第160話 努。
私達は涼しい地方の大陸へと上陸して直ぐに、その国の王都へと潜入した。
別に潜入せずとも普通に門から入っても良かったのだが、潜入して欲しそうな雰囲気を、私はエアから感じ取ったのである。
と言うのも、私の昔話でよくこういう権力者達との争いに発展した場合、かなりの高確率で夜の戦いになってばかりであった。
そして、夜の戦いとは基本的に暗殺者の様な立ち回りが要求されるし、向こうも私が夜寝込んでいる時間帯に襲って来る事が多かった為、よく窓から出入りしたり、家々の屋根伝いに走って逃げたり、影に潜み泥に塗れる……みたいな、エアが好きそうな展開の話にいつもなったのである。
だから、今回もエアがそれを期待して見ているのならば、そりゃ期待に応えるしかないじゃないかと思ったわけで、高い城壁も門も何もかも『伸身の八回転半の宙返り』で飛び越えると闇夜の中で『スタッ』と無音の着地を決め続けた。
そして、私の背後でそれを見ていたエアは『おおおおーーー!』と言いながら毎回笑顔で拍手して喜んでくれるのである。……え?救出に来たんだからもっと真面目にやった方がいいのではと?いや、実はもう目的の人物の位置も状態も全て把握済みなので、他にやる事が無かったのだ。
王都に来るまでにそこそこの時間があったので、魔力の探知によって既にこの町の隅々まで探せる所は全て探し終わっていた。
それによると、目的の人物であるあの魔法店の少女のお父さんは王宮の地下に作られた特殊な空間で、同じような境遇の者達と一緒に魔法道具作りを強制させられているようだ。
ただ、差し当たって直ぐに命の危険があると言う事ではなく、お父さんたちは完全に監禁されていて逃げ出せないから、どうにかして助けて欲しいと言う状態であった。
今はまだ若干夜も浅い時間帯なので、日付が変わる時間くらいまではこのままブラブラして街中を見て回ろうと、エアと相談して決めたのである。
ただ、王都とは言え大体この時間帯で開いているお店と言えば酒場ぐらいなものであり、それ以外だと私とエアには全く関係ない大人なお店しか開いていなかったので、私達の足は自然と酒場の方へと向いた。
昔は情報収集の一環として酒場にくる事もよくあった為、私はこういう場での作法の様な物をそこそこは心得えている。
なので、今回はエアにそれを経験させつつ、時間になるまではお腹いっぱいご飯を食べて英気を養っていようと言う作戦なのだ。
もちろん、時間になったら凄腕の暗殺者の様に、二人でサッと行ってパッと救ってザッと帰る、と言う完璧な計画も遂行予定である。
「うへへへ~ろむ~~ふわふわ~~きもちい~~」
だがしかし、ここで一つ、さっそく予想外の事態が起きてしまった。
『ロムッ!お酒は飲んじゃダメだからね!』と言って、お店に入る前は散々私に注意していた筈のエアが、いつの間にかこの場に漂う酒の匂いだけで酔ってしまったようで、もうフラフラになってしまったのである。……一応言うが、本当に私達は普通に食事をしていただけ、今回はお酒入りの料理とかは無かった。
少し懐かしくもあるが、私の背中でジタバタと泳ぎだすエアの姿を見て、この街の酒場に居た大人達は皆『ガハハハハッ!』と笑っており、『エルフのにーちゃん大変だなー!がんばれよー!』と皆周りで私がエアのお守で四苦八苦している様を見て、珍しいものが見れたと大喜びであった。
……まあ、私もこういう場の雰囲気が嫌いではない。
それに、私にとってエアが背中で暴れる位は慣れたものだし、微笑ましく思うだけなので何も大変な事は無いのである。
──さて、そうこうしている内に時間にはなったわけなのだが、散々泳いで疲れたエアは私の背中で熟睡中であった。
浄化をかけたり起こしたりは出来るが……折角気持ち良さそうに寝ているので、このままにしておこうと私は思う。
私にとっては彼らを救う事よりも、エアの健康的な睡眠を守る事の方が正直大事なので、そこは勘弁して貰いたい。その分、私が全力で事に当たろうと思う。
──という事で、私はエアを背負いながら夜の王都の屋根屋根を走り回り、王宮にもサッと侵入し、隠し扉などは蹴り開いて行った。
当然、それらの隠し扉には警報的な役割を持つ魔法が施されていたのだが……正直言って、まだまだ甘く。そんなものでは私の足止めすらならなかった。
