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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第15話 浄化。

2022・11・18、本文微修正。



 彼女に他に気になる魔法があるのか聞くと首を横に振ったので、私は【浄化魔法】について改めて利点を彼女へと語りだす事にした。……好きになってくれとまでは言わないが、せめて興味を持って貰えたらと思う。



 なのでまず、浄化自体は毎朝朝食の時に私が使っているので、彼女自体も馴染み深い魔法である事を思い出してもらう事から話してみた……。



「あの、すーってするやつ?」


「そうそう。それだ」



 ただ、これまでその『効果』まではちゃんと説明してこなかったので、今回はしっかりとその説明しておこうと思うのである。



 ごほん。まず浄化の効果一つ目としては、『汚れを落とせる』。これは服や家の気になる染み、やろうやろうとは思っていてもついつい忘れがちになってしまう台所の油汚れ、水回りの角等に気が付かないうちに出来がちの厄介なカビ汚れ、排出を殆どしない鬼人族にはあまりピンと来ないかもしれないけれど、毎日の小まめな点検と清掃が大事な便所。



 これら全てが、なんと今なら、この魔法一つを覚えるだけでその問題が全部全部解決しちゃうんです。



 子供の頃の思い出のご洋服や、何度も何度も穿いているうちに変色してしまったお気にの下着やズボン、ありませんか?そういうのも全部含めて【浄化魔法】を覚えていれば、これたっった一つで、その悩みもあっという間に解決しちゃいます。


 頑固な汚れ?いくら石鹸を使っても落ちない汚れがある?お任せください。この魔法一つあればそんな全てに頭を痛めていたのも今日でさよならッ!これほど使い勝手の良い魔法を、私は他に知りません!


 そんな素晴らしい【浄化魔法】がなんと今なら、短期間で習得しやすくなっております。

 え?ほんとは難易度が高いから長期間かかるんじゃないのかって?


 ……ご安心ください。長年の研究の成果により、この魔法、今なら特別方法にて、かなりの短期間にて習得する事が出来るようになっているのです。



 ──今までなら、だいたい988(きゅーぱっぱ)()かかっていたところを……今ならなんとっ驚きの128(いちにっぱ)()!、128(いちにっぱ)()!で習得が可能です。この機会に是非とも奮ってご応募ください。



 ……なお、商品のご返品は受け付けておりませんので、予めご了承ください。



「…………ぽけーー」



 ……おや?おかしい。彼女の反応が何故だかよろしくない。口を半開きにしたまま、何かおかしなものを見たかのように私の顔を見つめている。なにか変な所でもあっただろうか?


 でもこれは口下手な私の為、かつて友が教えてくれた教訓の一つであり、『誰かに何かを勧めたい時はこう話せばいいマニュアル』に沿って、話をしてみただけだったのだが……。



 うむー。やはり口下手な私ではまだ友の様に上手くはいかないのかもしれない。

 まあ、しょうがない。気を取り直して続きを話すことにしようか。これはまたいずれ練習して次に活かせばいいのだ。


 『浄化の効果』は他にもあるので、他にも色々と説明しなければいけないのである……。



「ごほん。では次に、浄化の効果の二つ目だが──」


「……あっ。う、うん」



 私がマニュアルから元の説明の仕方に戻すと、彼女が少し残念そうな表情をした気もしたが、おそらくは気のせいだろう。


 さて、浄化の二つ目の効果だが、『消臭』である。これは最初のと少し被っている様に聞こえるが、厳密には異なっているので、詳しく説明させて欲しい。


 まず私たちは毎日少なからず汗を掻く。その汗の臭いや体臭なんかは個人差があり、私と彼女は当然別々の臭いを発しているのである。



「におい……」



 ただそんな話の途中で、彼女は何かを呟いたかと思うと……いきなり私から一歩距離をとった。

 そして急に自分の肩回りをスンスンクンクンと嗅ぎだしてはいる。


 ……はて、いったいどうしたのだろう?

 ま、まあ、話はまだ途中だったので、とりあえずは説明を続ける事にした。



「そして野生において鼻の利く動物や虫は、そうした臭いから獲物を察知し、追跡し、襲い掛かってくる。なので浄化で消臭しておくことにより、そうしたいきなりの襲撃を避ける事が出来るのだ。冒険者で水浴びが嫌いな奴は、臭いので良く襲われ易いと言うのが常識になっているな。……おっと、虫か」


「くさいと、虫が……」



 話の途中で蝿の様な小虫が彼女の近くを飛んでいたのでそれを払うと、何故か彼女はショックを受けた様な表情になり、またもや私から一歩よろめく様に距離を取った。


 気温もそこそこ高くむし暑いので、もしかしたら彼女はまた少し体調が悪いのかもしれない……。

 またも無理をさせているだろうか?ならば、ここからの一気に説明をしてしまおう。



「逆にそうした臭いにおいを利用して鼻の利く相手を攻撃すると言う野生生物もいるが、そうした相手は近付く事すら困難なので、浄化の消臭がないとかなり大変だったりもする。臭いだけで相手を昏倒させたり最悪は死に至らしめたりするのだから、臭いと言うのは絶対に油断できないのだ。……あ、そうそう。そう言えば、鬼人族は『天元』で肉体強化している訳なのだが、その分新陳代謝も激しいので、汗を掻きやすい種族だとは聞いた事がある。だから特に今は暑い季節なので──」



「──もうじょうか覚えるっ!じょうかが良いっ!じょうかにするッ!!!」




 すると突然、今度は説明の途中でいきなり彼女が目元を潤ませながらそう叫んできたのだった。

 ……やはり体調を崩しかけていたのだろう。危ない危ない。また小さな変化を見逃すところだ。



 ならば、早めに浄化の話は終えて、さっさと家に帰る事にしよう。

 私もだいぶ幼子への配慮と対処力が上がってきたといえるが……。

 これで慢心せず、もう少しだけ早めに気づける様にもなっていけたらと思う。



「…………」



 がしかし、後年、私はこの時の事を何度か彼女から『デリカシーがない!デリカシーがない!』と責められることになるのであった。


 ……解せぬ。



今回のは書いてて凄く楽しかったです^^。



またのお越しをお待ちしております。

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