第148話 磊落。
王や貴族がごっそりと刷新される事になったこの国。
貴族街区と平民街区と言うその区分けも無くなり、普通に平民でも貴族街区の方に行けるようになった。
未だ魔法に関する書物などの価格が高いのは変わらないものの、それも段々と落ち着いていくだろう。
平民からの魔法使いが今後はもっと増えてくれるんじゃないだろうかと私は期待している。
私とエアは実は魔法関連のお店にはよくいくので、この街のお店にも興味があった。
毎回大体は冷やかしになってしまうのだが、街を歩くときは必ずチェックしていると言っていい程に、魔法店に行くのが私もエアも好きなのだ。
魔法店は、当たりもあればハズレもあるので、とても面白い場所だと私は思っている。
言ってみれば、まるで宝箱のよう……少し言い過ぎかな。
因みに、当たりと言うのは、ちゃんと掘り出し物の素材だったり、珍しいアイテムがあるお店の事で。
ハズレと言うのは、殆どがもう使えないアイテムだったり、珍しい商品の偽アイテムが並んでいるお店の事である。
ただ、どちらにしても雰囲気が独特で面白いのだ。
基本的に埃っぽく暗い感じの店が多いのは共通で、当たり店には比較的実用的な商品が多く、外れ店には何故か『呪いの~』と言う感じの名称がつく商品が多い。
場所によっては、飲食が可能な場所もあるので、魔法に興味がない者でも通う者が多いとも聞く。
その場合、当たり店は珍味が多く、ハズレ店の場合はゲテモノが多い。
両方とも同じ意味に聞こえるかもしれないが、当たり店はちゃんと美味しく加工してあるのに比べて、ハズレ店だとそのままの状態で出てくる事が多いのだとか。
色々と高価なものも多い為、お店にはセキュリティーとして防犯用の魔法がかかっているのかも、魔法店に行く際にはチェックしておくと良いだろう。
その防犯に使っている魔法の練度によって、その店がどの程度のレベルなのかが一目で分かったりもする。
当たり店の場合は、ちゃんと相手を拘束したり眠らせたり、盗みが起きた時点で大きな音がなったり、上級者になると盗人をそのまま現行犯として兵舎や牢屋へと飛ばしたりもする。
ハズレ店の場合は、それこそ防犯レベルはピンキリだが、そもそも防犯を仕掛けていない場合も多い。
まあ、そんな店に置いてあるもので盗人が盗みたいと思える様な物があるわけも無く、結局はハズレ店の方が平均的には防犯レベルが高いと言う不思議な状況になってもいる。
盗人が来ないだけだと思うかもしれないが、そんな偽物やハズレ商品ばかりの中に、時には掘り出し物があったりもするので、中々馬鹿にできないのであった。
こんな風に、魔法店は当たりでもハズレでも別の意味で楽しむ事が出来るので面白い。
私達が今歩いている元貴族街区は、大体が魔法に携わっているそんなお店ばかりで、色々な魔法店の当りハズレの判別をしながら見て回る事自体が目的になり、商品を見るよりもそちらの方に興味を引かれてしまっている。
私とエアは色々な魔法店をのんびりと楽しく話し合いながら見て回った。
もちろん、お店の中に入って興味が引かれた商品は購入もしている。
今回の私の一押し商品は、『雷石改三』と言う商品で、雷が鳴っている時に、この石を傍に置いておくと、何となく雷に当たらなくなる気がすると言う、そんな気分になれると言うだけのインテリアアイテムである。不思議な商品だ。一体どこで使えば良いのかと考えるだけで少し面白い。……因みに購入したのはハズレ店であった。
魔法的な何かが施されている痕跡なども一切無い為、おそらくは本当にただの石なのだろうが、店の主人の話術が達者だったのと『改三』と言う部分に惹かれて思わず買ってしまったのである。……何を改めたのか分からない。だがそこが面白い。
エアも今回は自分で気に入った商品を買ったらしく、買ったものを見せて貰ったら、どうやら『雷石改五』と言う素晴らしい商品を買っていた。……どうやら、私達は二人してこういう買い物があまり上手くはないらしい。
だが、そんな風に二人で買い合った商品を見せ合って楽しむと言うのも、こういう時の醍醐味だと思う。
エアは私に『改五』をくれたので、それと交換で私は『改三』をエアにあげた。
エアは『やったー!』と一応喜んでいたが、クスススとずっと楽しそうに笑ってもいる。
……気持ちは分かる。改が三から五に変わっていても、何が違うのかさっぱりわからないのだ。
後はまあ、お店を見ていて気になったのは、やはり『魔法道具』の類だろうか。
水がずっと出てくる大鍋とか、好きな時に火種を作れる小鉢とかが一般的に有用かつ人気のもので、種類は他にも色々とある。
私達は魔法使いなのでそんなものを使わずにも済むのだが、魔法を使いたくない状況とかがあるかもしれないので、一応確保しておいた。
──そう言えばと、私はエアに魔法道具の作り方は教えた事が無かったと思い、手に取った魔法道具を実際手に取りながら簡単に説明していった。
「へーーっ!おもしろいねーっ!」
実際に売っている商品を見るだけではなく、その作り方も一緒に覚えると色々と面白さも増すだろうと思い説明してみたのだが、エアはとても喜んでくれた。
──だが、その時である。
突然、私は後ろからガシッと腰に何かが抱き付いて来たのを感じた。
最初は『エアかな?』と私は思ったのだが、よく見るとそのエアは私の隣で腰に抱き付いている何かの方をギョッとした顔で見ているのだ。
私はその腰に抱き付く何かの正体を窺う為、上体を捻って見つめると、そこには子供の頭が見えた。
その子供は私が見ている事に気付いたのかゆっくりと顔を上げると、私と視線を合わせて開口一番にこう言って来た。
──『お父さん!お帰りッ!』と。
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