第145話 雪。
私達は雪山へとやって来た。
これまでも雪の降り積もる所は見た事があるが、今回はその中でも一番に積もっていると言える。
そんな厳しい環境に居る今日の私は、雪山に迷い込んだ白い雪ダルマだ。
エアに寒くない様に服を何枚も着せられたので少々動き難いが、まあ色々な意味で温かいので今日はこの状態で過ごしたい気分である。
隣のエアは私が寒い季節用に作ったいつものデザインの服(耐寒用)を着用して私の手を引きながら、目を輝かせていた。『ゆきだーー!』と一面の真っ白い世界に心を躍らせているのが声からも分かる。
一歩一歩新しい雪の地面に私達の足跡が刻まれていく。
この一歩ずつが私達の冒険の証の様にも思えた。
エアはまだ誰にも踏まれていない部分だけを的確に狙って歩いている様だ。楽しそう。
エアの髪はここに来るまでに段々と青へと変わっていたが、そうすると自然とその足は雪の上を滑らかに移動できるようになってしまう為、踏みしめて後が付く感覚が味わえないからと、今日は半分だけ青い『半青エア』状態になっていた。ただ、これまたエアはどんな髪色でも良く似合ってしまうのだ。綺麗だと思う。
そうして、念願の雪山に来れたエアなのだが、さてさてここでいったい何をしたいのだろうか。
最初の話では剣闘士達に雪山の良さを熱弁されて興味を持ったらしい。
既にここに来るまで、魔法での飛行も含めて小一時間程は私達は雪の中を進んでいる。
その雪が段々と深くなるにつれ、エアは足跡つけたり、思う存分走ったり、転びまわったり、握ってボール状態にしては精霊達と投げ合ったり、大きな雪玉を転がし作って雪ダルマ状態の私の隣に並べては『ふくくっ、可愛い!』と言って笑ってみたりと、色々と満喫していた。とても楽しんでいるようで来て良かったと心から思う。
エアは自然と自分のやりたい事を消化して楽しんでいるらしいので、とりあえず白い雪ダルマも自分で雪を素材に氷の家を作り、その中へと入って少し熱めに入れたお茶を飲んでホッと一息ついてみる。こういうのも一つの楽しみ方だろう。はぁぁ、しみるぅ~。
暫くすると、家の中にエアも入って来て、一緒にお茶を飲んで一休みする。二人でホッとした一時を過ごした。
途中で、雪山にいた大きな熊とエアが『がおおぉぉぉぉ』合戦をして見事エアが勝利したり、たまたま雪の中から現れたつぶらな瞳の白い兎が、何を勘違いしたのか白い雪ダルマ(私)の上に登ってきたりしたので、それを皆で観察したりもした。
エアが倒した熊さんは冒険者として最低限の処理である解体をして、毛皮と可食部分に分けて、可食部分は氷の家の中で焼肉にして食べた。
毛皮は次にギルドに行った時にでも換金して貰うつもりである。……ついでにこの近場にある素材になりそうな物も幾つか採取しておくとしよう。
一方、兎さんは暫く白い雪ダルマの上に乗っていたのだが、エアが『ロム、この子は逃がしてあげよう?』と言って逃がしに行ってしまった。……別に隠れて動物を持って帰り飼うつもりも無い。ただあの子が勝手に雪ダルマの上に乗って来ただけなのである。
だが、そんな私の言葉に、エアは少しジトーっとした顔をして見つめてくる。
あの顔はきっと、『雪だるまが白い兎を頭に乗せたまま連れ帰ってペットにでもするつもりだ』と思ったに違いない。
……でもまさかそんなそんな。白い雪ダルマにそんな気はサラサラ無いのである。エアの勘違いだ。
え?白い兎の傍に置いてある野菜スティックは何なのかって?……さて、なんなのだろう。白い雪ダルマもびっくり。
きっと恐らくたぶん、白い雪ダルマの腕代わりに付けていたお野菜スティックが、白い兎さんの目に留まってしまっただけだろう。こやつめー、中々に目利きの良い兎さんであった。
そのお野菜は精霊達特製なので滅多に食べられない逸品揃いなのである。良く味わって食べて欲しい。……達者で暮らせよ。
「…………」
……帰ったら、今まで使った事が無かったけれど、【召喚魔法】にでも挑戦してみようかと、ふと私はそう思った。他意はない。
──その後、天気も一日ずっと良いままだったので幸いであった。
山の天気は崩れやすいものと聞くので、吹雪になったりもせずに、今日は一日晴れのままである。
そして、のんびりと雪山で遊びつくした私達は、帰りは白い雪ダルマの背中にエアをおんぶしたまま、木でできたソリに乗って、一緒に麓まで滑り降りて帰っていった。
細かな進路変更は魔法を使えばお手の物だし、崖や木にぶつかりそうになったらソリのまま空を飛んで回避したので、ほぼ減速一切なしのまま真っ直ぐ突っ切ってかなりの時短になったと思う。
『きゃあああああああーーーー!速いーーーーーーーーーー!』とエアも大変喜んでくれていた。
……こういう穏やかなのが、やはり私は好きである。
今日は、エアも私も精霊達も、皆大満足いく一日であった。
──だが暫くして、その山には怪しげな雪だるまの怪物がソリに乗って女の子を攫いにやって来ると言う、まことしやかな噂が流れるのであった。……私達も次回からは気をつける事にしよう。
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