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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第180話 内剛。




 ここ数日、『羊さんハウス』に私とエアは泊まらせてもらっている。

 羊さん達も外とは違って外敵が全く居ない家の環境に随分と慣れてきて、戻りたい組と居残りたい組に分かれて過ごす様になっており、居残る組と一緒にエアと私は生活していた。




 そして、昨日からは少年も一緒にここで寝泊まりをしている。自分の部屋があるというのに、やはり羊さん達が居残っていると心配になるらしい。



 そうして、毛刈りも本日で全部終わり、元々予定していた日数よりも少し早く私達は帰る事になる。

 魔法道具が出来たので本当は更に早く毛刈りも終わる筈だったのだが、少年が一日に千頭の毛刈りで止めると『散歩に行きたいです』と言って来るようになったので、私達も一緒に散歩を楽しんだ。



「ふふっ、大丈夫?そんなに気負ってると、気になる人をロムが連れて来ちゃうかもよ?」


「ええっ、いやーそこまではちょっと」


「うん。じゃあ、もしロムがそう言いだした時には止めるね」


「はいっ。お願いします。……よっし!僕も気合入れなきゃ」



 ここ数日でエアと少年は本当に姉弟のように仲良くなっている。


 二人でよくコソコソと相談しているし、何か楽しい事でもあるのか今日も何かの予定について気合を入れて二人で話し合っていた。これから出かけるらしい。気を付けていってらっしゃい。



 ……因みに、私と言えば、時間が空いてるし良い機会でもあるのでエアの服だけではなく少年の服も沢山作っている。久々の『お裁縫』でもあるので、私は魔法も使って全力で製作中だ。

 色々と旅してきて、ちょくちょく男物のデザインも仕入れているので抜かりはない。キラーン(久々の登場に光り方にも熱意が感じられるモノクル)。



 ただ、少年の年頃は服を作るとしても直ぐに体に合わなくなってしまうと聞く。

 折角今の身体に合せて作ってもすぐに着れなくなってしまうのでは悲しいし、無駄になってしまうのは勿体ない。



 そこで私は、各サイズを全て作っておく事にした。

 これでどんな大男に少年が成長しても問題ないし、今のままからあまり変わらないのだとしても上手く着こなしていけるだろう。

 多めに作っても余った分は、近隣の街の人におすそ分けしてもいいかもしれない。

 それもまた色々な人とのつながりになるだろうし、彼なら上手くやる筈だ。



 今までの服も穴が空いているのは繕っておいて、『お裁縫』をしながら、家の中の浄化や修繕も同時に進めていく。魔力で探知している為、遠隔でも細かな水回りの汚れまで私は見逃さない。全部スッキリ綺麗にしてやるのだ。



 羊さんハウスの外観もかなり味があって好きだが、これからの事を考えると耐久性をもう少し上げておきたいので、魔方陣に更に改良を付け加えていく。

 街の特産品と相まって名物ハウスにでもなってくれたら少年が寂しい思いをしないで済むだろう。





 私達が今日にでも帰ってしまう事は少年にも、もう伝えてある。

 なので、もう少しでさよならだ。

 それを伝えた時に、少年はまたあのぐっと堪える状態になっていたが、それでも我慢し、また元のおっとり顔で微笑んで受け入れていた。



 本当は一緒に居て欲しいのかもしれないと、私はその心の内を少しだけ察する。

 だが、私達は魔法使いであり、冒険者なのだ。旅する者達なのである。

 だから、ここには止まれない。



 そして、少年もまた羊飼いと言う仕事を投げ出してまで、私達と一緒に来ることを選びはしなかった。

 『この仕事に誇りを持っているから、僕は一緒には行けません』と言う声が、その時の我慢の微笑みからは伝わって来たのである。



 彼を、本当に立派だと感じた。

 その誇り高さを私は尊重する。



 だから、最終日である今日は、やり残しが無い様に精一杯細かな所まで私は頑張るつもりであった。

 二人は何やらお出かけする用事があるという事なので、今日は私と羊さん達でお留守番である。



 因みに、服を作ってる私のすぐ横には沢山の羊さん達が全員お昼寝中だ。

 羊さん達も、今日で私達が居なくなってしまうとちゃんと理解しているので、最後に魔力シャワーを浴びに来たのだとか。

 みんなうっとりしてから、ぐてーっとなって、スヤスヤ眠っている。とてもほっこりします。



 羊ハウスの中には曽じい様の使っていた魔法道具が幾つか壊れたままの状態で残っていた。

 少年には直せなかったらしく、捨てられもしないのでそのまま放置していたのだとか。

 聞いたら直しても良いと言っていたので、そういうのも全部直して改良しておいた。



「ロム―っ!」



 あとは何かやり残したことは無いかと見回っていると、ちょうどエア達も帰ってきた様であった。

 私はちょうど入口の近くにいた為お出迎えしようとそっちに足を運ぶ。



 すると、エアと少年の他に一人だけ見知らぬ少女がいた。

 おやどちら様だろうか。早速散歩の甲斐があって少年に新しい友達でも出来たのだろうか。



「あの、ロムさん。僕、街でこの子に一目ぼれしてしまって……それで、先ほどこちらのお嬢さんと婚約出来る事になりましたっ」


「わーエルフの人が居る」


「私とロムは冒険者で、今お仕事でこのお家に泊まらせて貰ってるの」


「へー、そうだったんですか」


「それで、向こうのお家の方々にはさっき挨拶をして来まして、今度は彼女の方がこっちに来てみたいと言うので、一緒に来てもらった……と言う状況です」



 ……なるほど。納得した。

 だがまさか、友達どころかお嫁さんを連れてくるとは思わなかったのである。



 少女は少年と同じ年位に見えるので、おそらくはまだ成人前だろう。

 そんな少女に一目ぼれして求婚し、そのまま向こうの家族へと挨拶も済ませてしまうとは……。

 彼は本当に立派だ。



「でも、まさか本当に了承して貰えるなんて思ってなかったんです。今日は本当はそんなつもりじゃなくて、街をお散歩している時に気になって、友達になって貰おうと思って話しかけてたんですが、偶々彼女のお父さんが『どうした惚れたのか?なら嫁にするか?』と尋ねてきてくれたので、僕は『お願いします』と即答してしまって──」



