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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第140話 作様。



 ──翌日。『水道処理』本番の日。



 今日は一日かけて街を歩いていき、最終的には街を出て大きな溜池迄浄化をかけていく予定である。

 本当は街の下にあるというその水道の傍の道を歩きながら、詰まっていたりすれば泥を掻き出して流れを良くしたり、魔法を使って押し固めてあるというその水道の側壁や天井が経年劣化で崩れたりしていないか等を気をつけて観察しなければいけないのだが、そこはもう魔力の探知で調べ終わっている為、歩きつつ浄化をかけていくだけにしてある。



 今回浄化をかけていくのはエアに任せた。

 本人がやりたいというので、見た目は普通に地上を歩いたまま、エアは地面の下を探知していき、常に的確な浄化を使っていくという作業をしていく。

 汚れの程度によって浄化の魔法は魔力を多く使うので、考え無しに使っていたら訓練でだいぶ魔力を増やしたエアと言えども、直ぐに魔力が底をついてしまうだろう。

 その汚れの箇所に適した魔力量になる様に、常に節約しながら魔力を調節していく必要がある。

 これも結果的にはかなり厳しい訓練になる筈だ。

 普段の練習の成果の見せどころでもあるので、エアの表情はいつになく真剣であった。



 街中を凄く真剣な表情で歩くというのは意外と異質なものの様で、不愛想な私と並んでいると、本当に私達はこれから何かの最後の決戦に挑むかのような雰囲気を醸し出しているのか、人々は自然と目の前の道を開けてくれた。……どうもすみません。ありがとうございます。



 本来は何日もかけてやる作業であることは確かなので急がなくても構わないのだが、私はあえて今日までと期限を決めて溜池迄到着する気である。

 この位ならば、一日で出来るとエアの力量から判断したスレスレの課題でもあるので、少し高めに設定したこの目標を是非ともエアにはクリアして欲しいと私は思った。

 そんな私の出したその課題に、エアは今真剣になって応えようとしている。

 がんばれ。がんばれ。



 そんな私の気持ちが通じただろうか。

 時たまに、エアは私の顔を見ると、また『よしっ!』と言って気合を入れ直しては頑張り続けていた。……さて、私もそろそろ応援だけではなく、色々と動くとしようか。







「ロム、あれって……」



 結局は夕暮れ間近になり、エアは街中と、溜池間近までの水道の浄化を終わらせた。

 課題はほぼクリアだと言えるだろう。よく頑張ったなエア。

 実りの季節の終わりも終わりのこんな季節に、ここまで額に玉のような汗を浮かべて魔法を使っているのはこの街ではエアだけかもしれない。

 額以外からなら、この先にいる人物の方がそれに適しているかもしれないけれど、それはとりあえずは置いておこう。



 溜池までは十メートルもないだろうか。

 既にここからでも、私達の目には濁った大きな水溜まりの姿が目に入ってきた。

 これら全てを浄化しきるのは、少々今のエアには辛いと思うので、ここから先は私が担当する事を提案する。



「──えっ、ろむ?だいじょうぶ。わたしまだできるよ!」



 エアは最後の溜池を見ても、充分に浄化できる分だけの力は残していた。それは私も感知してわかってはいる。

 だが、ここだけは今までとは少し様子が違うのである。ただ溜池の水を浄化すればいいという訳にはいかなかった。


 だから、私はエアにここだけは自分に任せて欲しいとお願いした。

 既にここまでできただけで、私からの課題もいつも通り満点なのである。



 エアは、そんな私の微妙な物言いに少し異変を感じたのか、少し不思議そうにしながらも頷いてくれた。

 溜池は実際、かなりの汚れを孕んでいた。これまでは浄化をかけると言っても水質が多少良くなるだけで、この大きな水溜まりの全部浄化できてはいなかったのだろう。

 だから見つかって来なかったという理由もあったに違いない。



 だがしかし、水底には本来あってはいけないものが幾つも沈んでいるのが私には視えていた。

 エアは力を少し使いすぎていた為、私の思惑通りそこまでは視えていなかったらしい。

 ……あまり良くない光景だったので、見せたくはなかったのだ。思惑通りにいって良かったと思う。





 都合の悪いものは沈めてしまう。隠してしまう。

 この溜池はそんな事の為に作られたわけでもないだろうに……。

 私は、水底で『石持』になりかけていた多くの者達を、一度に浄化しきった。



 ダンジョンの中でもないし、数が多かった事で淀みが分散され発覚が遅れただけではあるのだろうが、街へと『石持』が発生するなんて事態にならなくて本当に良かったと私は思っている。


