表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
143/790

第143話 短慮。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。また作中の登場人物達の価値観も同様ですのでご了承ください。



「思ってたよりも静かだね」



 一日は向こうでのんびりと皆で休み、二日後となる日。

 私達がギルドへと報酬を受け取りに行くために【転移】で元の街へと戻ると、そこはいつもの通りの日常を過ごす人々の姿のみがあった。


 どうやら騒ぎは早々に収まったらしい。

 まあ、魔力で探知してみると、騒ぎの場所は既に民衆達からは離れ、今は貴族達同士での罪の擦り付け合いの方にシフトしているようだと私は感じ取った。



 罪を白状した簒奪者は、早々に民衆の目の前で処刑したと言うのだから、本当に貴族たちのこういう部分の果断さは凄まじいものがある。


 まあ、長く生きていれば彼らにとってはそれほど厄介だったのだろうが、まさか一日で全てにケリをつけるとは思わなかった。

 彼らにとって命とは、もしかしたらある意味では兵士や冒険者達以上に儚いものなのかもしれない。

 それは本当に意味があったのかと、本当にそうしなければいけなかったのかと思わずにはいられない。



 ……まあ、気にしてもしょうがない事は、あまり考えないに限る。

 幾ら疑問を並べた所で、彼らは変わらない。

 それが己の正義だと思っている者達に、別の正義を持ち出しても一切響かないのだ。

 戦争の理由と一緒である。

 こちら側が正しい、向こうが悪なのだと。

 互いがそう思い合っているからこそ、争いがおこる。


 外から見れば、どっちも一緒なのだがな。



 そうこうしている内に、私達はギルドへと辿り着いた。

 ギルド内も一見して普通のままで、何も変化はない様に見える。平穏だ。


 ……うーむ。私のこれまでの長き冒険者人生の勘が疼くのだがな。

 こういう時には何かが起こる、何かしらの面倒に巻き込まれると。


 とりあえずは、いつも通りに『新人用窓口』へと行き、私達は受付嬢に話を聞いた。



 すると──



「──あの、大変申し上げ難いのですが、お二人には、その、騎士団からの召喚がかかっておりまして。現在当ギルドとの取引の一切が禁止されており、召喚が終わるまでは出来ない事となっております」



 ……ほう。なるほど。そう来たか。

 これは明らかに私達が不利益を被りそうな面倒事だが、こういう場合はギルドが対応するのではないのだろうかと、私は一応受付嬢に尋ねてみた。



「──あの、本来はそうなのですが、どうやらお二人に罪人の容疑がかかっておりまして。向こうの話によりますと、お二人が溜め池に貴族家の者を殺して突き落としたのを見た、と言う人から告発があったらしいのです」



 ……ほうほう。なるほど。流れも見えたな。

 それに、ギルド側としては本当に罪人であれば庇う事が出来はしないが、それまではこちらへの協力を惜しまないと言う事なのだろう。受付嬢は明らかにそのつもりでこちらへと全てを話してくれている。

 目を見るとどうにも彼女にも憤りが見える……おそらくは現場判断で、私達に力を貸してくれたのか。ありがたい。


 実際、本来はこの件は完全にギルドが介入してしかるべき案件であろうに、それが無い事を鑑みると、ここのギルドも上の方は貴族達との太い繋がりでもあるのだろう。

 『一介の白石冒険者』よりも『権力をもつ貴族家』と懇意にしている方が、ギルドとしても利が大きいと判断したのだと思う。



 ──だが、愚かな事だ。相手を間違えたな。

 私は今この瞬間に、これを認識し、契約が侵されている事を知ってしまったぞ。

 つまりは、契約は破られた──



「──きゃああああああああああああッ!」



 その瞬間、複数階になっているこの建物の上層の方から、(つんざ)く様な女性の悲鳴が建物中へと響き渡った。

 周りの者達はいったい何が起きたのか分からず、皆驚いている様である。

 目の前の受付嬢もその悲鳴に驚いて上層へと視線を向けているが、その様子を確認しに行った者達から何があったのかを聞かされると急に慌てだした。



「ギルドマスター達が、いきなり──」



 ──と、まあこればかりはもうどうしようもない。

 私も魔力で探知したが、どうにも契約を破ってしまった事でギルドの上役数人が少し言葉では言い表したくない状態になっているようであった。……あっ、エアさん、それ以上は視聴禁止なので、探知に使っている魔力を吸収させて貰います。


 私は隣に居るエアから、スーっと魔力を吸い取って、今だけは探知不可にした。



「あっ!ロムッ!……もうっ」



 するとエアは直ぐに私の方をバッと向いて、頬を膨らませている。ほっぺを膨らませても今回はだーめ。駄々をこねてもだめです。この手のはまだ早い。



 ……はぁぁぁ、と思わず私もため息が出る。

 当然だ、こんな事誰もやりたくてやったわけでは無いからである。

 契約さえ破らなければ彼らが酷い目にあう事など無いのだ。

 それに、これは大変私達的には望ましく無い展開であった。



 恐らくは、今回は例の簒奪者のせいでそれ以外の周辺の貴族家にも不審の目が広がってしまったのだろう。なので、それが広がるのを防ぐ為の技の一つとして、彼らは私達を『スケープゴート』に、所謂『身代わり』に選んだのだと思う。



