そして一緒に遊んでいたエアは、お腹もいっぱいになって遊んで満足した二人と一緒にそのまま仲良くお昼寝へと入ってしまう。

 私はそんな光景に内心で微笑みを浮かべると、彼らのお昼寝の邪魔をしない様にそっと外へと出かけることにした。




 さて、どこへ行こうかと一瞬思ったが、先ずはこの街のとある人気の露店へと足を運ぶ事にしよう。

 そしてさほど遠くもない距離を少しだけ歩くと、そこでは家族で忙しくも楽しそうに働く人たちの姿があった。

 その家族の中の一人に羊飼いの少年がいる事に多少驚きはしたが、私はそれを見て嬉しくなる。



 彼らの頑張っている姿は見ているだけでこちらも楽しい気分になってくるのだが、そのまま少しだけ眺めていると目的の人物が気づいてくれた様で、私はそんな彼に向かって遠くから軽く手を挙げた。


 すると、『おっ!エルフの旦那っ!』と向こうも気づいてくれたらしい。

 羽トカゲを回収に行く前、出会った際に彼は心配してくれていたようなので、姿だけでも見せに来た、という訳のである。



 流石に人が並んでいる場所に態々並んで伝える程の用事でも無かった為、私はその少し遠い場所から『大丈夫だ。問題はなかった』と言う意味合いの頷きを彼へと見せた。


 すると、彼も間髪を容れず『分かった』と頷きを返して微笑んでくれる。

 続きはまた、仕事終わりにでも機会があれば話をしようと思い、今はこれだけで充分だろうと私は踵を返した。




「……ん?」



 そうして、帰りがけにエア達用に軽くおやつの買い物でもしながら宿へと戻ろうかと街中を歩いていると、暫くして、怪しげで派手な紫色のローブを被り、【隠蔽】の魔法を自分に使った人物がこちらをジッと見ている事に気づき、私は少しだけ動きを止めかけた(・・・)


 止めはしない。こういう時には相手に『こちらが気づいたと気づかれない様に』する事が冒険者としては大事なのである。



 私はすぐさま魔力の探知を用いて、その何らかの魔法道具だとは思われる派手な紫色のローブと、相手の【隠蔽】の効果や性質を細かくチェックしていく。

 ……ふむ、どうやらそのローブ等で自分の存在を分かり難くしているらしい。



 だが、街の人達には効いているみたいだが、私にはどうにも全く効いていないようで、最初からバッチリと相手の姿を認識できてしまった。


 ……何か私に用事でもあるのだろうか?





またのお越しをお待ちしております。

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