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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第175話 外柔。



「はい。次の子」


「プメェ~」



「はーい!まだの子達はこっちだよーーー!ほらー追いかけてきてーーー!」


「プメェ~」



 エアが羊さん達を誘導し、少年が的確にハサミを振るい、私がお茶を飲む。



 私が一人だけサボっている様に見えるかもしれないけれど、これにもちゃんと意味があり、毛を狩り終わった羊さん達に魔力を渡しつつ回復を図っているのである。

 そんな私の傍では魔力が浸透して気持ち良さそうにお昼寝をしている羊さん達がいっぱいだ。



 でもやはり、見た目的には『羊さん達の中のエルフが一人で隠れんぼしている』みたいな光景にしか見えない為、私は自分でも密かに道具を取り出すと作業をし始めた。


 取り出した道具類で今からする事は魔法道具作りである。

 今回作りたいのは、魔力の探知で毛と身体をハッキリと見分け識別し、毛だけを判断して、刈り取る事が出来る魔法道具であった。



 出来るかどうかは分からないがこれが作れれば、少しは楽にはなるだろう。

 という事で物は試しと作り始め、森の中にあって偶々目に留まった木の周囲で拾った枝を材料に作ってみる。


 先ずは基礎となる魔方陣の構成だが、まあここらへんは定型文の記述の様な物で、自分の好きなスタイルで書いていく。絶対にこの書き方じゃないと発動しないという魔方陣はとても少ない。


 さて、そうしたら次に内部の働きについて記述していく、まあそれも一つ一つの動きを単純にして、後で繋げてしまえばいいだけなので基本的には簡単だ。



 今回の場合だと対象指定が羊さん達、発動条件を羊さんがこの魔法道具に触った時、発動する魔法は順番に【探知】【識別】【判断】【風魔法】【回復魔法】と行わせて、これを繰り返しで行えるように【反復】させ、適宜魔法道具に魔力を補充できるように【魔力吸収】と【魔力充填】をつけて、異常が起きた場合の対処として【状態感知】と【一時停止】と【自然修復】を忘れずに、それから衝撃を受けた場合や壊れた際の補助として緊急の【完全停止】と【復旧】、後は毛刈りが終わった後の毛を集める為こっちにも【風魔法】を使って、最後に音声で現在の状態が分かる様に【発声】で『今から毛刈りを始めます。よろしいですか?プメェ~』『終了です。お疲れ様でした。お身体を大事に。プメェ~』等のメッセージを私の声で幾つか登録して──




「──ふむ。かなり簡易的な物だが、一応は出来たな。……さて、ちゃんと動くだろうか」


「プメェ~」



 そうして、出来上がった魔法道具『羊さん用毛刈り初号機──木の枝型』を、少年に一応確認をとってから、最初からずっと私の隣に居て一番仲良しになった羊さんに試しで使って貰った。

 彼女は『わたしになら試してくれてもいいのよ』と伝えてきてくれたので、協力して貰ったのである。

 ……羊さんに何か怪我が及びそうな場合はその前にちゃんと止まる様になっているし、何が起きても私が絶対に守るから安心して欲しい。



「プメェ~」


 私が地面にその木の枝を突き刺し、羊さんにはその気の枝を鼻先でコツンと触れてもらう。

 すると、魔法道具はちゃんと発動して、そこから『今から毛刈りを始めます。よろしいですか?プメェ~』と言う音声が流れた。


 羊さんはちゃんとその音声にお返事をしてくれて、魔法道具からは風が舞い、毛刈りは『シュン!』と言う一瞬で終了する。


 ふぁさっと、狩り終わった毛も風に運ばれて、設定していた通りに魔法道具の後ろへと集まった。……まあまあの出来である。



「…………」



 『終了です。お疲れ様でした。お身体を大事に。プメェ~』



「プメェ~!プメェ~!」



 おお。羊さんが喜んでいる。少年がやってくれる様な気持ち良さは無かったが、気づいたら一瞬で終わっていて、それで痛み等ももなく、問題ないという事らしい。協力してくれて本当にありがとう。お礼の魔力だ是非受け取って欲しい。



「プメェ~~~~~~」



 羊さんは少し濃いめの魔力にうっとりとしながら、まるで全身マッサージを受けたみたいな声を出すと暫くしてそのままコテンとお昼寝を始めてしまった。



「…………」



 だが、それらが終わった瞬間から、少年やエア、そして大勢の羊さん達がこっちを凝視している。

 ……はて、どうしたのだろうか。



 『いや、旦那、そんなの当然でしょうよっ!』『そうだよ!一瞬で終わっちゃったっ!』『わたし見逃した』『でもこれだと確かに時間短縮にはなりますけど、少年は逆に技術が活かせなくなってしまうのでは?』



