第150話 情。
私の魔法道具は少女とお母さんに気に入って貰えたらしい。
折角なので、『雷石改六』こと『磊積懐録』を彼女達にも簡単に作成できるように、エアの持っていた『雷石改三』にも細工をして、魔力を通してからぺタコンと『魔法陣スタンプ』をするだけで普通の石を『雷石改六』に変えられる魔法道具も作っておく。
こっちは私と契約をしたものだけにしか制作と使用ができない様にしておいた。
大事な記憶を誰かに持っていかれるのは嫌だろうし、一応これらには盗難防止の機能も確りとつけておく事にする。
後は本人の意思次第でいつでも石に焼き付けた光景を消去できる機能もつけておくと便利だろうか。再利用も可と。
それと、使用者の魔力量に応じてになるが、静止画だけではなく動き付きの光景を数十秒程の動画として記録できるようになるともっと面白いかもしれない。少し調整しておくとしよう。
少女が成人するくらいまでは最低でも使える様にしておきたいから、魔法道具自体の耐久性は十年そこそこにしておく。そこまで高くする必要もないと判断した。
その理由は、彼女たちがこの魔法道具にあまり頼り過ぎない様にもしたかった。
もしこの魔法道具が良いと思えたのであれば、いずれは少女が自分でこれを作れる様になって欲しいと言う想いもある。
だが、一応成人前に壊れてしまう可能性もあるので、予備は幾つか渡しておき、あとは緊急時の対処マニュアルとして『困ったときはこれを見て欲しい』と言いつつ私の記憶の一部を焼きつけておいた。
何者かから目をつけられたり予期せぬ不具合に巻き込まれたりもしない様に、商業ギルドの方へも確りと話を通しておこう。
いざとなればギルドには彼女達を守ってもらう作戦である。今ならば例のポーションの件もあるし大体の頼みは聞いてくれるだろうと言うそんな下心もあった。
……私は全ての面倒を見る程お人好しでは無いので、これ以上の手伝いをするつもりはない。
厳しいと思うが、この先は彼女達自身に任せることにしよう。
いや、一つ失念していた。ギルド側へと最初に話を通すのは私でなければいけない、そこだけは私がやらせて貰おう。
何故なら、私が彼女達と契約をしてしまうと、『情報を漏らしてはいけない』と言うその契約によって、彼女達はギルドに行って助けを求める際に、私達の事を引き合いに出したり、この魔法道具関係の話をすることが出来なくなってしまうからである。
彼女達がいきなり新型の魔法道具を持ってギルドに商品を売り込んだとしても『こんなものをどこで手に入れたんだ?』と聞かれた時に説明できず、どこからか盗んだのではと怪しまれて困ったりするのは嫌だろう。
今の商業ギルドならば、事前に話を通しておくだけで上手くやってくれると思う。
あのポニテのギルドマスターをはじめ、幾人かが既に私達の事を知っており、彼女から情報を漏らす前に漏れている状態だと言えるので、互いに知っている状態ならば普通に彼らとも会話する事が可能になるのである。……地味な裏技だ。
この魔法道具は少なからず他の目にも止まるだろうから、後で余所から言い掛かりを掛けられない様にしておく為にも、ギルドを味方につけておくのは最低限度必要なケアだと私は思った。
「──あっ、あの。なんでそこまでしてくれるんですか?」
すると、私がそんな話をしていたら、店主であるお母さんが不思議そうな顔をして尋ねて来た。
まあ、確かに、無関係な私達がいきなりしゃしゃり出てきて色々と口を出せば、言われる方である彼女側としたら面白くはないだろう。その気持ちは分かる。
「えっ!?あっいや、そう言う事ではなくっ!!」
だが、これは身を守る上でも、最低限度必要な事なのでどうにか了承して欲しい。
それに正直な話、本当にこれはただの私達の気紛れなのだ。
だから、実際はこれも好きにするとよい。要らないと思えば、その魔法道具はいつでも好きな時に破壊し捨てて貰っても構わないのである。
私とエアは今回色々とお店を見て回れて面白かった。
そして特に、今日見てきた中では、一番この店の『雷石改』が印象的だったのである。
一見してただの石にしか見えない上に、大した効力も無く、一切魔力の通っていない『雷石改』にフレーバリングだけの意味を持たせて、インテリアアイテムとして売り出す。
それは私にとってかなり斬新で、参考にするべきアイデアアイテムだと思ったのである。
それに、親子そろって耳長族好きという事みたいだし、少し贔屓したくもなったのだ。
……まあ、理由として挙げるのであれば、そんなところだろうか。
だからもしも、君達が感謝したいと言うのであれば、他のエルフがこの店に訪れた時にでも少しだけ良くしてもらえれば、それだけで私としては気分が良い。
そして、君達に良くして貰ったそのエルフが、また他の誰かに何か良くしてあげたいと思うようになるかもしれない。そう思うだけで私は更に少し気分が良くなる。……それだけで十分なのだ。
私達は色々な所で繋がっている。
