表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
190/790

第190話 藍。


注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、現象などとは関係ありません。また作中の登場人物達の価値観も同様ですのでご了承ください。




 地学竜の身体と首は【空間魔法】に収納して、周りの環境も整え終わった私達の目の前には大きな問題が一つだけ残った。



 ……『地学竜の卵』である。



「焼くか」


「だめーー」


「茹でるか」


「それもだめーー」


「燻製……」


「だめったらだめーーー」



 私が知っている限りの『お料理』の方法を口にすると、エアはブンブンと首を横に振って焦ったようにそう叫んだ。……ふむ。だめらしい。


 ならいったい他にはいったいどんな調理法があっただろうか。



「ろむー、ほんとにだめー、ねーいいでしょー?この子、まだ生まれてないから羽トカゲじゃないよ?」



 エアは茶色くて大きい岩みたいな卵を抱っこすると、そう不思議な事を言ってきた。

 いや、どうみても羽トカゲの卵である。

 潰すか食べるかしないとその卵からは間違いなく羽トカゲが生まれてくるのだ。



「食べないのか?」


「食べないー。食べたくないよー」



 だが、エアは食べたくないらしい。

 美味しいらしいぞと言っても見向きもしなかった。

 ……ふむー。これは困った事になったな。

 だが、そうしたらエアは一体どうしたいのだろうか。



「この子育てちゃだめ?」



 ……なるほど。そう来たか。

 うーむ。だがしかし、これはどう言ったらいいのだろうか。



「エア、育てる事は出来ない」


「えーーーーーー、なんでーーーーーー」



 そんな悲しそうな声を出されても困ってしまう。

 育てる為には羽トカゲの親の魔力が必要なのである。



「えっ……倒しちゃった……」



 そうなのだ。

 だから、その子はもう卵の中で死ぬしかない。

 ならば、食べてあげるか、今この瞬間に潰すのが良いだろう。

 持って帰っても変わらないのだから。



「……やだー可哀そうだよー、ねーロムー、魔力あげてみてー?」



 エアは羽トカゲの卵が気になって仕方がないらしい。いつになく積極的である。

 だが、私が魔力をやった所で、性質が違うから卵が孵る事はないだろう。

 ほらっ、いくらやっても──



 ──コツコツコツ……パカッ、バウゥゥゥ……



「…………」


「産まれたーーーっ!産まれたよロムーーーっ!!それもこの子真っ白ーーーっ!ロムにそっくり!!」



 『ばうー』という不思議な鳴き方をしながら、確かに真っ白い何かが産まれた。

 なんか私の知っている羽トカゲよりも羽がだいぶ小さい。パタパタしている。

 『ばうーー』目が開いているのかあまり良くわからない横棒一本の細目のミニミニドラゴン。

 恐らくはお腹が減っていると言っている目の前のドラゴンは、確かに羽トカゲにある毒毒しさみたいなものが少し薄かった。


 そして試しに、私が魔力をたっぷりと渡してみると『ばうーーーーーー』と言ってこてっと地面に墜落し、お腹を仰向けにして見せ眠りだしている。……なんと無防備な。



 ツンツンと突いてみると、鱗も無いし何故かプニプニしてる。

 君は本当にあの『地学竜の卵』から産まれたのか。

 鱗はこれからだとしても、まさか本当に別の生物の卵だったりするのだろうか。



「ねーー?『ばう』は羽トカゲじゃないんだよーー!だから一緒に連れて行っていい?」



 ……うむむー。不思議な事なのだが、今回は最初からエアが積極的なのだ。

 これもまた運命みたいな特別な何かを感じ取ったのかもしれない。



 だがしかし、一つだけ大きな注意点がある。



 私はエアの瞳を真剣に見つめると、厳しい事を言うようだが、それを確りと告げた。



「この生き物が何であれ、元は羽トカゲの卵から産まれたものだ。だから、私とは相いれない。……そして、いずれ私はこの子の命を奪う者である」


