第14話 人気。
2022・11・18、本文微修正。
「……じょうかぁ……?」
そして、私が最初に彼女へと提示した魔法は【浄化魔法】であった。
だが、それを聞いた彼女のテンションは一気にダウン。数秒前までのウキウキがまるで嘘だったかのように少し残念そうな表情。どうやら彼女が覚えたい魔法とはちょっと違ったのかもしれない。
しかし私は今の所これ以上に使い勝手のいい魔法を知らなかったのだ。
そもそも【浄化魔法】の習得難易度は高く。初心者が最初に覚える魔法に適しているかと問われれば間違いなく違う。
でも最初に覚えられるならこれが一番良いと感じる上、今の彼女にならば覚えられるのではないかと私は考えている。
ただ……。
「何か他に覚えたい魔法があったか?」
……それも本人が覚えたいという魔法が他にあるならば、そっちを優先させたいとも思う。
友曰く、『嫌々覚えるよりも好きな魔法の方が達者になりやすい』と言う話だ。
『自分が最初に覚えた魔法と言うのは、何か特別なものを感じる』とも聞く……。
まさに金言である。
「…………」
因みに私の場合は自分が最初に覚えた魔法が何だったのかを忘れてしまったので、残念ながら共感できなかった。恥ずかしながら友にそれを言われるまで考えたことも無かったので、『そんなものなのかぁ』と関心した記憶がある。
「なんでもいいの?」
すると、彼女は若干伏し目がちで、私を見上げながらそう返してきた。もちろんである。
「じゃあ!あのねっ!飛ぶやつがいいッ!あの、花のうえでやったみたいなっ!」
「……ふむ」
……なるほど。彼女が精霊の歌を覚えた時に一緒に飛んだが、あれが彼女の一番のお気に入りだったらしい。
確かに大樹の上からの眺めも良く、精霊達の歌も美しかった。彼女の無邪気な笑顔も最高潮に輝いていた記憶がある。
友の言葉通り、彼女もまた『最初の魔法』を特別なモノとして覚えたいのだろう。
「…………」
だがしかし『ほんとに【飛翔魔法】でいいのか?』と、私はもう一度だけ彼女に確認してみる。
「えっ、なんで?」
「ふむ。『天元』があるなら、【飛翔魔法】が無くても『風の魔素』を通す事で魔法よりも自由自在に空を駆けまわれるぞ?」
「…………?」
うむ。どうやら彼女は自分の『種族の特性』を忘れしていたらしい。
魔法を使うよりも余程簡単に、彼女にはそれを成す為の才能があるのだと。
私が彼女に【浄化魔法】が一番合っていると推したのも、実はその『天元』の存在が大きく関係しているのだ。
因みに、一般的に冒険者にあると便利だと言われる魔法の上位二つは【水魔法】と【回復魔法】であるといわれているが──その理由は、毎日水は必ず何かしらで使う上に、持ち歩こうとすると荷物がかさ張ってしまうから。また回復は冒険者は何かと怪我をしやすいから、と言う事情であった。
なので、あれば便利な【水魔法】と【回復魔法】はその内覚えて貰えた方が良いなとは思う。
ただ、これもまた『天元』があれば、鬼人族は周りの魔素を自分の力にし、暫くはその力だけで飲まず食わずのまま平気だったりする。
それに、体内の魔力循環で肉体を強化する際、意識すれば自然治癒力も高まっていくので彼らは怪我の治りも早い。骨折も数日で治る程だと聴いた覚えがある。
だから、現状そこまでその二つは急いで覚えなくても問題は無いだろうと私はそう判断した。
「うん。だいじょうぶ」
その点は彼女も賛成らしい。
「じゃあ、火は?」
「ふむ。火か。火はあまり、お勧めはできない」
と言うのも、私の冒険者時代。
時折、新人の冒険者で『【火魔法】は最強だ!絶対に使える!必須に違いない!』と言って突っかかってくる者達が居たけれど、そんな事を言ってくる者達は本当の冒険をした事がない『夢見がちな田舎者』として、私達の時代では皆から三流扱いされていた。今も同じかは知らぬ。彼女はまだ冒険者になる前なので大丈夫だ。
因みにその理由としては、冒険者をやってみればわかる事だが、実際に【火魔法】を使おうと思っても、夜営の時に焚き木に火を点けるくらいで、その他に使える場所が殆どないからである。
「……殺傷能力が高すぎるのだ」
【火魔法】は基本的に、燃えやすい物が多い森や街中では絶対に使用不可。
ダンジョンなどの狭い空間で使えば自分も窒息などで被害を受ける。
殺傷力だけは無駄に高いものの、冒険者はだいたいが獲物の素材を金に換えて生計を立てているので、使えばその素材に傷をつけ価値を下げてしまう。それこそ、火打石を一つ持っていれば夜営の時にも必要ないので使い所が本気で無い等々……。
『ただ派手でカッコつけたいだけの魔法』として、冒険者の間ではあまり人気がなかった魔法であり、それを『知らぬ者を炙り出す』位した意味をなさないのが【火魔法】さんの実状なのである。
……ただ、『冒険者』には人気がないだけで、『とある職業』では【火魔法】の使い手が大人気だったりもする。
「それが何か、わかるか?」
「んー?……ううん」
「実は、兵士だ」
「へいしかぁ」
……そう。殺傷力はあるのだから、それを最も活かせる場所で使う。それは当然のことだった。
「まあそう言う理由もあってか、私の時代では、冒険者になっても暫く【火魔法】が大事だとか宣う者には、必ず周りの誰かが『ド三流が!冒険者やめちまえ!』と言ってあげる。それが冒険者なりのルール……というか、優しさみたいなものだと言われていた。覚えておくと良い」
「うんっ!」
良い返事である。彼女は物覚えも良いので絶対に忘れはしないだろう。
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