第146話 召。
「ああああっ!その子!やっぱり連れて帰って来てる!どこに隠してたのッ!!」
試しに【召喚魔法】を使ったら出来てしまった。
そして、その出来てしまった【召喚魔法】によって、今私の頭の上に白い兎さんが召喚で来てくれた瞬間をエアに見られてしまう。……違うのである。連れて帰ったわけじゃないのだ。
そこで私は新しく【召喚魔法】の練習をしていた事と、それによって兎さんがここに居る事を説明した。
「召喚かー」
魔法に関する話になると、エアは落ち着いたらしく、興味深そうに私の話を聞いている。
基本的にこの魔法は、【空間魔法】の一部を使うだけなので、【転移】よりは簡単に扱う事ができた。
個人的には、持続型の双方向転移(現状は精霊のみ可)である【家】よりは【転移魔法】の方が簡単で、それよりも更に簡単なのが【召喚魔法】であると言うのが、私の個人的な感覚である。
兎さんは現在私の頭の上でお野菜スティックをボリボリと齧っていた。その身体は少し魔力で包まれており光っているようにも見える。
召喚の効果なのかは分からないが、呼び出す側の魔力次第で、ある程度まで相手を強化できるらしい。厳しい野生の生存競争をこれでどうにか生き残ってくれたらと思った。……そして、時々呼ぶので、その時はよろしく頼む。
──コクンコクン。
白い兎さんは私の言葉が分かったのか、頭の上で何度も頷いている。きっと伝わったはずだ。お野菜スティックに夢中になってカジカジしている振動だけではないと信じたい。
精霊達はお野菜スティックを美味しそうに食べてくれる兎さんを見て、嬉しそうに傍で兎さんを見つめている。
だが、エアと火の精霊だけは、何故か最初からあまり白い兎さんに近寄ろうとしてこない。あまり兎さんの第一印象がよくないのだろうか。相性という部分もある。
もしかしたら二人が白い兎さんを苦手としている可能性もあるので、私は『今日は来てくれてありがとう』と告げてから、白い兎さんを元いた場所へと帰してあげた。
その帰す時の感覚から、どうやらこの魔法は自分と仲の良い動物しか呼ぶ出す事が出来ない事を察する。
呼ばれる側の都合の良い時じゃないと、ちゃんと来てはくれないと言う感覚もあるので、色々と制約が難しい魔法であると感じた。
「ずるい」『ずるい』
兎さんを帰すと、エアと火の精霊が二人で私へと詰め寄って来た。……おやおや、二人ともどうしたのだ。
そして、どうやら話を聞くと、『新参者の野生生物に、ロム(旦那)の頭の上はまだ早すぎる』と言う、そんな謎の理論を告げられた私である。
「そ、そうか……」
まさか私との触れ合いが、身体の部位によって階級制度があるなんて知らなかった。
いや、乗れるか乗れないかはこの際置いておくとして、『乗りたいのなら二人も乗ると良い』と私が告げると、二人は揃って悔しそうな顔をする。
「ロムの首が可哀想だもん」『綿毛時のサイズになれれば……』
なにやら二人とも自分の身体の大きさで断念しているらしい。
頭に乗ったら私の首が痛くなってしまうからと、断念している。優しい。
そもそも、頭の上なんて良く動く場所なのだから、あまり乗り心地も良くないだろうとは思う。
……けど、そうは知っていても二人にとっては何やら特別に感じるポディションではあるのだとか。
火の精霊は綿毛だったの時の自分の居場所がそこ(私の頭の上)だったらしく、何やら領域を侵されている気がするのだとか。……そう言えば昔、四六時中頭の上に綿毛が居た事を思い出す。遅ればせながらあれは君だったのか。そうかそうか。
その後も二人から『容易く身体を許しちゃ駄目』とか『警戒心を持つことを忘れないで』とか『慎みをもって』とか言われた。……私は貴族のご令嬢か何かかな?
まあ、各自に思う所はあったらしいが、暫く魔法の練習がてら白い兎さんを何度か呼び、一緒にご飯とかを食べている内に、次第にエアも火の精霊も兎さんと仲良くなってきたので良かったと思う。
エアからは、もっと強い、例えば羽トカゲなんかを仲間にして召喚したりはしないのかとも尋ねられたが、申し訳ない。
それだけは無理だろう。仲良くなれる気が微塵も湧いてこないし、私の人生経験にはあいつらは『発見次第倒せ!』と記されているのでこればかりは仕方がない。
……そもそも、仲良くないと召喚出来ないと言う感覚があるので、幾らここで【召喚魔法】を使っても──
──ドギャアアアアアア!
「…………」
「…………」
──アアァァァ……ァァ……ァ…………。
……ふぅ。何かが出かけたようにも見えたが、魔力を切ったら帰って行ったので問題はない。
傍にいるエアや精霊達からはジトーっとした視線が向けられてくるが、きっと気のせいであろう。そんな目で見ないで欲しい。
──それは、かつての冒険者時代に敵わないと思って、私が逃げ出した時の羽トカゲの一体であった。
あの頃はまだ冒険者としては駆け出しの頃で、その時は勝てなくて逃げ出したのだが……そうか、奴もまだ生きていたのか。
でも、まさかそんな相手が本当に出てくるとは思ってもおらず、正直びっくりした。
……これはもしかして、召喚とは『強敵』と書いて『とも』と呼べちゃうタイプの、相手の力を互いに認め合っている場合でも、相手が受け入れれば召喚が出来てしまうのだろうか?そんな気がする。
なんて危ない魔法なのだと私は思った。
特に私からすると、強敵が意外と生き残っているし、逆に強敵しか生き残っていない。
それにそんな者達を呼んでも、使えば必ず自分の召喚したものと戦わなければいけないので、召喚を使う意味があまり見いだせない。
──結局、そんな訳で折角覚えた【召喚魔法】ではあったが、兎さん専用の魔法として私達の間では認識される事になるのであった。
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