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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第182話 属毛。



「子供は欲しいんじゃねーのか?夫も欲しいんだろう?じゃあ、嫁に行けよって話だ!幸せになれよって言ってんのに、否定される意味が分かんねえ!」


「待って、父さん。そもそも子供や夫がいないと、私達の幸せがない、みたいな言い方やめてよ」


「そうそうー!今の仕事に満足してるし、充実してるじゃん。それに家族で支え合ってやってんだから、何も悪いことないでしょ?」


「私もそう思う。みんなあの露店好きだし、色んな人と話できるし、商売も楽しいし、生き甲斐になってるってのもあるのよ」


「それにー、私達目当てで来てくれるお客さんだって多いじゃん?いっそ、私達がお嫁に行かない方がお客さん達も喜ぶんじゃないかなーって私は思うんだよね?」



「はっ、花盛りなんて今だけだろうがっ!既に散りかけ──」


「──それ以上言ったら、父親と言えども殴るわ」


「──それ以上言ったら、父親と言えども殴るよ」



「……はぁーー、兎に角だ、嫁に行っても良いと思える奴は居ないのか?一人も?全く?」


「そりゃ、いいなーって思える人は居たことあるけど」


「なんだかんだねー。中々難しいもんでしょー。それにこういうのって焦っちゃダメだと思うなー。変な男を好きになるよりは全然ましでしょ?」


「当たり前だっ!くらだねえ男どもにお前らをやるわけにはいかんっ!」


「……思ったけど、私達、父さんのその選別眼によって阻まれてる気がしなくもないのよ?」


「そうそうー。私だって昔に連れて来た幼馴染の男の子、お父さんに追い出されたしー。あれが無ければ私普通にあの子の嫁に行ってたと思うよ」


「またあんなバカヤロウを連れてきたら、まず間違いなくダメだしさせて貰うがなっ!」


「それよそれ!父さんのそこにも問題あると思う」


「そうそうー。私達にばっかり言って、自分が気に入らなければダメ出しだけするなんてさ、都合良すぎるじゃん!相手の気持ちになって考えてみてよ!相手にだって心ってものがあるんだよ!」


「あんなんダメに決まってるじゃねーかっ!俺が何年接客業やってると思ってんだッ!一目見れば大体の雰囲気で分かるんだよ!そいつが誠実な奴なのか、そうじゃないのか、なんてのは一目でな!こっちだって好きでダメ出しなんかしたいわけじゃねえって!」


「……うっ、流石に説得力はある……」


「まー、確かにあいつ女癖悪くて、あの後他の子と夫婦になってたけど、その女癖の悪さでもう別れちゃったって聞いたもんなー……お父さんの長所は馬鹿にできないよねー」



 私達が家に入っても気づかず、三人はひたすらに喋り続けている。

 その間、三女の少女は恥ずかしさから謝り続けていたのだが、今では少年が宥めていた。


 ……ふーむ。聞いているだけで大体の話は把握できたが、本当にこれは私達がしゃしゃり出ていい問題ではない気がする。

 だが、そんな風に私達が戸惑っている間にも、私達の存在に未だ気付かぬ三人の話は更に進んで行った。



「お前らなー、少しは妹を見習えよ。あの子は直ぐに良い相手を見つけたんだぞ?お前らに何故出来ん?できるだろ!……まあ、そもそも、あんなに良い相手はあの子には勿体ない気もするが……」



 ──ピキリ。


 少年に宥められていた少女が、ぴくっと反応して顔を上げた。……おっとっと、これは拙いですよ。



「そうそうー。そうよー!てか羊飼いの少年って言えば、噂だとかなり凄いんでしょ!街の住人みんなに引っ越しのお祝い品送るくらいだもんね。あのスプーンとフォークも可愛かったし、お金も持ってるんだろうなー。……あの子、もしかして将来安泰?」


「そうね。羊毛もミルクもお肉も全部、街の特産としてはかなりの人気だし、正直な話かなりの安泰。超優良物件。羊飼いの子も優しそうでいい子そうだったし、将来いい男になりそう。お家も大きくて可愛いんだって」


「いいなー、あの子には勿体ないよねー」


「うんー。勿体ないー」



 ──ピキピキピキ。



 こういう普通の噂話は、部外者として聞いている分には意外と面白いと思う。

 それに、エアにも好評だったので心配はしていなかったが、あのスプーンとフォークが街の人達にも好評のようで嬉しい。

 少年も彼女のお姉さんたちから褒められて、少しだけそのおっとり顔を赤く染めていた。



 ……唯一、問題は三女だけ。

 先ほどからその顔が、だんだんと怖い雰囲気を纏い始めているのである。

 『耐えろわたし。耐えるんだわたし』と言う声が聞こえてきそうな表情で、今はまだ我慢しているのがよくわかったが、それもいつまで持つか。



 もしかして、血の雨と言うのは降るものではなく、降らすものだったのかもしれない。



「じゃあさっ!お父さん!良い事考えた!」


「なんだよ、いきなり」


「その羊飼いの少年の所に、私達姉妹で一緒に娶って貰っちゃうってのはどうっ!三人くらいなら余裕なんじゃない?」


「確かに、いい考え」


 少女のお姉さん達は遂に凄い事を言い出し始めた。

 三女はふらりと立ち上がると、ゆったりとそっちの方へと向かっていく。



「えー、それは幾らなんでも、どうだかなー向こうに迷惑がかかってしまうんじゃないかー?」



 こらこらお父さん。娘さん達を止めなさい。

 なんでちょっと『それも悪くないかもなー』みたいな雰囲気を出しているのだ。

 少年だって流石に困り顔をし始めている。



「いやいや、大丈夫だってー。お姉ちゃんもそう思うでしょ?」


「うんうん。私達の妹が好きなら、私達の顔も嫌いじゃないだろうし、美人三姉妹をお嫁さんに出来るとなれば、羊飼いの少年にとっても悪くはない話かもね」


「ねーっ!そうでしょ!いい考えでしょー!そうしちゃおうよー。そうすれば問題も全部解決じゃん!」



 ……とんでもない話になって来た。

 今からでも私達は帰った方が良いかもしれない。いや、すぐに帰りたい。

 聞かなかった事にしてこのままギルドに全部お任せしてしまってはダメだろうか。



 ……いや、ダメだ。少年が私の方をジッと見ている。

 あの目は逃がす気のない瞳。羊を毛刈りする時の達人の目をしていた。



「んーー、そうは言ってもなー……歳がなーー」


「言ったら殴るって言ったでしょっ!」


「ほんとそれっ!それに、私達だって少し頑張ればまだ十代にしか見えないでしょっ!!」



「──どう頑張っても二十代だよっ!!」



 そして、遂に三女がキレた。

 そのいきなりの登場と背後に見える私達の姿に、お父さんと姉二人は硬直している。



「さっきから聞いていれば、三人とも何を言ってるのっ!お客さんが来た事にも気づかずに、家の恥を晒しに晒し続けてっ!そもそも、お父さんはギルドに変な依頼しちゃダメっ!お姉ちゃん達は妹の旦那さん取ろうとしちゃダメッ!!まったくもうっ!」



 ド正論であった。

 そんな三女のお叱りの言葉に、お父さんとお姉ちゃん達二人はしゅんとし『はい、ごめんなさい』と小さくなって謝っている。

 少年だけはそんな少女を見て、まだ見ぬ一面が見れて嬉しいのか微笑ましそうに笑っていた。


 エアは苦笑しつつも楽しそうにしている。

 ……私は、この後ことを考えると、ほんの少しだけ胃がキュッとなった。





またのお越しをお待ちしております。

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