「…………」



 確かに。土の精霊に言われて気が付いた。私はまだまだだな。心配りが出来ていない。

 少年が少しでも楽になればと思って作ったが、少年からすると自らの技術を活かす場を取られた事とこれでは同じではないか。



 私としたことが、もう少しで冒険者としての矜持を忘れて他の者の仕事を取ってしまう所であった。危ない危ない。土の精霊もみんなも、注意し気づかせてくれて感謝する。ありがとう。

 この魔法道具『羊さん用毛刈り初号機──木の枝型』は私が個人で使う用にする為【空間魔法】に収納しておくことにした。



「いやっ!あのっ!まっ!今の木の枝って、あれっ!?消えた?いや、今ありました!見ましたよ!それにさっき『魔法道具を少し使っても良いか?』ってさっき言ってたし。あの時、聞いた時に手に持ってた木の枝のやつ!あれで今の毛刈りをやったんですかっ!!」



 少年はばっちりと、全てを目撃していたようだ。……言逃れは出来まい。

 そこで私はちゃんと『ごめんなさい』をして頭を下げておく。

 君の曽じい様の言葉通りに、初心者は考えなく出しゃばった真似をするものではなったのである。



「いやっ!そんな、大丈夫なんですけどっ!それっ、そんな便利な魔法道具が街の外にはあったんですね。良かったぁ。……あの、それがあれば皆で作業が出来ますよね?」



 少年は毛刈りが忙しくて、私が今魔法道具『羊さん用毛刈り初号機──木の枝型』を作っていたところは見ていなかったらしい。

 それにどうやら怒ってもいないみたいだ。それどころか待ち望んでいた風にも見える。



 そこで、私は魔法道具を取り出しながら頷くと、それを少年へと手渡してあげた。

 おっとり少年は枝を受け取ると、掲げる様にして眺めながら微笑んだ。



「うわー、見た目普通の木の枝にしか見えないのに!あんな一瞬で毛刈り出来ちゃうのか!やっぱ魔法道具って凄いなーっ!!」



 ふむ。では、良かったらそれを貰って欲しい。

 私は同じものを(作ろうと思えば)幾つでも手に入れられるから。



「ほんとですかっ!!……曽じい様、これで街の人にも手伝って貰える方法が見つかりましたよ。……よかったぁ」



 少年はその気の枝を抱きしめると、心から嬉しそうな声でそう言った。

 何か深い訳でもありそうだと察したが、いきなり深くまでずけずけと踏み込むのは躊躇われたので、少し浅い部分からを尋ねてみる。



「魔法道具を使っても、曽じい様は怒らない人かな?」


「はいっ!大丈夫です!曽じい様も魔法使いとして魔法道具には詳しかったので、絶対に平気です。それにこれでお父さんやお母さん達も遠ざけなくて済みます。この子達、魔力の無い人達には全然興味無くて、近寄ると誰でも構わずに体当たりしちゃうんですが、これならみんなも大丈夫です」



 ……なるほど。可愛らしいけど凶暴と言うのはそう言う事であったのか。

 ただ、それなら流石にこれだけの羊達が居て、魔法道具が一本だけと言うのはあまりにも数が見合っていない。


 なので私は、魔力の探知で周辺の落ちている丁度良さそうな枝を全部回収すると、数十本の同じ魔法道具を少年の目の前で作って、そのまま全部を渡してあげた。



 ……因みに私の場合、最初の見本となる魔方陣さえ出来てしまえば、あとは雷石改の時の様にスタンプを押すが如く簡単に焼き付けるだけで他のを作れる様にしてある。

 なので、その数十本の魔法道具を作るのには、殆ど時間もかからなかった。



「まさか……これぜんぶっ!?良いんですかっ」



 と少年は驚いてくれているが、実際には丁度いい木の枝がもっとあればもっと作れる。

 だが、その為にわざわざ沢山の枝を切り落とすのはどうかと思い、ほどほどにしておいたのである。……それでも良かったら全部使って欲しい。



 ──そして、出来上がったばかりの魔法道具の一つは、エアの手にもちゃっかりと握られていた。

 エアは『ロムがプメェ~って言ってるっ』と言って、魔法道具を手にしながら嬉しそうに微笑んでいる。

 だがしかし、それは羊さんが触らないと発動しないタイプの魔法道具なので、エアが魔力を通しても声は一切出てくれない為、エアは首を傾げていた。



「…………」



 すると、エアはこっちに顔を向け、何かを訴えかけてくるかのように『これ動かないの?』と瞳をウルウルさせながら見つめてくる。


 ……なので、後でエアにはちゃんと【発声】の機能だけ付いたものを渡しておきました。




またのお越しをお待ちしております。

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