第137話 黄。
エアの涼しい所にも行ってみたいという言葉もあり、私達は実りの季節の方の『お野菜イベント』を終えた所で、また旅に出る事にした。
とりあえずは、今居る大陸のまだ行っていない方面に向けて歩き始める。
この大陸にだって、まだ行っていない場所は数多くあるのだ。
様々な国がここにはある。その国にはまた数えきれないほどの人達が生活している。
街や人は、絶えず変化をし続けている。
少し見ない間に変わったものが増えているのには、何度驚いただろうか。
行ったり来たりを繰り返す事になる私達の回り道の旅は、そう考えると絶えず何かを発見する事になり、もしかしたら果てなどないのかもしれない。
そうだとしたら、それはとても素敵な事だと思った。
森を歩くエアの足取りは軽快だ。まるで跳ねる様に森を進んでいる。
というか実際に跳ねていた。地面と木の高さを行ったり来たりと楽しそうに進んでいるのだ。
緑色の綺麗な髪を日の光に輝かせ、エアはその状態でも、私が時々発生させる水球へと向かっては的確に風を発生させて破壊していた。だいぶ慣れて来たと見える。
そろそろ、また一つ難易度をあげるのもいいかもしれないと私は思いながら、そんなエアの少し後方の木々の上でプカプカと浮かんで追いかけていた。
実は鬼ごっこも兼ねているので、エアは一定の速度で追いかけている私に追いつかれない様に、ひたすら飛び跳ねマラソンをしているのである。
「ははっ!いやーー!ロムが速いーーー!怖いーーーー!」
聞く人が聞けば、色々と勘違いを受けそうな発言内容だが、エアは満面の笑みで楽しそうに逃げていった。
私達の旅は良く考えると、あまり普通の旅人の要素が元々少ないような気がしないでもない。
だが、これが何気に良い練習になるのだから、やらないという選択肢はないだろう。
「ふぁーー、つかれたー、捕まっちゃったっ!」
暫くして、疲れたエアは私の背中で休みながらそう言った。
『中々の逃げ足だったぞ』と私は一応褒めてみる。
だが、ちょっとだけ良い褒め言葉ではなかったかもと、言ってる途中で私は少し思った。
未だに『褒める』は地味に練習中なのである。まだむずかしい。
ただ、そんな私の不器用さにエアの方が慣れてしまっているのか、そんな言葉ながらも気持ちだけは十分に伝わったくれたらしく、エアは嬉しそうに笑っている。
『ロム、これ楽しかったからまたやってね』とお気に入りの訓練の一つとしても登録されたらしい。
涼しい方へと向かっている私達だが、これからは実りの季節が終わると寒い季節にもなる。
なので、一旦別の国の街を経由して、雪がそこまで降り積もらないその街で、冒険者として少しだけ活動しながら芽吹きの季節を待つ事にした。
また以前の『海の見える街』に向かっていた時の様に、雪降る中を飛んで進んだり、エアに『青エア』になってもらいゆっくりと雪上を進んでもいいのだが、私達は良くても他の人達が雪の時はあまり活発に動かないので、冒険者としての斡旋も中々ないのである。
雪の多い地域の冒険者達も、基本的に寒い季節はお休みが多くなるか、ダンジョンのある街だとその中で活動する者ばかりになるのだ。
私とエアは既に大樹の森で休みは十分にとったし、ダンジョンに行くのも剣闘士として別の街で戦いをして過ごすのも楽しくて魅力的には思うのだけれど……やはり私達の場合、街中と言えばまず頭に来るのが『お裁縫』の様な仕事で、そこの街の人達とのんびりと過ごす方が性に合っていると感じる。
──なので、雪が積もらない手前の地域の街へと到着した私達は、早速そこのギルドの中へと入って行き『新人用窓口』へと歩を進めた。
ここはまた別の国であるので、"とある部分"に気をつけなければいけないのだけれど、まあそこにさえ注意すれば、普通に冒険者として過ごす分には凄し易い国の一つであった。
私達はいつも通りに受付嬢へと天気等の話をしながら、報告をし、この街で芽吹きの季節までは過ごす予定の為、何かちょうどいい斡旋先は無いかと尋ねてみる。
聞けば、この時期の短期間の斡旋は肉体的に人があまりやりたがらない仕事先は数多くあるそうで、意外と冒険者達は引く手数多であるそうだ。
街中の配達したり、外壁の石を運んだり積んだり、『お裁縫』の仕事もある。
選り取り見取りではあるが、さてなにが「ねえ、あなたエルフでしょ?」良いだろうか。
「……ん?」
受付嬢の話を聞き、エアと相談しながら今回はどの斡旋先を紹介して貰おうかと思っていると、私達の背後からは、そんな子供の声が聞こえて来た。
私とエアが振り返って見ると、そこにはいかにも派手派手な格好で、お嬢様然とした金の巻き髪のキツイ目付きの女の子と、その傍に控える黒い執事服を着た老年の優しそうな男性の二人組がいたのである。
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