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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第176話 遠謀。





 少年に魔法道具を渡したわけなのだが、実際に使っても問題ないかの再確認と、これがどれだけ再利用可能なのかを少しだけ調べる為に、早速魔法道具『羊さん用毛刈り初号機──木の枝型』、略して『羊毛機木』の実験を始める事にした。



 ……だがまあ、それは建て前である。



 本当は、羊さん達が、魔法道具に興味津々になってしまい、気づいたら整列しだしていたので、『しょうがないから、このまま少しやってみようか』と言う展開になったのだ。

 おっとり少年もまさか『この子達がこんなに素直なのは初めて見ました』と言って苦笑していた。



 『羊毛機木』を一つづつ横に並べていき、その前に並んだ羊さん達が一頭ずつ鼻先でコツンと触れる度に『シュン!』と風が舞って綺麗に羊毛がするっと刈られていく。



「プメェ~!プメェ~!」



 やはり羊さん達は嬉しいらしい。スッキリ爽快と言っている。

 そして、狩り終わった羊さん達は、トコトコと私の近くへとやってきて、私が魔力を渡すと『プメェ~~~~~』とうっとりしながらお昼寝に入っていくのだ。


 そんな羊さん達の毛がどんどんと【風魔法】で集まって行くのを少年が回収していき、うっとりとしてお昼寝に入った羊さん達を、エアが寝苦しくない様に綺麗に並べていった。



 私はそんな皆の中心でお茶をズゾゾゾーと美味しくいただいている。……別にサボっているわけではない。ここが一番邪魔にならない場所だったのである。



 大体魔法道具である枝の数は五十本と言ったところで、大体発動してから終わるまでに一回につき六秒程かかる。羊さん達の移動も合わせれば、大体十秒といった所だろうか。



 一度に五十頭の羊さん達の毛刈りが終わるので、百頭でかかる時間は二十秒、千頭で二百秒、つまり全体の所要時間は三分二十秒──千頭の羊さん達の毛刈りが、約三分弱で終わってしまった。

 早く終わるのは喜ばしい事ではある。あるのだが……。



「これは、想像以上でした。まさか別の意味で人手が要らなくなってしまうなんて……」



 少年はこれを街のみんなと一緒に出来る事を凄く嬉しそうに語っていた。

 ……だが、これはもうどう考えても少年一人で充分に出来てしまう作業になってしまったのである。



 あれ、これは私、やってしまったのではないだろうか……。

 彼が心から期待していた展開を潰してしまった気がする……。



 『旦那……』『これはやってしまったね……』『少年の背中が……』『哀愁を帯びていますね……』



 ……君達、や、やめて欲しいのである。言わないでくれ。私も今どうしようか考えているから。



 だが、今更この沢山作った魔法道具を没収し、一本だけ残したとしても、結局状況は変わらない。

 魔法道具一本でも、千頭でかかる時間は一万秒、時間にすれば、二時間と四十六分四十秒。

 これ一本だけで、だいたい三時間もかからずに終わってしまうのである。



「やっぱり魔法道具って凄いんですね」



 そう言う少年の表情はどこか諦めが漂っていて暗い。

 言葉自体はほぼ同じ筈なのに、先ほどよりも重みが増していて、凄く悲し気に聞こえる。 



 ……で、デチューンして性能を落としたものに魔方陣を改良してはどうだろうか。

 そうする事で、魔法道具の耐久性を上げる等の工夫の為に力を使えば、その分作業速度も落ち、もっと時間がかかる様にはなる……。



「…………」



 だが、それをする意味は本当にあるのだろうかと、私はふと思い至った。

 これはただ単に、魔法道具がどうこうという問題ではないのだと、その時に私は気が付いたのだ。


 ここで大事なのは、『なぜ彼が街の人と一緒にやりたいと思ったのか』である。

 ……だが、そんなもの、問うまでもないことだろう。



 彼は寂しかったのだ。



 曽じい様と彼だけしかいないあの家から、曽じい様が居なくなり、彼はもう一月弱を独りきりで過ごしてきた。その寂しさはとても深い筈である。



 それが、根本的な問題だ。

 少年が今落ち込んでいる理由も、まだ成人前の彼がこの森で一人、羊達の世話だけをして暮らしていく事を寂しいと感じてしまっているから。



 沢山の羊さん達は居るけれど、それは昼間だけの話。夜までには毎回羊さん達を帰してあげる事になっているらしく、流石に家に戻ると一人になった時に余計に寂しさを感じてしまうのだろう。



 それに、曽じい様が亡くなってから休む間もなく忙しくしていた為、今まではそこまで表面化してこなかった感情が、さっきの出来事でここに来て彼の心にずっしりとした重みとなって表れてしまった。



 これは、私のミスである。

 大衆向けに作った道具ならば効率だけを求めてても問題はなかっただろうが、これは最初から彼の為を思って作った品物なのだから、その結果彼を落ち込ませてしまう事になるのは問題大有りであった。少なくとも私は自分でそう感じている。



 これは、このまま見逃しておきたくはない。

 いや、見逃してはいけない問題であろう。



 彼は最初に、『この仕事が好きなんです。どうか力を貸してください』と言って頼んできた。

 私達はそれに『出来るだけの事を精一杯頑張らせて貰う』と返して了承したのである。



 だから、全力でどうにかしてあげたいと私は思った。



 この仕事から彼を引き離すことなく、彼の寂しさを埋めてあげられるように、最終的には街も少年も可愛らしくて素敵な羊さん達も、みんながにっこりと笑顔でいられる様にする為に──。



 ──私はエアと一緒に、密かに動き出し始めるのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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