 『……ロム?』と、私へと向けてエアが説明して欲しそうな顔で見つめていた。

 私はそんなエアに、少しだけオブラートに包んで説明する事にする。

 『ここには、大勢の死んだ人がこの溜池に沈んでいたのだ』と。……オブラートに包めていただろうか。私って本当に口下手である。



「そうなんだ……でも、もうすっかり綺麗だね」



 そう。そのエアの言葉の通り、溜池は少し強めに掛けた浄化によって、水底が少し見える位に澄んでいた。

 ただ、沈んだ者達はもう帰っては来ない。彼らも一緒に消えてしまった。


 夕暮れの日の光の中、溜池の水に映る日の光までもどこか悲し気に見える。


 そして、そんな溜池を見つめながら、私達よりも先にこの場へと来ていた者へと、私は声を掛けた。



「……どうしたのだ」


「…………」



 その人物は、最初何も答えなかった。

 もう答える気も無いのかと、私は再度声を掛けようかと思ったが、その瞬間に相手の方がこちらへと振り返り、姿勢を正して声を掛けて来る。



「もう少し早く。……ええ、出来る事ならばもっと早くに、あなた方とお会いしとうございました」



 その人物は、昨日出会った老執事であった。

 その目には初めてあった時の優し気な瞳のまま、頬には幾度も水が流れた後のみが残っている。


 そして、その腕の中では既にぐったりとしていて、動く気配の一切ない少女の姿もあった。



「なんで……」



 エアは後ろ姿で彼の事は気づいていただろうが、その腕の中までは感知できていなかったのか、彼が抱えている少女の状態までは理解ができていなかったらしい。

 エアは、その少女を見て、老執事を見て、私の顔を見た。



「なんでっ!」



 エアのそんな悲痛な声に、老執事は悲し気に瞳を閉じる。

 ……私には大凡の予想は立っていた。

 だが、私の口からその説明をするわけにはいかない。

 それは憶測だけでしていい様な話ではないからである。




「……お嬢様は、望まれてお生まれになったお子では、ございませんでした」



 ──暫くして、エアのそんな悲痛な問に答える為に、老執事が目を開けて語りだしてくれた時、その声は若干の震えを帯びていた。

 聞けば、当主の悪事によって家が没落し、爵位は降格、未だ何とか貴族とは呼べるものの、家人は使用人も含めて殆ど離散に近い状況になっていた──そんな時から始まる話である。


 悪事が発覚する前に当主が戯れで手を出したのであろう平民の女性の一人が、自分に累が及ぶ事を恐れて、老執事に身籠っていた子を放り出し、逃げ去って行ったのだという。

 元は伯爵の位にあった由緒ある家柄と言う事もあり、老執事は最後の一人になってもその血を絶やす事はあってはならないと、その子を一人で何とか育てて来たのだという。


 ただ、元伯爵ともなると親類縁者は多く、屋敷を含め残った財産はあっという間にそんな他家へと奪われてしまったのだとか。

 だが、それでも、老執事はその放り出された女の子だけは確りと守って来たのだという。

 最初は長年世話になって来た伯爵家への恩返しの為に。

 そして、いつしか気づけば、主である少女の事を心から大切に想うが故に。



 長年貯えた己の資産を使い、何とか貴族としての体裁を整え。

 少女が元伯爵家の庶子である事を、伝手と金を使って、爵位継承を放棄する事を条件に認知してもらい。

 なんとか貴族家に少女を戻す事には成功したのだという。


 全ては少女の幸せを願っての事。

 主に仕える生き方しかしてこなかった彼には、それ以外の道が分からなかったのだという。



 だが、折角戻ったにもかかわらず、少女と老執事には安寧とは程遠い生活しか残っていなかった。

 ……それは少女が魔法を使えなかったからである。

 恐らくは教育が遅れたことに問題だったのだろうと、それでも老執事は少女と二人で一生懸命頑張って来た。


 生まれの事で、少女に負い目を感じさせたくはなかった。

 立派な淑女となり、誰かに嫁ぎ、幸せになって欲しい。


 それが例え貴族の家に利用される道具扱いだったとしても、少女に『ちゃんと望まれた生まれ』だったのだと、彼女が生まれてきたことには『ちゃんと意味があったのだ』と、そう教えたかったのだという。



