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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第164話 充溢。



 

「わー。また凄い騒ぎになってるっ」



 私とエアは二人だけで戻って来た。

 あの屋敷の事は後は彼らに任せておけば問題ないと思う。


 なので、ケジメはやはり必要だと思い、私は私に出来る事をしに来た。

 ……まあ、ぶっちゃけいつものやつである。さあ、皆、正直者になーれー。



 ──と言う感じで、沢山の人に魔法に掛けたり、二度と必要ない王宮の地下室を破壊して土に還したり、その際戦利品と称して戦争の火種にでもなりそうな魔法道具を私の独断と偏見で全て回収させて貰ったりした。

 資料や試作品を含めて全部ゲットである。

 ……忘れているかもしれないが、私は決してお人好しではない。

 ちゃんとこういう時に自分の利益を確保しているのだ。



「そんなこと言っても、みんなちゃんとありがとうって言ってたよ?」



 私がそんな言い訳交じりに、好きでもない破壊工作に勤しんでいると、エアがそう言って慰め(?)てくれた。

 優しい子である。私の事を気遣ってくれたのだろう。



 『旦那は優秀過ぎるからな。力の差があり過ぎて、みんな旦那に寄りかかるばかりなんだよ』『エアちゃんが居て本当に良かったねっ!』『あふれ出る癒し成分』『ふふふっ、ほらっみんな、聞こえてますよ。もっと小声で喋らないとっ』



