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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第168話 淳。




「なんてもの見せるんすかッ!ビックリした!」



 それはこっちのセリフであった。

 彼は頭の中が自分の顔でいっぱいにされて悲鳴をあげたわけだが、私も既にその光景を見せられたのである。

 君はまだ自分の姿だから良いだろう。

 だが、私は完全に被害者だ。文句を言われても困る。


 それに彼はきっと私がその光景を魔法道具に焼き付けたと思っているだろう。

 だが、それはとんでもない勘違いだ。



 なので私は、彼にこれは彼女が魔法道具に焼き付けたものだと教えてあげる事にした。

 つまりこれらは全部彼女から見た君の姿なのである。



 ほぼ裸体で生々しいのも含めて、彼女から君はああいう風に視られているという事を理解すれば、彼女が君を捨てたり嫌ったりするという心配は無くなるだろう。どっちかと言うとその真逆だと直ぐに分かる。


 少し遠回しに『彼女は君の事が大好きらしいな』と伝えると、彼は顔をカーッと真っ赤に染めた。

 だが、そう言う表情は彼女といる時にしてあげるといい。……私はもうお腹いっぱいです。全く、変な痴話げんかに巻き込まれたものだ。



「あれ、ここって……あっ、まだやってた……ううーん……」



 私と彼で話をしていると、途中で傍からそんな声が聞こえた気がした。

 ようやく彼女の方も起きたのかと思って彼と二人でそっちに視線を向けると、彼女は瞼を閉じて『くーくー』と先ほどまでは立てていなかった可愛らしい寝息をし始める。……どうやらまだ寝ているらしい。



 だが、『あれ、ここって……』とか『あっ、まだやってた……』と言う声がはっきり聞こえた気がしたのだけれど、それらもどうやら寝言だったらしい。



「──んなわけないでしょっ!そんなはっきりした寝言を言うやつはいないっ!ほらっ起きたんだろっ!ちょっと来いよ。……すこし、話したい事があるんだ」


「……う、うん。……あの、その、ごめんね」


「いや、いいって。謝んなよ。逆に俺の方こそ、今までごめん──」



 彼女の寝たふりに直ぐに気付いた彼は、彼女を引き摺って私から少し距離をとった。

 何やらこれから二人だけの秘密のお話があるらしい。……なんか、あの二人の周りにだけ急に甘い空間が広がっている気がした。



 私達が居るこの訓練室内には、他にも訓練に励んでいる大勢の冒険者達が居るわけなのだが、そんな仲睦まじい二人を祝福してか、至る所から『ちっ』と言う音や、『女連れて来てんじゃねえ』と言ったやっかむ罵声が聞こえてくる。……若干だが室内の雰囲気もギスギスしてきた。



 あの二人には聴こえていないみたいだけれど……ま、まあ、あの調子で行けば仲直りできるだろう。

 無関係な私はこれ以上ここにいる理由もないので、さっさと立ち去る事にする。末永くお幸せに。




 ──そう言えば、エアがまだやって来ないが、今はどこら辺にいるのだろうか。

 もう着いていてもおかしくないと思うのだが……。

 そう思った私は、魔力の探知で街中や戻って来るまでの道中を探し始める。



 すると、エアは此処に来るまでの道中のだいたい中間地点辺りにいた。

 思ってた以上に来るのに時間がかかっているようだが、どうしたのだろうか。

 何か問題でもあったのかと思ったが、エアの状態と正確な位置を把握すると、その答えは直ぐに解ける。


 どうやら一人になったエアは秘密に訓練の真っ最中だったらしく、だいたい地表から一メートルは下の地面の中を必死に泳いで進んでいたのである。



 『天元』に魔素を通す事でその場に適応し、自由自在に動き回れるようになれるのが鬼人族の特性ではあるが、魔素を通すだけで直ぐにそうなれる訳ではない。

 それぞれの属性や環境毎にコツみたいなものが異なるようだ。


 特に、今回やっている地中を動き回るのは、エア的にはかなり難易度が高いらしく、上手くいっている所を未だ見た事が無かった。

 時間がある時はこうして練習しているのを見かけていたが、今回はちゃんとできているみたいである。


 こうして人知れずちゃんと練習している姿を視てしまうと、胸の奥にググっと来るものがあった。

 ググっとくるのだ。こうググっと。

 『がんばれ』と直接応援したいけどしたくない、そんな複雑な気持ちである。


 エアにとって今は秘密の特訓中であると思うので、邪魔をしないように私はこのままエアが来るのを街中で待つ事にした。



 かなり良いペースで進んでいるから順調に行けば数時間でこの街へと到着すると思う。

 それまではどこかで時間を潰しておこうか。


 地中から出てきたら喉も渇いているだろうし、それまでにエアの好きそうな果物のジュースでも買っておくことにしよう。柑橘系のスッキリしたものとかあればいいと思う。探してみようか。




 ……だが、そうして私がジュースを買いに街中の商店が集まっている場所へと歩き出そうとすると、背後からはどこかで見た事がある二人組が、甘い雰囲気を漂わせながらガシッと私のローブを掴んで笑顔で引き止めて来るのであった。……は、離せっ。甘いのはいらない。今欲しいのはスッキリするやつなのである。




またのお越しをお待ちしております。

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