第170話 酔。
注意・この物語はフィクションです。
登場人物達の種族設定において、一部特殊な部分があります。
今回、後半部分はとある事情により会話部分が多くなります。
以上の事にご留意ください。
「ロムっ!お酒はダメだって言ったでしょっ!」
魔力で私の居場所を探知してやってきたエアは、酒場に私がいる事を発見すると、ぷりぷりと怒り始めた。
エアにとって、お酒と言うのはもはや敵と同じである。
つまり、『酒場』に入ると言う事は、そんな敵地のド真ん中に突撃していくのと同じ事なのだ。
そんな危険な場所に、私がいる事が信じられない、と言いたいらしい。
……確かに、危険な場所にわざわざ突撃していくのは冒険者としては二流以下だと私も思う。
戦場での『進む』か『戻る』かの判断も、それがそのまま生死を分ける境になる事が大変に多い。
つまり、今までエアは『酒場』と言う戦場において、『戻る』と言う事が一度も出来ていない為、死に続けて来たという事なのでもあった。
だから今回、エアからは何としてでも生きて(素面で)ここから生還したいという強い想いを感じる。
大袈裟だと思うかもしれないが、自分でまだお酒の限界を知らず、毎回毎回失敗してるならば、どうにかしなきゃと思うのは普通の事であろう。
……もし思わない場合は、既にかなりお酒に飲まれているので、一度お酒から離れてゆっくりと考える時間を設ける事を、私からはおススメしておく。
撤退しなければいけないと感じた時には既に手遅れだったという話も多い。
迷った時は既に安全ではないのだ。既に危険の中に突撃してしまっている状態だと察し、一目散にでも退く事を心がけよう。
もちろんお酒だけではなく、街中でもいつどこにどんな危険が潜んでいるかわからない。
だから、『進む』か『戻る』かの判断は常に意識しておきたい問題なのである。
「はーい。ジュースお二つ、お待たせしましたー!」
──さて、そこまで考えれた時、私の『戻る』の判断として最善だったのは、やはり彼らの誘いには乗らず、酒場に入る前に撤退する事がベストだった気がする。
入った瞬間からは、もう罠に落ちたと同義!だからそう速やかにっ!一目散にっ!撤退すべきだった!
だから、失敗したのだ。私も。
……つまりは、そう言う事だな?エア!
「はい?……ろ、ロムっ?どうしたの?大丈夫?」
……なに。それでは既にここは、敵の術中の中だとでもいうのかッ!いかんぞ。それはいかん。
エアだけはなんとしてでも守らねば。
急いで逃走体勢に移行する必要がある。
うっ、だが、目の前に、エアの顔があるぞ。
どうやら私が任務を全うできるか、心配しているらしい。
このエアの優しさが身と心に、染みてくる……。
「──だら、だいじょうぶら、えあ、みていてふれ。わたしは、まけぬぁい!ぜったぃにっ!」
「えっ……これって、ロムが酔ってるっ!?」
『旦那が酔ってるだってッ!?』『まさかっ!フルーツジュースじゃなかったのッ!?』『何飲んだ!?』『まさか毒でも盛られたんじゃ!エアちゃん!直ぐに浄化をっ!』
「……んー?ゴクゴク」
『うわ!エアちゃんまで飲んじまったぞっ!』『すぐにぺっして、ぺっ!』『あわわ』『これはいけません。もしもの時は、私が全力で……ん?』
「……これ、普通のフルーツジュースだったよ。んーでも、ちょっとだけ違う?上の方の味とか変わってるかも」
「……あれー美味しくなかった?今出したフルーツジュースね。この辺だと珍しいけど『チーズ』が入ってる特別製なんだよっ!」
「……ちーず?ってなんだっけ」
「動物のミルクを固めたやつかなー。チーズとフルーツって相性良くて人気なんだ。一杯飲んでいってね!……てか、エルフの人凄い上機嫌だね。何言ってるのか分かんないけど、楽しそうで良かった」
「うん~、なんかロム酔っちゃったみたい」
「はい?えっ、フルーツジュースで?」
「ううーん。いや、たぶんその、ちーずで」
「チーズで!?エルフってチーズに酔うの?」
『酔うのか?』『わかんないっ!』『右に同じ』『でも確かに、大樹の森の中だとチーズって全然見かけませんでしたね。もしかしたらご本人も知らなかったんじゃ……』
「んー、どうだろー。分かんない」
「そっかー。あっ!じゃあ、あの魔法道具に残しておけば?ほら、私も使わせて貰ったんだけど、あの石のやつ」
「ああー!『雷石改六』ー!いいかもっ。ロムに見せてあげよっ!ふふふっ、こんなロム初めて見たから貴重だよッ!教えてくれてありがと」
「いやいや、こちらこそ。本当にありがとうね。二人のおかげで私とあいつも仲直り出来たし」
「ううん。私は何もしてないよ。ロムがいつも助けてくれるんだ」
「優しい人だね。なんかエルフっぽくないって言われない?エルフってもっと上から目線な人ばかりだと思ってた」
「うんうん。色んな人によく言われてるよ。変なエルフだって。でも、私は好きだな。ロムっぽいし」
「今日もずっと、私達について来てくれたよ。口では嫌々言ってたけど。『しょうがない』って言いつつもずっと一緒に居てくれたの。……なんか嫌そうなのに、全然嫌そうに思えないんだよね。不思議だけど」
「うんうん。ロムっぽさが出てる。……あと、それ以外にも『……因みに』とか『……ふむ』とかって口癖もあるの」
「あっ、似てるね。言ってた言ってた」
「言ってたでしょー。それ以外にもあるんだ。実はね──」
──その後、私はどうやら酒場の中を戦場と勘違いして、ずっと這いずり回って移動し続けたらしく、疲れて気を失うまで何かと戦っていたらしい。
そして、それがとても人がやっていい匍匐速度ではなかったという事で、どれだけの迷惑をかけたのかわからないけれど、私はあえなくその酒場をまさかの『出禁』になったらしい。……本当に申し訳ございませんでした。
そして以降、このお店の壁には、『エルフにチーズ禁止』と言う張り紙が張り出され続ける事になったそうだ……。
またのお越しをお待ちしております。
祝170話到達!
『10話毎の定期報告!』
皆様、いつも『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ。』を読んでくれてありがとうございます!
今回の報告ですが、もう少しでブックマークは五十人、総合も二百ポイントに届きそうです。
この作品を見つけて読んでくれている方々。本当にありがとうございます。
油断や慢心はせずに、頑張り続けていきたいと思います。
今後も支えて頂けると幸いです。応援よろしく頼みます^^。
ブクマしてくれている四十九人の方々(前回から四人増)!評価してくれている十人の方々!
皆さんのおかげで、この作品の総合評価は194ptに到達しました!ありがとうございます!
──さて、それでは一言のコーナーです!ちゃんと言葉にしていきましょう!
「目指せ書籍化!なおかつ、目指せ先ずは総合500pt(残り306pt)!」
今後も『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ』を、是非ともよろしくお願いします^^!
更新情報等はTwitterで確認できますので、良かったらそちらもご利用ください。
フォロー等は出来る時で構いませんので、気が向いた時にお願いします。
@tetekoko_ns
twitter.com/tetekoko_ns