 『魔法が使えないのであれば嫁ぎに出すなど出来るわけがない。そもそも今年の間に魔法が使えないのであれば、その時は家からも出て行って貰う。嫌だとは言わせん。これは習わしだ』



 親類縁者からそう言われる少女を支え、何とか解決法を探し、色んな魔法使いの治療を受け、効果が出ずとも諦めず、それでも何とかと藁にも縋る思いで、市井の冒険者ギルドに足を運んだりもした。


 そして、そこで漸く出会えたのが──



「──あなた達だったのでございます」



 正直な話、少女も老執事も半ば諦めてかけていたのだという。

 今後の生活の為の資金も底を突き、もう明日も見えない状態に近かった。

 そこに現れたエルフに一筋の光は見たが、それでもまさか、本当に願いが叶うとは思わなかったのだという。



 あの時、老執事は神に感謝した。

 これまでの全てが報われたような気がしたのだという。



 ──だが、しかし、それも結局は短い夢でしかなかった。



 貴族家に帰り少女が魔法を使える事が知れると、祝いと偽って開かれたその日の宴の席で、少女は毒を盛られたのだと言う。


 ……結局の話、少女が魔法を使えるようになる事を望んでいたのは、老執事だけであった。

 貴族家は道具としてすら、少女の事を見てはくれなかった。

 それよりも、家の簒奪を目論まれては適わないと、少女はたった一日の喜びに浸る間さえも与えらず、命を散らされたのだという。



 己こそ真の簒奪者であろう現当主に、老執事は少女の亡骸を人知れず処理し、葬り去るようにと告げられた。

 これは家に余計な混乱を持って来たお前の罰だという。

 そして、その愚かな主を思うのであれば、お前も一緒に後を追えと、少女に盛られたのと同じ毒薬を渡されたのだとか。



 ……だが、その言葉は聞こえていたけれど、既に老執事の頭の中にはもう何も無かった。

 怒りも浮かんではこなかった。その思考を埋め尽くすのはどこまでも深い悲しみだけ。

 目に入るのは、毒でぐったりと動かなくなった少女の姿だけだった。



 それから先、どうやってこの場所まで来たのか、よく覚えていないのだという。

 この場所が、貴族たちの間で暗黙の了解としてこういう事に使われていた事を知っていたから、自然と足が運んだだけ。


 そして、老執事はそれからずっとこの場所で少女の亡骸を抱きしめながら、何がいけなかったのかを自らに問いかけ続けていたのだった。


 ……だが、終ぞその答えも出ず、夕暮れを見て、毒薬を飲み、夜と共に、少女と共に、この溜池の中へと身を投げるつもりだったそうだ。



「──まさか、最後に貴方がたにお会いできるとは、思いもしておりませんでした」



 エアは彼の話の途中で、私のローブにその顔を押し付けて泣いていた。

 『なんで』と言うその言葉だけが、幾度も幾度も私の胸元から聞こえる。



「お嬢様は、あなた方に感謝されておりました。いずれは必ずお礼に伺うつもりではあったのですが……亡き主人に代わり、深く、深く、お礼を……」



 老執事はそう言って、少女を大切に抱えたまま、ゆっくりと頭を下げた。



「……それに、もうすぐ日も暮れましょう。わたしもそろそろ主人の元へと向かわねばなりません。きっとあちらで、待っておいででしょうから」



 そう言うと、老執事は懐から薬包の様なものを取り出し、そのまま中の粉の様なものを口へと運んでいった。



「ロムッ!だめっ!止めないとッ!!」



 すると、それまで泣いていたエアが彼がこれから行おうとしている事を止めようと動き出すのが見えた。

 だが、私はエアのその動きを魔法で止める……。



「ロムッ!?」



 エアは私の事を信じられない様な目で見てくるが、私は彼の邪魔をさせたくはなかった。

 これは彼の望む事である。

 それを止めるのはいかなる理由があろうとも無理であろう。

 例え力ずくであの薬を奪おうとも、手足を雁字搦めにしても、あの行動を止めるだけでは、もはや何の意味もない。

 ……彼の心はもう、少女と同じ場所にある。



「なんでっ!ダメでしょ!ロムッ!!」



 エアは私がかけた魔法での拘束を、瞬間的に破りかけていた。

 だが、それでもまだ完全には解けてはいない。

 しょうがないので、今回はエアには少し眠っていてもらう事にする。