 民衆の不審の目を分散させるのが目的で、『貴族家の不祥事』と言う問題を、『貴族の人間を冒険者が殺した』と言う、より耳を引かれる問題で覆い隠して、目立たない様にしたかったのだと思われる。

 きっと罪を被せるだけならば誰でも良かったのだろう。


 それに、老執事と少女が落ちる所を貴族家にちゃんと認識させる意味もあって、彼らを監視していた者を排除せずにそのままにしておいたのだが、あの時私達が彼らの傍に居た事を丁度よく使われたと言う訳である。証人と言うのもその時の監視役だろう。



 まあ、彼らがよく使う手の一つだと私は思った。これに対する動揺は全くない。


 自分達をよりよく見せる為に、他者を攻撃し、粗を突き、その価値を下げる。

 そうする事で、結果的に自分達の価値を相対的に上げたり、自分達が下がるとしても相手も道連れで下がっているので、イーブンを保つのである。……本当にどうしようもない。


 それを見せられる民衆の気持ちになってみて欲しいものだ。

 国や街をまとめる立場の代表者である為政者達が、互いの足を醜くも引っ張り合い、目も当てられない様な行動ばかりをとっているのである。……本当に本当にどうしようもない。



 それが国の為、街の為、ひいては民衆の為であると、そう宣う彼らは厚顔無恥にも程があるだろう。


 特に、こうして生贄よろしく巻き込まれた私達は、一番の損だ。

 何も得をしないどころか、報酬も受け取れないし、この後の展開も大凡良くない事ばかりなのである。



 どうせこの後騎士団などに出向いても、貴族たちの直轄である彼らの事だ、力業でどうにか私達へと罪を認めさせようとしてくるのが、行く前からもう目に見えている。……経験談。

 それも少しでも彼らに抵抗すれば、その途端に犯罪者扱いなのだろう。……経験談。

 そうして最終的には、その犯罪者を追う為に国を挙げて襲い掛かって来るのである。……全部、経験談なのだ。



 ……本当に勘弁して欲しい。だから、奴らは大嫌いなのだ。関わりたくないのだ。

 そもそも彼らは好き勝手やり過ぎだ。いっそ遊んでいる様にすら見える。


 だが、そうした遊びがいつでも、誰にでも、通じるなどとは思わないで欲しい。

 相手を見誤ると、このギルドマスター達の様に痛い目を見る事になるのだと、ちゃんと理解して欲しい。



「…………」



 ──よしっ、知ってもらおう。こうなったらとことん知って貰おうではないか。



 と私は突然そう思い立った。

 そうして、私はエアを引き連れて、受付嬢に教えて貰った通りに、騒然とするギルドを抜け出して、騎士団がいると言う指定された場所へと向かう。



 そして、まあ、その後の展開は先ほどの私の想像通りになった為に割愛するが、そんな彼らにもまやかしを掛けて洗いざらい白状して貰って、彼らにそう命じた者にもまた、まやかしをかけた。


 そうして次々に、少しずつ上役の者へと辿り着ける様芋づる式にどんどんと白状して貰い、出てきた貴族や関係者、終いにはこの国の王にまで辿り着き、そんな皆に全てを白状してもらったのである。


 まあ、それら全員が埃だらけだったのには、流石の私も驚くしかないが、やりきってやった。



 ──だが、その結果、当然この国は一時的に大混乱に陥った。



 一応、まだ志が高く真面だと思える者達は確保しておき、国の運営は滞らない様には整えた。

 私がした事は甘い汁を吸う事だけしか考えて無い者達をそっくりとそのまま挿げ替えただけである。

 新国王も誕生した。おめでとう。

 だが、まさか例の簒奪者の行っていた実験やら薬やらが、密かな国家事業だとは思いもしなかった。

 ……もうどうしようもなさ過ぎるだろう。





 『はぁぁぁぁ』と、その日一番の溜息を吐いた私は、気づいた時には宿に戻ってきていた。

 何だかんだ、これらも一日で終わらせたので、精神的に凄く疲れたのである。

 というか、こんな事を何日もかけてやりたくはなかった。


 それに、まやかしを使いすぎて、流石の私もどことなく気分が悪いし、頭も痛む。

 今は少し寝たい。



「ロム、だいじょうぶ?」



 そんな私の隣にずっと居てくれたエアが、心配そうな顔で私を見ている。

 ……ああ、私なら大丈夫だ、エア。

 本当ならば、ここで笑顔の一つでも浮かべて、エアに笑いかけてあげられれば、そんな心配そうな顔をさせなくても済んだと言うのに……この不愛想な顔は本当に恨めしい……。

 

 だが、エアの顔を見れただけで、私は十分に、いやされ……て……。



 ──ドタンッ。



「ロムッ!?」



 とその瞬間、私の身体はふらつき、そしてどうやらそのまま意識を失って倒れてしまったらしい。



 ……それは、約数十年ぶりの珍事であった。


 


またのお越しをお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