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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第142話 通。




 エルフの青年達が拠点として借り始めた家──屋敷に、私とエアは一晩泊まらせてもらった。



 少しの間ではあるが、離れている間に青年達も随分と良い表情をする様になったものだと感じる。

 そして私達は今、老執事の作ってくれた料理を皆で食べながら、色々と話合っていた。


 今後はどうするのか、どうしていきたいのか、話は専らそんな普通の未来の事だ。

 明日も見えなくなっていた彼らが、そんな風に数年先の未来を見据えられるまで前を向けている事に、私は幸いを覚える。


 偶然の出会いであったが、出会って本当に良かったと思った。

 失われずに済んで良かった。


 ……そう言えば、彼らには一つだけ伝えていなかった事がある。

 まあ、それ自体は大して面白い話ではないのだが、後で老執事にはそれを伝えておこう。



 それが何の話かと言えば、彼らを傷つけた者達のちょっとした末路についてであった。

 おそらくは、彼らの家を簒奪した者達なのだとは思うのだが、今頃彼らはもう貴族の社会からはみ出してしまっていることだろう。

 幾らなんでも彼らはやり過ぎたのだ。私も見過ごしてはおけんよ。


 ……という事で、いつものお決まりの手法ではあるが、遠隔でまやかしをかけて、既に叩けば埃がボロボロと出るだろう彼らに、自分達から今までに行った罪悪の全てを公衆の面前で全て白状していただいたと言う訳である。


 そしたら、驚く事に埃が落ちるどころか、彼らは埃そのものだったらしく、色々と国の情報を売り渡したり、自分の領地の民を魔法の実験体にしていたり、危険な薬物やらなんやらの栽培や使用など……ほんと、数えきれない程出て来てしまったらしい。



 あの街は今、蜂の巣をつついたような騒動の真っ最中だろうと思う。

 なので暫くはこっちに「……ロム、雪山は?」──いようなんて思ってはいない。

 もちろん、忘れてもない。



「それと、今回のお仕事の報酬は?」



 あー、そう言えばそんなのもあったな。

 あの時は、エアと老執事と少女の事を考えながら、その貴族家の者達にまやかしを掛けてもいた為、水道の管理している者達とのやり取りは少しおざなりになってしまっていた。

 だから、エアのおかげで思い出せて本当に良かったと思う。ありがとうエア。

 ……彼らとのやり取りが今日の事だったから、明後日にギルドに確認に行けば問題ない筈だ。



 だが、現在凄い事になっている騒がしい街に行く、というのを考えると少々億劫になる部分がある。

 なんだか余計な出来事に巻き込まれそうで、こういう感覚の時にはあまり近づきたくない。……これは経験則である。



「でもロム、わたし浄化がんばったけど……もう忘れちゃった?」



 ──よしっ、なにを犠牲にしてでも、例え国を相手取ったとしても、エアの報酬はちゃんと受け取りにいくぞ!面倒事?どんと来いッ!折角のエアの頑張りを無駄には出来んッ!!



 幾ら忙しかったとは言え、エアが一生懸命やったことを私がなかった事にさせるわけがない。

 だから、そんな落ち込んだ顔はしないで欲しい。大丈夫だ。ちゃんと一緒に行こう。



「……ふははっ、あっ、いや、これは失敬。ですが、あなたのおっしゃっていた事が少しわかったような気がしまして」



 私とエアの会話を聞いていた老執事が突然口元に手をやって笑い出した。

 どうやら、彼の言によると、私達を見ている事で、自分と少女の関係がなんとなく分かったのだとか。

 それに、家族と言うのがなんであるのか、親子というのがどういう距離感なのか、普通というのがどんな感じなのかが、何となく見えた様な気がしたのだという。



「わたしは、それほど難しく考えなくても良いのでしょうね」



 そういう彼の表情は最初見た時と同じような優しい眼差しに戻っていた。

 そう。それでいいのだ。

 特別な事は何も必要ないと私も思う。

 人を思いやる事に複雑な理由なんて要らない。


 ただ、『大事にしたい』と想うその気持ちがあれば、きっとそれだけで十分なのである。



「鬼人族のお嬢さんがあなたに向けるその目でわかりました。うちのお嬢様と同じ位、お優しい瞳をしていらっしゃいます。きっと、とても思いやりのある方なのでしょう」



 そうだな。うちのエアはとても優しい上に、思いやりがある。

 もちろん少女も良い子だとは思うが、うちのエアもそれに負けないくらいに良い子なのだ。



「ええ、ええ。わかりますとも。それにお嬢様はとても優秀で頑張り屋なのですよ」



 同じだ。実はうちのエアも──



「じいじっ!もうやめてっ!」


「ロムッ!子ども扱いしないでってば!」



 ……おやおや、これはどうしたことでしょう。

 私達はただただ幸せな会話をしていただけだと言うのに。


 エアと少女は揃って顔を真っ赤にし、急に怒りだしてしまったではないですか。

 『あらら、これは困ってしまいましたね』と、私と老執事は揃って肩を竦めて、そんな彼女たちを微笑ましく思うのであった。




またのお越しをお待ちしております。

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