 そして、その間に、老執事は『ぐっ』と言う呻き声を出すと、最後に一目だけ少女の顔が見たかったのか、少女の顔に掛かっていた髪を手で除けると、優し気な笑みを浮かべて、その身は一緒に溜池の中へと深く深く沈んで行った。


 私は二人一緒に沈んでいく彼らのその最後を看取ると、エアを背負って、静かに溜池を後にする。

 ……悲しい事だが、私に出来るのはこれくらいしかない。

 私は、街へと戻ると水道の管理している所へと顔を出し『水道処理』の終了を告げた。

 一日で全てが終わった事に驚かれはしたが、魔法を使ったのだと言うと納得して貰える。



 結果は明日確認して、明後日にはギルドで報酬等の受け渡しになるというので、私はそれに了承し早々に宿へと戻った。



「……さてと」


 魔力で探知していたが、そろそろ私達への監視は切れた様なので、私は再び静かに動き出した。

 そして、宿の清算を済ませると私は寝たままのエアを連れて【転移】で、とある街へと飛んだ。








「──あっ、ロムさん。……おっ、エアさんは寝てるんですね。お客さんは今さっき起きましたよ」


「ああ、ありがとう。君達もこれから世話になる事だろうから一緒に来て欲しい」


「はいっ。すみません。ほんと色々としてもらっちゃって」


「いや、今回はたまたまだ。それよりも剣闘場の方は順調かな」


「はいっ、俺達みんな頑張ってますよ!あの、投槍を受け止める方法も視線はちょっと無理ですけど、他の魔法の種類を増やしたり、魔力そのもので受ける方法は今みんなで試してます。……ただ、ちょっとそのせいで日常生活が疎かになりがちで、ははっ、だから本当に助かります──」



 エルフの青年の一人が、嬉しそうに私へと話しかけてくるのに相槌を打ちつつ、私はその青年と一緒にとある部屋の中へと入って行く。


 するとそこには、先ほど溜池の中に沈んで行った筈の老執事と、彼に抱きしめられながら鋭い目つきであたりをキョロキョロと見回す毒を飲んで死んだ筈の少女の姿があった。


 そして、最後に私は部屋に入る直前に、エアの事を魔法で少し強制的に起こしておく。

 ……今、ちゃんと起こしておかないと、きっと後で不機嫌になるだろうから。




「──おはよう。皆、目覚めはどうかな?」





またのお越しをお待ちしております。



祝140話到達!

『10話毎の定期報告!』


皆様、いつも『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ』を読んでくれてありがとうございます。



ここ最近、着実に読んでくれてる方が増えてるのがアクセス数に出ております!

……誰か宣伝でもしてくれているのでしょうか?


もしそうだとしたら嬉しいですね。この場を借りて、心より感謝を伝えさせてください。

ありがとうございます。



油断せずに頑張って書いていきますので、どうか今後も応援し続けて頂けたら幸いです。



正直な話、頑張れているのはみんなのおかげというのが、かなりあります。

今日もまた、元気を沢山貰いました^^。いつも励ましてもらって凄く感謝しております。

誤字報告もありがとー><助かりますー。


そして、ブクマしてくれている三十八人の方々(前回から九人増)、

評価してくれている九人の方々(前回から一人増)。


おかげで、本作品の総合評価は162ptに到達しました!ありがとう!!


油断や慢心なく今後も頑張って参りまので、引き続き応援頼みます^^!



──さて恒例の一言にいきたいと思います!確りと言葉にして、届かせていきたい!


「目指せ!書籍化!なおかつ、目指せ!先ずは500pt(残り338pt)!」



今後とも、『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ』を、何卒よろしくお願い致します。


更新情報等はTwitterで確認できますので、良かったらそちらもご利用ください。

フォロー等は出来る時で構いませんので、気が向いた時にお願いします。


@tetekoko_ns

twitter.com/tetekoko_ns


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