「ろむ……」



 ただそれは、今すぐにどうこうするつもりの話ではない。私はエアの気持ちを尊重しよう。

 だが、一つ忘れないで欲しい。飼いならそうなどとは決して思わないで欲しいという事を。

 そもそも飼いならす事など出来る様な生き物でもないのだ。

 自由な生き物なのである。エアと似ていると言えば、そう言えるかもしれない。

 だから、エアならば共に歩む事は出来るだろう。



 ……だが、我々は姿形産まれこそ違えど、幾ら知識知恵を重ねようと、野生に生きる者である。

 今はまだその子も理解は出来てないだろうが、私はその子の親の仇でもあるのだ。



 だから、やがて、私達は殺し合う事になるだろう。

 そこには決して譲れぬ思いがある。

 その子には本能とも呼べる感情と心の導きが、私には魔法使いとしての誓いがある。



 そしてエア、その時君は選ぶ事になるだろう。

 その子と共に私と戦うか、それとも私と一緒にその子を(あや)めるかを。



「…………」



 ただペットを飼うというのとは訳が違うのだ。

 相手はある意味で人以上の理性と感情を持った特殊な生き物。

 そして、とてもとても賢い生き物なのである。


 我々が考える事と同じような事を考え、敵の弱点を突き、自らの勝利の為に非情な事も出来る。

 その上、好奇心を持ち、街からする良い匂いに引きつられて近寄ってしまう様なトカゲである。

 そんな心がちゃんとある、私達と同じ生き物なのだ。



 だが、今までも、そしてこれから先もずっと、私は羽トカゲ達の敵である。

 君は今、軽い気持ちでその子の命を救ったわけではないとは思うが、それではまだ覚悟が足りていない。

 私と言う敵が居る事は、いずれその子にとって許し難い現実となるのだ。



 その瞬間、私は敵に回ったその子を、瞬きよりも早く魔法を使って首を刎ねるだろう。

 その子の親を葬ったのと同じ魔法でだ。

 君はその瞬間が来るまでに選ばねばならない。

 どちらの側につくのかを。



「そんなの選べないよッ!なんで急にそんな事言うのっ」



 私の言葉に、エアは瞳を滲ませ始めた。

 だが、それは確実に起こるのだ。

 だから、少しでも早めに伝えておきたかった。


 それに、今からそれを避ける為に、エアはその子を連れて逃げる事すら出来ないという事を知っておいて欲しかった。


 ……現状、エア一人ではその子の食事の世話をする事は出来ない。

 いや、エアだけではない。殆どの者がそれほどの魔力の余裕はないだろう。



 だがその子は成長するのに必要となる十分な魔力を与えてやらねば、勝手に衰弱して死んでいく。

 それはエアが普段与える事の出来る魔力の十倍以上だ。

 どう頑張ってもそれは搾りだす事が出来る量ではない。



 あの地学竜が貯め込んでいた魔力は全てその子に分け与えて育てる為のもの。

 それだけの力がなければ、この命を育む資格すら本来は無いのである。



 ……だが現状は、私が傍に居れば、そこを補うことは出来る。

 生憎と私はそこそこ魔力に余裕があるのでな。



 だから、成長するまでは私がその子の食事代わりの魔力は渡そう。

 ある程度まで成長してしまえば、そこからは自分で膨大な魔力を生成するようになるから平気になる筈である。

 だから、きっとそうなるまでは大丈夫だろうとは思う。

 でも、同時にそれがサインだとも理解しておいて欲しい。



「いやだよっ!それじゃ、いつか殺す為に育てるって言うの?そんなの嫌だっ!仲良くはなれないの?なれるよ!頑張れば誰だって仲良くなれるッ!」


「…………」



 それと、もう一つの道もある。その子を生かす為の方法だ。

 だが、これはあまりおススメ出来ないし、あまりしたくはないのだけれど、それが為せればまず間違いなくエアとその子は生きていけるだろう。

 ……簡単な話、その子を生かす為には、その敵となる者を排除してしまえば一番確実なのだ。



「……うそ、いやだ。もうききたくない。いわなくていい」



