第157話 戒。
私達は海に漂っていた。
とは言っても、ちゃんと次の大陸に向かってのんびりとだが着実に進んでいる。
私が次の大陸迄の方角を示し、エアは『青エア』に変わって自分の周囲の流れをなんかいい感じで操ってくれているらしい。
天候は雲一つない気持ちの良い晴れ模様で、風も波もとても穏やかであった。
私達はこれが二度目の大陸渡りと言う事で、もうすっかりと慣れたものである。
いつも通りと言わんばかりにエアは波にコロンと身を預けて寝転がり、私はそんなエアの傍で魔法を使って空に寝っ転がっていた。因みに、『保湿ポーション』と『日焼け止めポーション』は服用済みである。
暫くはのんびりとして、魚が襲ってきたらそれを確保し、珍しいものがあればそれを採取、適度に素材が揃ったらポーション作りなどを熟していった。
ただ、そんな事をして居ると私の魔力探知内に一つ大きな物体が入ってくる。
それに、珍しくもどうやらそれは海上にある物体だった。
私はその大きさと、形、それからその内部にいる人の姿を感じ取り、あれが船である事を悟る。
恐らく向こうは大陸間の交易船であろう。
私達が海に出た時には近くに街が無かった為分からなかったが、どうやらここらへんは交易船が通るルートの傍だったらしい。進路は若干だが私達の方へと向かっている様にも見えた。
だがまあ、中の様子を視るに、私達に用があってこちらへと進路をとっていると言う感じでもなく、あちらはあちらで大陸に向かっているのだが、たまたま進路が少しずれて私達の方へと向かっていると言うだけらしい。
まだエアの探知範囲の外にいる者達なので、水平線の先にもその姿は肉眼では見えない位に遠い。
いずれはそのまま何処かへと行ってしまうだろう。
航海は危険が付き物だし、私達から何かをしようとも思わないが、彼らも精々頑張って欲しいものだ。
それに今は彼らの事よりも、採取したばかりの海藻をすり潰す作業の方が私にとっては大事だった。
ここを手抜きでやってしまうと性能に差が出る為、確りと丁寧に、魔力を満遍なく浸透させて作り続ける。こうする事で、ちゃんと良いポーションは生まれるのだ。
……まあ、そうして数日はそのまま問題なく過ぎていったのだが、彼らは不思議とその後も私達の方へと進路をとりながらゆっくりと近づいて来ていた。
「……ん?」
そして、遂にはエアの探知範囲内にも入り、エアは波から上体を起こすと首だけクルっとそっちの方へと向けた。
『ふむふむ』とその探知に意識を向けているエアは、暫くしてそれが何なのかわかったのか、二パッと笑うと私の方へと綺麗な笑顔を向けてくる。どうやらエア的には興味津々らしい。
まあ、もう少しすれば自然と水平線の先にも彼らの姿は見えてくるだろう。
そうすれば、向こうもこちらへと気づくだろうし、何らかの反応があるとするならば間違いなく向こうから接触してくる筈である。
エアも興味が引かれるとは言っても、態々彼らの方へと進路を変えたいと言う程ではない様子だ。
もし彼らが面倒そうならば、私達は『土ハウス』を仕舞って一目散に走って逃げれば良いだけだし、そもそも彼らがこちらを発見したら警戒して近付いて来ないと言うのも十分に考えられる。
何かが起きるまでは結局私達のする事は変わらず、このまま進むだけであった。のんびりしよう。
それに、私の予想では水平線の先に姿が見えれば、彼らも警戒し逆に離れていくのではないかと考えている。
大陸間の交易とは本当に大変で、常に命の危険が大きく難しい船旅だと聞く。
当然、その目的を達成する為に、極力危険を避ける様に行動するのが彼らの正道であろう。
天候が大きく荒れれば、船が転覆する可能性があるし、巨大な海中生物に襲われる事もある。
そんな彼らにとって、初めて目にする事になるだろう『海上の土の家』などは、おそらくはそれらに匹敵するほどの危険性を帯びていると見なして、決して近寄ろうとは思わな──
「──おーーーい……おーーーい……おーーーい……おーーーい……おーーーい……」
「ロム、あの船近づいて来たよー!どうするー?」
──近づいて来ちゃダメでしょう!
もう、ダメなのに。もっと危険だと察して警戒しなければいけないのに。なんでだ。
そんな事では大陸間の交易に支障が出ても知りませんからね、私は。
……だがまあ、近付いてくると言う事は何かしらの目的があると言う事でもある。
それがもしも、飲み水の補給目的だったりした場合、私が協力するのも吝かではない。
海上で飲み水が足りなくなるのは、魔法使いがいない場合中々に大変なのである。
そもそもの備えがちゃんとしてないと言うのは大きな問題だが、それ以外の理由でしょうがなく飲み水を消費してしまう場合はあるだろう。
それは当然食糧等においても同様の事が言えるので、それくらいならば余裕をもって多めに私は確保している為、融通位は出来る。ここに来るまでにお魚も沢山捕まえており、全部渡しても問題は無い。
それに、もしかしたら予想外の重病人や怪我人が出てしまい、遠目から私達を魔法使いだと看破した者達が居て、治療の為に尋ねて来たと言う可能性も無くはないだろう。
……仕方がない、その場合も最低限の治療位ならばこちらとしても対応しようじゃないか。
後それ以外に考えられるとしたら、好奇心、だろうか。
……だが、その場合は私達から何かしてあげる事は皆無である。
危険察知の欠如と見なして対応しない。
幾ら今の私が、『誰かに何かをしてあげたくなる欲』が強いとは言っても、それだけは許してはおけない。
自覚が足りないぞと説教してバイバイするだけである。
──さて、はたして彼らは、一体どんな用事があってこちらへと近寄って来るのだろうか。
またのお越しをお待ちしております。




