第163話 礎。
エア達に呼ばれ、私と老執事が皆のいる場所へと戻ると、これから屋敷の部屋割りが始まる所であった。もう遅い時間なので手早く済ませよう。
と言う事で、新しく来た魔法道具職人達とその家族には、それぞれの一人に付き一部屋と家族の団欒用で少し大きめの憩い部屋、それから魔法道具の作成や好きな事に使える大部屋を各家庭にそれぞれ一セットずつ割り振って行った。
……おっと、鍵はこれだ。これは指輪型の部屋の鍵となっているので、皆好きな指にはめておいて欲しい。扉にかざすだけで入室できるようになっている。もし失くしたら直ぐに言って貰えれば新しく作りなおして渡すので覚えておいて欲しい。
因みにこれは、魔力を通すと細かな入室者制限の設定等も出来るので、それぞれ後で部屋に行ったら好きな様に設定変更しておくと良いだろう。
「……えっ?」
部屋の割り当てを聞いた彼らは、『こんなに部屋を使わせて貰っていいのですかっ!?』と彼らは驚いていたが、もちろんである。
もし足りなくなったら言って貰えればまだまだ【空間拡張】で増やす事だって可能なのだ。
現状、家具等も最低限の物しか備えてないので、不便があれば言って欲しい。
「これはすごい……」
魔法店のお父さんは『凄い所に来てしまったな……』と言っていたが、少女とお母さんの方は他のお母さん方と集まって既に順応し始めている。固まったままなのはおじさん方だけだ。……大丈夫。ここでゆっくりと過ごしてじっくりと慣れていけばいい。出来る事は私がフォローしよう。
現状全員で四十人はいないだろうが、それでもそこそこの人数となってこの屋敷もだいぶ賑わいが出てきた。
一応この人数でも皆が一緒に過ごせるようにと、更に大きな部屋も幾つか作っておいたので、適した部屋へと行けばこのまま全員で食事もとれるようになっている。
当然、もし彼らがお客さんを呼びたくなった時でも対応できるように、今の人数の十倍以上になっても入る事が出来る部屋を既に【拡張】済みなのであった。
ちょっとしたパーティは出来るし、ダンスも踊ろうと思えば全員で踊れるだろう。
もちろん、その時の皆さんのドレスは是非とも私にお任せあれ。キラーン(頼れる光を放つモノクル)。
──そんな翌日。全員で朝食をとる事に。
この屋敷は普通の外観をしているため、中にこれほど大きい部屋があるとは想像できていなかったおじさん方は、朝のこの食事の時間になってもまだ固まったままであった。……どうやらこの屋敷に仕掛けられた魔法を見て、魔法道具職人の観点から見て信じられない部分が幾つかあったらしく、昨夜はよく眠れなかったらしい。
『なんで、こんなに拡張できるんだ……信じられない』と言う言葉が未だ聞こえてくるようだが、ここは君達の家になるのでどうかじっくりと調べて慣れて欲しい。
一方お母さん方はもっと現実的で、最初こそ同じように不思議そうにしていたが、使える物は使えば良いじゃないと今ではみんな揃って楽しそう道具を活用しながらお食事を作って貰っている。
老執事と新米お嬢様女中は、皆を各テーブルまで華麗に案内してくれていた。
そして、いざ食事が始まると『テーブルマナーが分かんない』と言うおじさん方に、ここは貴族の屋敷と言うわけではないからマナーなど気にせず自分たちの好きな様に食べて欲しいと私は告げた。
ここに居る私とエアはただの冒険者。エルフの青年達は現在は冒険者兼剣闘士。
老執事とお嬢様は、この屋敷のバトラーさんとハウスキーパーさん。
そして、そこに新たな魔法道具職人の五世帯が加わった。
畏まる必要なんかないのだ。
ここでのルールを設けるとしても簡単である。
自由に過ごす事と、困ったときは互いに少しずつ協力し助け合う事。
それだけぐらいだ。
普段、執事と女中さんをしてもらっている二人も、常に屋敷の事を気に掛けてばかりではない。
ちゃんと最近では街中をブラブラと散歩して自由を満喫していると昨日教えて貰った。
だから、好きに生きて欲しい。
ここはその為の場所である。
私のその言葉に、なんとなく納得できたのか、おじさん達は未だぎこちなくはあるけれど微笑みを浮かべてくれた。
急な生活の変化に戸惑わない訳がない。
だが、ゆっくりと慣れて、そして幸せに欲しい。
君達がもし目的が欲しいと言うのなら、現状エルフの青年達が彼らの故郷の里を救う為に剣闘士として戦闘技能を鍛えるべく日々頑張っているので、それを皆で支えてあげて欲しい。
天才魔法道具職人である彼らがサポートをしてくれれば、これほど心強い事もないだろう。
青年達の装備品等も相談に乗って貰えると助かる。
「……わかりました。精一杯がんば……いや、ここで楽しく過ごさせて貰おうと思います」
「ああ。そうして貰うと私も嬉しい」
その後おじさん方は、エルフの青年達の境遇を知ると、その為に真剣に話し合いをし始めた。さっそく何か魔法道具を作ってくれる気になっているらしい。
『やっと誰かを笑顔にするための道具作りができる』と、真剣に話し合う彼らは嬉しそうに笑ってもいた。
そうして、皆を幸せにしながら、彼ら自身も幸せになっていって欲しいと、私は密かにそう思った。
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