 ただ、出来る事なら精一杯隙は見せるつもりではあるが、長年の経験から私はほぼ反射的に反撃出来てしまう。

 だから──



「──言わなくていいってっ!そんなの選ばないからっ!!ロムに攻撃なんかしないよっ!!」



 だが、それを選ばねば君はその子を殺めねばならぬ。

 その手でやらなくても見殺す事になる。

 誰も知らない場所へと逃がす事すら叶わないだろう。

 それは私が見逃さぬ。誓いがある為、それが出来ないのだ。

 私は羽トカゲ達を見逃さない。



 『旦那……』『ちょっとらしくないよっ?』『イジメ良くない』『エアちゃんはただ、その子を……』



 分かっている。エアの優しさも、その心が求める所も。

 だが、ほぼ確定して予想できている事を告げぬのは優しさになるのだろうか。


 私は、その時になって不意を討つかのようにあの子の首を切り落とせばいいのか。

 ……そんな事はできんよ。したくもない。



 それに、君達精霊が考えているよりも、私と羽トカゲ達の関係は深い。そこに積もる恨みつらみも。

 きっと、あの子はまず間違いなく、私へと牙を剥くだろう。

 断言する。私達は相容れない。仲良くは出来ない。



 そして、私もあの子をもう見逃せない。

 それは私が魔法使いとしての誓っている事の一つに関わってしまっているからである。



 だから、それまでにいくら関係を積み上げても、その瞬間は一瞬で訪れるだろう。

 それはほぼ無意識に近い。



 私は敵としてあの子を育て、あの子は敵である私の魔力によって育てられるのだ。

 そのなんと皮肉なことであろうか。

 あの子は私から離れれば幼少時代すらも生きて行けぬ程なのに、それはあまりにも悲しく、哀れが過ぎる。



 私はいずれ、やりたくもないのに、やらねばならないだろう。それが私の誓いである。

 きっとその時にはエアに恨まれながらも、あの子を殺す事になるだろう。

 私にはどうする事も出来ない。

 誓いを破れば、その時、私は私の望みを叶える事が出来なくなる……。それは出来ない。




 ……だから、エア、その子が大切だと思うのならば、君は私を(あや)めねばならない。

 そして、私としてもそれを望もう。

 流石にあの子をこの手が殺めるのは、あの子が哀れ過ぎると感じて来た。



「嫌だ。私がちゃんと言い聞かせるから。大丈夫だから。きっと仲良く──」



 ──最初にも言ったが、忘れないで欲しい。

 飼いならす事など出来ない。羽トカゲ達は私達と同じ生き物だ。

 そんな甘い生き物ではない。

 何よりも、飼いならすというのは自らの思い通りに他者を操り、それを強い続ける行為である。



 そんな事を、その名に自由の意味を持つエアにはさせたくないのだ。



「……じゃあどうすればいいの。もう産まれちゃった。もう卵に戻す事なんてできないっ!」


「エアが望んだことだ」



 厳しい事を言うようだが、それは確りと覚悟しておかねばならない。

 そして、出来る事なら、そんなつもりじゃなかったなどと決して思わないで欲しい。


 その子はちゃんと望まれて産まれて来たのだと。

 エアにはそう思い続けて欲しい。言ってあげて欲しい。

 エアの優しさが救った命だ。

 君は最後までその子の味方で居続けて欲しい。 



「……じゃあ、どうす……いやだ!そんなつもりじゃ──」


「だから、君はこれから先、私を殺す準備を始めなさい。その子と共に生きる為の準備を」


「嫌だよ!ロムッ!!」



 君に足りない覚悟とは、私を殺す覚悟だ。

 不意を突くでも、真正面から正々堂々とでもいい。

 ……私を殺しなさい。



「無理だよ……」



 命を救うという事の意味が分かるかな。

 簡単に考えてはいけないし、時としてそこまで覚悟しなければいけない。

 軽率に扱って欲しくないのだ。

 自分がどうするかに責任も持たねばならない。



 それにましてや野生の獣を舐めないで欲しい。ペットにしようなんぞ以ての外である。

 共に生きる大事な相棒になれれば、それだけでも御の字だろう。