そうして、ほぼほぼを警報関係を無視して移動していくと、私は魔力探知を阻む壁で囲まれた一角へと辿り着いた。
魔力探知を阻んでいるとは言っても、これまた私には効果がないので、するすると侵入していき、私達はこんな時間になっても未だ朝からずっと作業に励み続けていたのであろうお父さん達の姿を確認する。皆少しやつれている様に見えた。
一応、監視役として数人の兵士と魔法使いなども居たが、それらは私が入ると同時に心地良い夢の中に入って貰う。明日の朝まではぐっすりと眠れるだろう。
「……あ、あんた、いったいどこから」
いきなり現れた見知らぬ私に、お父さん方は手を作業の止めて、凝視してきた。そこまで後ずさらなくても、私は別に不審者ではないので安心して欲しい。
ただ、まだここには色々とまだまだ仕掛けが多いので、先にそれらを一度に不能へと陥れてから、私は一言だけ呟いた。……長居はするつもりはないので、詳しい話は後にしてもらおう。
「『羅針石』は見たぞ」
「ッ!?」
私のその言葉だけで、彼らならば全てを察してくれるだろうと思って発言した。
……だが、その言葉は予想よりも効きすぎてしまったらしく、そこに居た五人程の研究者達は、皆顔をクシャクシャにして泣いて喜びの声を上げた。
いずれも魔法道具に関して言えば並々ならぬ腕を持つ職人ばかりなのであろう。
だが、そのせいで腕を見込まれてしまったが故に、自衛も適わず連れ去られて働かされ続けて来た彼らの心を思うと、その悲しみと怒りは私などには想像もつかない程に大きなものであったと思う。
……だが、それも今日までなのだと、彼らは本当に喜んでいた。
自分たちの頑張りが実を結んだのだと、実は上手くいくかずっと不安で、もう諦めかけてすらいたのだと。
来てくれてありがとう。本当にありがとうと彼らは喜んだ。
お父さんたち、いやおじさん達は今だけはみっともなくとも蹲り、出せるだけの大声を張り上げて子供の様に涙を零した。
心の底から救いを求めて、それが叶った事で皆安心もしたのだろう。
まだ、ここから完全に逃げられたわけでもないのに、皆そのまま喜び続けて沢山叫んで……終いには全員気絶して寝たしまった。
「……えっ」
『何故ッ!?』と一瞬だけ、それを見ていた私は焦った。
おじさん達があまりにも一斉に気を失った事で、私は何かの魔法のトラップでも発動したのかと思ってしまったのである。
……だがまあ、結局はただ心身ともに疲れて満身創痍な為に眠りについただけだと知り、『はぁぁぁ』と深いため息が出てしまった。……驚かさないで欲しい。
でも、何事も無くて一安心だった。
彼らがそんな風になってしまう気持ちも察せたので、私はそんなおじさん達を魔法で浮かしながら背後に並べると、エアを背負ったまま王宮からすたこらと脱出するのであった……。
またのお越しをお待ちしております。
祝160話到達!
『10話毎の定期報告!』
皆様、いつも『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ』を読んでくれてありがとうございます。
右肩上がりで少しずつ成長していっている今作品。大切にしていきたいです。
書籍化目指して油断せずに頑張っていきますので、今後もどうぞよろしくお願いします。
感想ありがとうございます!凄く嬉しい><誤字報告も助かります。
ブクマしてくれている45人の方々(前回から五人増)!評価してくれている10人の方々!
おかげで、本作品の総合評価は186ptに到達しました!ありがとうございます^^引き続き応援頼みます。
──では、例のコーナーのお時間です!一言、失礼いたします!
「目指せ!書籍化ッ!なおかつ、目指せ!先ずは500pt(残り314pt)ッ!」
今後も『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ』を、何卒よろしくお願いします。
更新情報等はTwitterで確認できますので、良かったらそちらもご利用ください。
フォロー等は出来る時で構いませんので、気が向いた時にお願いします。
@tetekoko_ns
twitter.com/tetekoko_ns