 少年は珍しくも早口で色々と説明してくれる。

 ……そして、それによると、少年が一目ぼれした少女は家族でやっている人気露店の三女さんらしく。一生懸命働いているそんな彼女の姿を、散歩中の少年はずっと目で追ってしまっていたようで、少年が直立不動のままひたすら自分の娘を見つめているのを彼女のお父さんに見つかり、父親サーチアイによって直ぐさまそこに恋心があるのを見破られた少年は、見事それを言い当てられてテンパってしまったようであった。



 彼女のお父さんも少年が街で噂の『羊飼いの少年』と言う事もあり、試しに冗談半分で『娘を嫁にしたいか?』と尋ねたそうなのだが、思ってた以上に彼が真剣に返して来たので、これは良いご縁かもしれないと判断し、一時的に店を閉店させ、今までずっと家族全員を交えて彼と真剣に話し合っていたらしい。



 ……因みに、少年と一緒に行っていたエアの立ち位置は、『彼に雇われている冒険者で、ボディガード代わりです』と言って家族には説明していたようだ。彼女の家族も少年程の有名人にならボディガードがついても当然かと納得したのだとか。



 噂とか有名人とか、そこまで人気が広まっているとは私は知らなかったけれど、なんにしても、彼は彼女の家族との話し合いで、飾らず誠実なまま自分の事を話し、そして彼女の事が『凄く気になる』と正直に伝えて来たのだという。



 すると向こうの家族も、気持ちを伝えられた少女も、噂の人物のその成人前とは思えない確りとした姿に感銘を受け、少女も少年の事が『気になり始めてきた』と言うので、見事婚約するに至ったのだそうな。



 何故婚約であるのは、当然まだ成人前だからである。それに一目ぼれである事。

 二人が成人を迎えた時に、まだその気持ちが変わらないようであったならば、その時はまた正式にお祝いしようという話になったらしい。


 ……なるほどと私は思った。改めて納得である。



「心からおめでとう。二人に行く末に幸多からん事を」




 私が祝いの言葉をそう告げると、少年は嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。

 少女の方は、少年がそこまで喜んでくれる事が嬉しい様に見える。

 どうか彼を支えてあげて欲しい。そして、君も幸せになってあげてくれ。



 少年と少女の幸せそうな温かな笑みには、もう寂しさなど微塵も感じられなかった。

 私はそれを嬉しく思う。



 幸せそうな二人の邪魔をする訳にもいかないので、私は今日一日精一杯行ったあれやこれをプレゼントとして渡すと、エアと一緒に『羊さんハウス』を後にする事にした。

 突然かもしれないが、その方が良いと私は思ったのである。



 少年はちょっとだけ残念そうにしたが、それでもまたあのおっとりとした顔で微笑んで見送ってくれた。



「ありがとうございました!本当に色々と、いっぱい、いっぱい!ありがとうございましたッ!また、どこかでっ!また……」



 去り行く私達の背に向かって彼は手を振り続けてくれた。

 私達は最初だけ手を振り返すと、それ以降は振り返る事無く進み続ける。



 ……彼は気づいているだろうか。

 その顔はいつものおっとり顔のままで、微笑んではいるものの、その目元からは──。



 ──いや、どうやらそれも気のせいであったらしい。

 今はもう、その『何か』は姿を消してしまったのである。


 ……彼の隣に居る少女が優しく拭い去ってくれたようであった。



 そんな二人の微笑ましいやり取りを、背を向けたまま私とエアは魔力で感じ取っていた。

 『もう大丈夫だね』と言うエアのその言葉に、私も頷きを返し、一安心したのである。

 元気で、お腹を冷やさない様に……。




またのお越しをお待ちしております。



祝180話到達!


『10話毎の定期報告!』

皆様、いつも『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ。』を読んでくれてありがとうございます!


さて、今回の報告は前回の宣言通りに、総合ポイントが二百ptを越えた事をここに報告いたします!ありがとう!嬉しいです><ブクマも五十人を超えましたっ。



ブクマをしてくれている五十二人の方々(前回から三人増)!

評価してくれている十二人の方々(前回から二人増)!

皆さんのおかげで、この作品の総合評価は220ptに到達しました!ありがとうございます!



励みになります。にやにやしてしまう。

ですが、一度緩むと気を引き締め直すのはとても大変な事は存じておりますので、この先もこのままひたすらに進み続けたいと思います。

油断せずに一歩一歩頑張っていきます。

良かったら今後も支えてください。引き続き、応援よろしく頼みます^^!



──さて、ではいつもの一言のコーナーです。確りと言葉にさせて頂きます!


「目指せ書籍化!なおかつ、目指せ先ずは総合500pt(残り280pt)!」


今後も『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ』を、是非ともよろしくお願いします^^!


更新情報等はTwitterで確認できますので、良かったらそちらもご利用ください。

フォロー等は出来る時で構いませんので、気が向いた時にお願いします。

@tetekoko_ns

twitter.com/tetekoko_ns


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