 私が精霊達の方へと顔を向けると、彼らは『まずい、逃げろっ!』と言って今日は帰ってしまった。

 【(ホーム)】の魔法に問題は無いらしい。精霊達も段々と上手く使いこなしている様子だ。

 ……よし、あとで【転移】で追いかけよう。



 ──さて、そうと決まれば早く追いかける為にも、さっさと嫌な事は片づけなければ、と私は気合を入れて処理をし続け、調整を行っていった。



「……ふぅ」



 ……これで一応、危険な考えの持ち主たちは一新できたので、この国はとりあえず大丈夫だろう。

 そう思えるまでの処理と調整は終わった。

 当然、どれだけこの状態のまま、良い状態が続くのかは私にも分からない。

 またすぐに同じような道を辿ってしまうかもしれない。



 ……だが、そうはならない可能性だってちゃんとある。

 今回の事で、今後二度とこの国ではこんな悲しい事は起こらなくなるかもしれない。

 そう思えるのならば、今やった事にもちゃんと意味はあるのだ。

 もちろん、ダメになってしまう時もあるだろう。

 だが、その時はその時だ。


 私はただ、今やりたい事をやっただけだ。その為に力を使っただけの話。



 もちろん、人によっては私の事を見て、何様のつもりだと思う者もいるだろう。

 だが、そんな事を気にして、何も出来なくなるような、悩む年頃はとっくに過ぎた。


 そんな者の言葉など知らぬ。他の誰がどう思おうが構わぬのだ。私は私の道を進むのみ。




「──ロム、家族がいっぱい増えて嬉しいね」



 すると、私と一緒に居たエアが、隣でそんな事を言って来た。

 『家族』や『里』と言う言葉が、私の頭の中にぽつりと浮かぶ。


 それらはいずれも、私にはとうの昔に無くなってしまったものである。

 私はそれを無意識で求めていたと、そう言う事なのだろうか。



「…………」



 エアと出会うまで、私はまた冒険者をしようなどとは考えなかった。

 冒険者として共に過ごし、色々な人と出会い、気づいたらまた様々な関係を築き始めている。

 私は今、そうした関係の中で、また新しい家族を得ようとしていたのだろうか。



 ……わからない。

 そんな事、言われるまで気付きもしなかった。

 こういう時に限って、思考は一気にポンコツになってしまう。


 どうやら私は、表情もどこかへ落としてしまっただけではなく、自分の欲求すらも、いつの間にか自覚できない程希薄になっていたらしい。



 段々と私は変わって行く。

 それは勿論、悪い意味だけではない。良い意味でも変わって行くのだ。



「……エア、ありがとう」



 私は王宮の一番高い場所に腰掛け、街を見下ろしながら、自然とその言葉を発していた。

 エアはそんな私の隣でキョトンとして、首を傾げている。

 その表情は『何に、ありがとうなの?』と言っているのが分かった。

 だが、私も正直な所、そこが分からない。分からなくなってしまった。



 自分の不器用さがこういう時にはとても歯痒く感じる。

 上手く説明できない口下手な部分も、拍車をかけて私の思いを邪魔をしている気がした。



「ロムわたしも、ありがとう」



 だが、私が頭でグダグダと何かを悩みかける前に、エアが答えをくれる。

 その『ありがとう』も何を指してるものなのか、エア本人にも分かっていなさそうであった。

 ……だが、その言葉が隣にいるエアから返って来る、ただそれだけで、私は十分に救われる。



 ──かつて友は言った。

 『お前が世界で最初の一人になるしかない』と。

 その言葉を目標に、支えにして私はこれまでやってこれた。

 ……けれど、彼は一緒に来てはくれなかったのだ。

 子供の時分には、それを何度か寂しいと思った事もあったような気がする。

 もう遠い昔の話だ。今更言ったところで詮無い話。



 だが、孤独は人を壊すと言う。

 私はきっとその時間が人よりも長くて、知らぬ間に沢山壊れてしまっていたのかもしれない。

 ……だが、それが今、癒えて治っていくのを感じた。



 私は一つずつ、何かを取り戻そうとしているらしい。

 無意識だったが、エアがそれに気づかせてくれた。

 私はきっと、この旅でそんな失ったものを取り戻そうとしているのだ。



 私の隣で、笑顔でエアが私の顔を見つめてくる。

 そんなエアに、今度は私が笑顔を返してあげたいと思った。



 だが、笑うとは、どうすればいいのだろうか。忘れてしまった。

 顔に力を入れても頬の筋肉はピクリとも動かず、口角を持ち上げようとしても全然上手くいかない。



「……ん?こうだよっ!」



 すると、全く変化のない私の顔を見て、その微妙な変化に気づいた強者つわものがいた。

 エアは、どうしてか私が笑おうとしているのに気が付いたらしい。

 そして、隣からスッと手を伸ばすと『えいっ』と言う掛け声と共に、私のほっぺを指でぐにっと持ち上げてくれた。……どうだろう。これで笑っている様に見えているのだろうか?



「ふくくくっ、ロム変な顔だよ。やめてっ」



 私のほっぺを押しているエアは、私のその顔がどうやらツボに入ったらしく、凄い笑っている。

 ただ、『やめてっ』と言われても、やっているのはエアなのだから、私にはどうしようもない。

 笑い過ぎて少し苦しそうになりながらも、エアはほっぺから手を放すつもりだけはないようだ。


 仕方がないので、私は【空間魔法】に収納していた宝物の一つである、とある素晴らしい絵を取り出すと、エアにも見える様に私の顔の横に魔法で浮かして並べてみた。



 そして後は、視線でエアに『見本はこれ。これみたいにして欲しい』と言う合図を送る。

 すると、エアは笑いながらもその意図に気づいてくれた様で、絵の中の理想の二人に近付ける為、私の顔を更にグニグニと弄りだした。



「ふふふっ、ロム、眉間に皺寄せちゃ駄目だからねっ?ほら~、こうするとそっくりに~、ん~、いや~、こうかな~?──ふはっ」



 沢山エアのおもちゃにされながらも、何とか絵に似た感じにはなったらしい。

 ……が、私は自分の顔に力が入らず、エアが手を離すと私の表情は直ぐに元へと戻ってしまう。

 エアはその度に『あーーっ』と残念そうな声を上げたが、それはそれで少し楽しそうで、何度も試しては笑っていた。



 ……どうやら絵の様な理想の二人にはまだまだ遠いらしい。

 けれど、そのおかげでまた新たな発見と大事な想いに、私は気づく事が出来た。


 ──それだけで、今日はとても満足なのである。




またのお越しをお待ちしております。

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