普段無関係だと思える様な人達とも、知らず知らずのうちにどこかしらできっと関わっているのだ。
だから、君達は余計な事は気にせず、いいお店にすることだけを考えて欲しい。それが誰かの為になる事がある。
そして、少女は良い魔法道具職人になって欲しいと思う。
「わかりました。ありがとうございます!」
「がんばってなります」
とそう言って彼女達は私達に向かって深く頭を下げて感謝してきた。……いや、本当に大したことをしたわけではないので、気にしないでいい。
ゴホン。さて、それでは私達はそろそろお暇する事にしようか。行こうかエア。
「うんっ」
エアは店を出る時になると、私にガシッと抱き付いて嬉しそうに微笑んだ。……おやおや?随分とご機嫌のようである。
少女とお母さんにはちゃんと忘れずに契約をしておき、別れの挨拶もして、私達はそのままお店を出た。
そうして街中を歩きつつ、まだ見ていないお店がある方へと私達は向かい始める。
ただ、店を出た後も暫くエアは、何故か私の事をニマニマと嬉しそうに見つめてくる……はて?私の顔に何かついているのかな。
『いやいや旦那。相変わらずお人好しに、エアちゃんは喜んでるだけですってもー』『もー!』『もー』『見ていて心地良く温かい気持ちになれました。……え?わたしも言うんですか?……"もー"』
……はてさて、何のことだかわからないけれど、君達もご機嫌そうでなによりである。
そんな精霊達との和やかなやり取りに、心の中で私はほっこりとした。
だがそう言えば、折角お店で買ったのに持っていた『雷石改』を使ってしまった事だけは今更ながらに少し失敗したと思った。
あんな面白い物はちゃんと記念として確保しておくべきだったと残念にも思う。
……だがまあ、次にまたこのお店に来る為の良い理由になるかもしれない。また買いに来よう。その時の楽しみに取っておこうと思った。
その時には少女の頑張りの成果も見れるだろうか。
その時にはまた新たな発見と出会いが生まれるかもしれない。
そんな色々を想うだけで、心は少し湧き立ってくる。
これは、ダンジョンでする宝探しをする時の感覚によく似ていた。
言わば、街中でも出来る小さな冒険なのである。
エアも私と同じで、そんな小さな冒険を最大限に楽しんでいる様に見えた。
人との繋がりの中で生まれるこの宝探しは、いつも何か新たな発見があるのだ。
「また良い出会いがあればいいねっ!」
私はエアのその言葉に頷いた。エアも私と同じ気持ちのようだ。
ここの街は今、沢山のお店が並んでいる。
そこには沢山の人が居て、沢山の商品がある。
そんな一つ一つには、意外と注意深く見る事で、面白い発見が隠されている。
『差異』を見つける。その為にもこういう小さな冒険を繰り返す事は決して無駄にはならない。
何よりも私もエアも凄く楽しんでいる。
それだけで既にこの探索には充分に意味があるのだ。
そんな人との繋がりと新たな発見に喜びを見出しながら、私とエアは共に楽しみ歩いた。
次はいったいどんなお宝が見つかるだろうかと、期待に胸を膨らませながら。
またのお越しをお待ちしております。
祝150話到達!
『10話毎の定期報告!』
皆様、いつも『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ』を読んでくれてありがとうございます。
今回でなんと五十万文字を突破致しました!皆、いつもお付き合い頂きありがとう!
『二か月と十日』という期間で今回は書けましたが、この次、百万文字到達!という時には今回を越える成果をもって報告できるように頑張っていきます!
因みに、今の所はまだ、何かの賞を得たとか、ランキングに入ったとか、そんな素晴らしい報告はありません。してみたいですね。
……はい。とりあえず今回の報告は以上となりますw
まだまだ油断せずに突き進んで参りますので、良かったら今後もお付き合いください!長いお付き合いになれれば良いな^^。
ブクマしてくれている四十人の方々(前回から二人増)!評価してくれている十人の方々(前回から一人増)!
皆さん、いつもありがとうございます!!誤字報告も助かります><すみませんー!
おかげで、本作品の総合評価は176ptに到達しました!ありがとうッ!引き続き、応援頼みます^^!
──さてさて、例のコーナーのお時間になりました。それでは一言、失礼いたします。
「目指せ!書籍化ッ!なおかつ、目指せ!先ずは500pt(残り324pt)ッ!」
今後も『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ』を、何卒よろしくお願い申し上げます。
更新情報等はTwitterで確認できますので、良かったらそちらもご利用ください。
フォロー等は出来る時で構いませんので、気が向いた時にお願いします。
@tetekoko_ns
twitter.com/tetekoko_ns




