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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第184話 父子。





「だははは、俺もまだまだ若いなー。運命、感じちまったわ」


「あの、これからよろしくお願いします」



 少女達のお父さんは、十代の成人したばかりの若いお嫁さんと、この度夫婦になる事が決定いたしました。

 それを受けて、三姉妹の感情は色々である。



「私達の為のパーティじゃなかったの?本当に吃驚したんですけど」


「あり得ない。マジであり得ないから」


「わたしは良いと思うな。お父さんもおめでとう。そして、父をよろしくお願いします」




 ──彼女達のお母さんが亡くなってしまったのは、十年も前の話だそうだ。

 でも、人によってはまだ十年しか経ってないと感じる、そんなあっという間の話でもある。


 それからずっと、この家族は父一人、娘三人で生活してきた。

 その間にどんなことがあって、どれだけの悲しみを乗り越え、今こうして笑えるようになったのか、それは私にはわからない。


 だが、それによりこの家族には深い絆がある。

 互いに支え合って来たという、そんな強き繋がりがあるのだ。



 彼女達のお母さんが亡くなった時、長女はようやく成人したばかり、これから自分の道を歩み始めようとする丁度その時に、母の死を受け、彼女は家族の中で誰よりも早く立ち直り、幼き妹達の姉でありながら、母の代わりになろうと奮起し、父を支え始めた。



 次女は、十歳、家の手伝いだけではなく、母の代わりに頑張ろうとする姉の背中を見てその真似をし始め、悲しむ余裕すらなく仕事に邁進しなければいけなかった父の手伝いを積極的にこなし、妹の世話をしつつも姉の支えとなる様に頑張り続けた。


 三女は、まだ五歳にもなる前、記憶がはっきりとする前のそんな時期に母親が亡くなり、彼女は一人母の顔を覚えることができなかった。だが、彼女にとっては姉二人が母親の代わりなってくれて、頑張る姉二人と頑張る父の姿をずっと傍で見て育って来た。その心はまっすぐで、とても素直な良い子に育ってくれた。



「……あの子達は言わねえが、上の子二人が嫁に行かねえのは……きっと、俺のせいだ。俺が不甲斐ないから、心配して行けねえんですよ。でも、もう十年もずっと支えて来てくれたんだ。もう十分だろ。今からでも自分の幸せの為に生きて欲しいんです。死んだ妻も絶対にそう思ってる。『いつまで娘達に寄りかかってるんだ』って、俺、怒られちまうよ」



 街全体を巻き込む程の大きさのパーティを開く予定だったので、準備には数日要した。

 その間に、彼女達のお父さんと私は、たまたま夜遅くに二人で、そんな話をする機会があったのである。



 もちろん、今回お父さんが新しいお嫁さんを貰う事になったのは運命を感じたが故にだ。

 決して誰でも良いから選んだという訳では絶対にない。


 そもそも、新しいお嫁さんはお父さん目的でよく露店に通っていた女の子らしく。純粋に前々からお父さんの事が好きだったのだそうだ。


 お父さんは、女の子からそんな純粋な気持ちをパーティの会場で正面からぶつけられて、心にジンッと来てしまったのだという。



 ──つまり、今回夫婦になったのも、女の子からの熱烈な告白をお父さんが受けたからなのだそうだ。

 誰に恥じる事もない。その純粋な気持ちで、女の子は身体ごとぶつかって来たそうである。

 それをお父さんは受け取り、心を打たれ、そしてこれから大切にしていこうと決めたのだとか。



「──だから、お前らからしたら少し微妙に感じてしまうかもしれないが、分かって欲しい。……それにその、やっぱ歳もお前らより若いし──ふごっ!ぶげっ!!」


「歳の事は言わないでって言ったでしょっ!このこの!」


「ふんっ、お父さんのバーカ!……でも、わかったよ。私達もそう言う事なら歓迎する!最初はちょっと冷たくしてごめんなさい。改めてこれからはよろしくお願いします」


「は、はい!これからよろしくお願いします!」


「お前ら殴ってないじゃん。何も蹴らなくても……」


「ふんっ!それはあれよ。私達が折角パーティで頑張ろうとしているのに、突如としてやってきた予期せぬ衝撃に対する鬱憤込みの蹴りよ!」


「ほんとさー。まさか夫婦成立『一番目』が自分の所のお父さんだとは思わないってー。マジで驚いたんだからー」


「あ、あのすみません。それはわたしが姿を見つけて舞い上がっちゃって、直ぐに告白してしまったからっ!」


「あっ、それはいいのいいの。うんうん。しょうがない事だもの」


「うんうんー。それに問題はお父さんにある。私達があの時怒ってたのは、お父さんがこっちにちょっとドヤ顔しながら楽しく踊っていたせいだもん」


「『あれ?俺は運命の相手を見つけたけど、お前らはまだ相手見つかんないの?ぷすすすー』って感じの顔してたもんね」


「ばっか!そんな事一言も言ってないだろうがっ!」


「そう言う顔をしてたのよー!あの時っ!」


「ほんとそれっ。まったくもー、あれのせいで驚いて猫かぶりが全部剥がれちゃって、結局私達は上手くいかなかったんだからー。……あーあ、私達は次のパーティで頑張るしかないね。お姉ちゃん」


「そうだね。……でも、なんか、もう凄く簡単な気がしてきた。次はきっと私も誰かのお嫁さんになれそう」


「まー……そうだね。私もそう思う。それに……お父さんが幸せそうで良かった」



 目の前の父親と、娘二人の互いを想い合う気持ちが、第三者である私達からは凄くよくわかった。

 三女も少年と共に今回初めて外から自分の家族を見つめて、ジーンとしている。

 今まで母親代わりに見えていた二人が、今この瞬間に、ただの姉に戻れたのだと少女は悟ったのかもしれない。


 きっとお父さんが考えていた以上に、娘二人は父を想っていた。

 そして、娘二人が想う以上に、お父さんは娘達の幸せを願い続けてきたのだ。



 互いが互いに『もう心配しないで』と言っている様に、私からは感じられる。

 その純粋な想い合いと優しさに、羊飼いの少年と三女も『こういう想い合える家族でありたい』と強く思ったのか、互いに頷き合っている。


 そして、そんな想い合う心を傍で感じたエアも、いつもはローブを掴む所を今回は私の手をギュッと握りしめてきた。どうやら感動しているらしい。


 今回、大したことは何も出来なかった私達ではあったが、得るものがとても大きい出来事だったように思う。

 最初はどうなる事かと思い、いっそ逃げたいとまで考えかけたけれど、……結果的にやって本当に良かった。




 ……因みに、第二回のパーティで、お姉さん二人は見事、良き人に巡り合えたらしい。




またのお越しをお待ちしております。

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