 今回は少し、厳しい事を言ってしまったが……まあ、もうそろそろ良いかもしれないな。私もしんどいのでこれ以上は止めた。



「……えっ?」



 エアはすっかりと瞳に涙をこれでもかと溜めて悲しい顔をしていた。

 だが、私がそう言った途端、呆ける様に顔を上げてこっちを見ている。



「──このような時の対処法を教えよう」



 教えとは時に残酷である。

 言葉や考え方一つで、人の行く先を大きく変えてしまうのだ。


 本当はもっと、エアにはのんびりと、穏やかなままで居て欲しかった。

 私的には、もっと甘えて欲しかったのだと思う。


 だが、この日を境に、エアはまた一つ成長してくれる様な気がした。

 これからは、その甘さが消えてしまうというそんな予感もする。

 残念ではあるが、それはきっと仕方がない事。


 だから、これは良き機会だったのだと考える事にしよう──。



「──エア、私を超えてくれ」


「……へっ?……」



 その小さな羽トカゲの成長は遅い。

 いずれ私の魔力が必要でなくなるのは、きっと百年先か、いやそれ以上か、そんなずっと先の話なのである。

 だからエアには、それまでに私やその子以上に強くなって貰う。


 殺し合う私達二人を纏めて相手に出来る位になってくれ。


 そうすれば、私達が殺し合おうとも、エアが私達を止める事が出来るだろう?


 それが私が現状で考え付く、一番の対処法だ。



「……私がロムより?強く、なる?」


「そうだ。私はこの日から待ち続ける事にする。その日その時が来ることを。そして、私は君がそうなれるように、精一杯協力もしよう。……だから、どうか私の全てを受け取って、超えていって欲しい」



 私は厳しい事を言っているだろうか。

 でも、エアならば出来ると信じている。

 彼女を一目見た時から、この子は私を越えると予感していた。



 精霊達は私を世界で一人の魔法使いと呼ぶ。

 そして、世界で最高の魔法使いであるとも。



 だが、違うのだ。

 その称号は私よりも相応しい者が受けるべきなのである。

 きっとその称号はその人物を表す為だけに使われる事になるだろう。

 ……そんな未来になる事を、現状私だけが期待し、予測していた。



 目の前に居る優しく可憐で、無邪気だが涙もろくもある、そんな素敵で愛しい彼女が、そんなエアこそが、世界で最高の魔法使いになるのだと──。





またのお越しをお待ちしております。




祝190話到達!


『10話毎の定期報告!』

皆様、いつも『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ。』を読んでくれてありがとうございます!



この作品は六十万文字を突破致しました!皆さん、ここまで読んでくれて本当にありがとうございます!


現状は油断なく書けてます。

無理をしているわけでもありませんので、このまま突き進んでいきたいと思います。

今後も引き続き応援頼みます^^!


ブクマをしてくれている五十五人の方々(前回から三人増)!評価してくれている十二人の方々!

皆さんのおかげで、この作品の総合評価は226ptに到達しました!ありがとうございます!


感想もいつもありがとうございます!凄く嬉しいです!そして、誤字報告も助かっております><すみません。


──さてそれでは、いつもの一言を力強く確りと言葉にしていきたいと思います!頑張れ言葉の力!!


「目指せ書籍化!なおかつ、目指せ先ずは総合評価500pt(残り274pt)!」


今後も『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ』を、是非ともよろしくお願いします^^!


更新情報等はTwitterで確認できますので、良かったらそちらもご利用ください。

フォロー等は出来る時で構いませんので、気が向いた時にお願いします。

@tetekoko_ns

twitter.com/tetekoko_ns

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